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REITの決算短信は新型コロナウイルスをどう見ているか?(2020年1月~3月)

新型コロナウイルスの影響が世界経済に深刻な影響を与えています。日米の株価はひところの乱高下こそ収まりつつあるものの、未だ暴落前の株価水準は取り戻せていません。J-REIT市場においても3月の暴落後から持ち直しの動きは継続しているものの、暴落前の価格を回復するには至っていません。

今回はJ-REITの全銘柄に着目し、決算短信に現れた新型コロナウイルスに関する記述を紹介します。すべてのリーター必見です。

決算短信とは

投資家にとってはおなじみの決算短信。決算短信とは上場している会社が東証などの取引所を通じて公表する決算書類のことです。

決算短信には決算数値のような定量情報だけでなく、当期の状況やリスク情報、翌期の経済見通しといった、数値では表しにくい情報(定性情報)が含まれます。

決算短信は、経理やIRを担当する部署の実務担当者がその内容を作成し、部門長、そして財務担当役員(CFOやIR担当役員)のレビューを経て、最終的に取締役会で承認され公表されます。

決算短信は会社が発表する究極の「公式情報」ですので、作成担当者をはじめ部門長や財務担当役員はその言い回しや内容など、かなり細かいところにまで気を配るのが普通です。

また、決算短信の発表には期限が定められており、経理やIR部門は大忙しになるため、担当者・部門長・担当役員が雁首揃えてあーだこーだと議論しながらギリギリまで文言の言い回しや内容、何を書く・書かないといった点を詰める作業が繰り返されます。

以上から、決算短信の内容には、発表日にかなり近い時点までの状況が盛り込まれます。その意味で、決算短信の発表日時点で最新の情報が盛り込まれたフレッシュな見解と考えて差し支えありません。

新型コロナウイルスに関する記述

この記事では全J-REIT銘柄の決算短信を分析し、新型コロナウイルスに関する記述を紹介します。今回は2020年1月~3月に発表された決算短信が対象です。各REITが新型コロナウイルスをどのように見ているのか。ご注目ください。

■2020年1月

1月の主な動向

中国当局が新型コロナウイルス発生を公表。武漢市で感染者の拡大が始まる。一方国内では初の患者が確認され、1月半ばごろから連日関連ニュースが報じられるようになった。中国が春節を迎え大勢の中国人が来日。

各REITの決算短信

1月に決算発表を行ったREITは7銘柄でしたが、いずれも決算短信で新型コロナウイルスへの言及はありませんでした。発表は1月中旬に集中しますが、まだその時点では特に危機感が高まっている状況ではありませんでした。

■2020年2月

2月の主な動向

2月初旬に豪華客船のダイヤモンド・プリンセスで感染が確認され大騒動となる。また、国内で初の死者が発生する。国内での感染者数が100人を突破。屋形船でのクラスターに注目が集まる。政府がリモートワークの呼び掛け。

各REITの決算短信

2月14日に決算発表したフロンティア不動産投資法人(8964)を皮切りに、新型コロナウイルスへ言及するREITが出始めました。

しかし、2月に決算発表した10銘柄のうちコロナに言及したのはまだ5銘柄で、その内容も「留意」や「注視」といった、紋切り型の表現が目立ちます。

一方目立つのはインヴィンシブルで、他REITに比べてより踏み込んだ分析を行っています。ホテルへの投資がメインであり顧客の減少による「ヤバさ」を肌で感じていたものと思われます。なお、その後インヴィンシブルは5月になって大幅な減配発表に追い込まれます。

新型コロナウイルスへ言及していない銘柄(5銘柄)

MCUBS(3227)
日本リート(3296)
CREロジ(3487)
日本プライム(8955)
ジャパンエクセレント(8987)

言及している銘柄(5銘柄)

フロンティア(8964) 2/14

インバウンド消費の点では……中国を発生源とする新型コロナウイルスによる影響長期化には留意が必要です。

日本ビル(8951) 2/17

一方で、……新型コロナウイルスによる経済活動の停滞懸念、……の動向にも留意する必要があります。

マリモ(3470) 2/18

新型コロナウイルスの影響により訪日外国人旅行者数が変動する可能性があり、留意する必要があると思われます。

インヴィンシブル(8963) 2/20

次期以降も、……中国において発生し感染が拡大している新型コロナウイルスが世界経済に及ぼす影響等に留意する必要があるものの、……引き続き景気の緩やかな回復基調が続くと見られます。
なお、中国において発生し感染が拡大している新型コロナウイルスがホテル物件の収益に悪影響を及ぼすことが見込まれますが、現時点ではその影響を予想することは困難であることから、上記運用状況の見通しには織り込んでいません。今後の影響を踏まえ運用状況の見通しにつき修正が必要となった場合には、速やかにお知らせ致します。

ジャパンホテル(8985) 2/20

2019年12月に中国で発生した新型コロナウイルスの影響には注視していく必要があります。

■2020年3月

3月の主な動向

全国の小中高が一斉休校。ライブハウスでの感染が話題になる。愛知県蒲郡市で陽性と確認されたにも関わらずフィリピンパブに繰り出していた男が批判を浴びる(後に男は死亡。)東京オリンピックの延期が発表される。下旬から新規感染者数が大幅に増加し始める。タレントの志村けんが29日に死去。

各REITの決算短信

3月は13銘柄が決算発表を行いました。そのうち新型コロナウイルスに言及している銘柄は10銘柄と大幅に増加しました。その内容も2月と比較してさらに具体的なものとなってきています。

言及していない3銘柄は、大型オフィス系、住宅系、ヘルスケア系REITで、いずれも相対的に影響の少ない銘柄だと考えられます。ただ、同じジャンルでもコロナに言及している銘柄もあるわけで、各REITによってまだ見方がまちまちであることがうかがえます。

新型コロナウイルスへ言及してない銘柄

森ヒルズ(3234)
コンフォリア(3282)
HCM(3455)

言及している銘柄(10銘柄)

アドバンスレジデンス(3269) 3/11

新型コロナウィルス(covid-19)の影響によりJ-REIT市場を含むエクイティーマーケットは不安定さを増してきており、今後の状況によってはマーケットへの更なる影響の拡大も予想されます。
新型コロナウィルスによる今後の影響度合いによっては不動産投資意欲の減退、ひいては過熱している市場の価格調整要因となることも想定されます。
バリューアップ工事については、新型コロナウィルスの影響で使用する住宅設備機器の納期が遅延することにより、短期的には工事件数が減少することが想定されます……

イオン(3292) 3/13

新型コロナウイルスによる肺炎(以下「コロナウイルス」といいます。)など不透明感を増す外部環境や、それが金融資本市場にもたらす影響に留意しながら、今後の市場動向を注視していきます。
世界経済は、米中貿易摩擦やコロナウイルスを始めとした政治経済の不確実性を背景に、2020年において足踏みを続けるものと予想しています。
マレーシア経済については、……原油価格の下落やコロナウイルスによる輸出への影響はあるものの、堅調な個人消費に支えられて、今後も景気は底堅く推移すると見ています。

サムティ(3459) 3/13

新型コロナウイルス感染症が内外経済に与える影響に十分注意する必要があります。

スターアジア(3468) 3/13

足元ではCOVID-19(新型コロナウイルス)の蔓延による、世界各国における入国制限や移動の制限などが見られ、世界経済の停滞が懸念されており、株式マーケットの急落が起きています。本投資法人としては、疾病の蔓延は一過性のものであると認識しておりますが、引き続き国内外の金融市場及び資本市場の動向を注視する必要があると考えています。
足元でのCOVID-19(新型コロナウイルス)の蔓延による入国制限や移動制限により、ホテルオペレータの業績への影響が懸念されています。ホテルオペレータの業績にとってプラスとなる東京オリンピック・パラリンピックの開催など、観光産業を取り巻く諸要因を注視していく必要があると考えています。
今後の我が国経済は、足元のCOVID-19(新型コロナウイルス)の蔓延による世界経済の停滞懸念から、我が国の実態経済への影響が表れるものと思われます。既に大きな影響を受けている株式市場、為替市場等、金融資本市場の変動には特に留意する必要があると考えています。
一方で、……当面は日本の不動産マーケットは堅調に推移するものと考えています。しかしながら、COVID-19(新型コロナウイルス)の蔓延による世界経済への影響の広がりは注意深く見る必要があると考えています。

三井ロジ(3471) 3/13

わが国経済は、海外経済の減速、自然災害や感染病の拡大などの影響から輸出・生産や企業マインド面に弱めの動きがみられるものの、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、基調としては緩やかに拡大しています。

エスコンジャパン(2971) 3/16

新型コロナウイルス感染症の拡大に対する警戒感から世界的にリスク回避の姿勢が強まり、不透明な環境が続くものと考えられます。
新型コロナウイルス感染症の拡大による経済の停滞及び急激な円高・株安の進行により、景況感は急速に厳しい状況となっております。
我が国の不動産投資市場においては……高値圏での不動産取引が継続することが想定されます。ただし、新型コロナウイルス感染症によるテナントへの影響を注視する必要があります。

ケネディクスレジデンシャル(3278) 3/16

……新型ウイルスによる不確実性の高まりといった外的要因が世界経済に与える影響、今後の金融資本市場の変動可能性については留意する必要がある環境と考えられます。

いちごホテル(3463) 3/16

新型コロナウイルスの流行に伴う世界経済の先行き……に留意する必要があります。
新型コロナウイルスの影響により、今後インバウンド旅行者の大幅な減少と共に国内のレジャー及びビジネスのホテル需要の冷え込みも予想されることから、ホテル業界が大きなマイナスの影響を受けると考えられます。
今後、新型コロナウイルスによる影響を受けることが考えられますが、支出の削減策の検討などを行い、分配金の確保に向けた対策を行います。
新型コロナウイルスによる国内外の経済活動への影響を考慮すると、今後、不動産投資市場そして投資マーケット全般が変化することが考えられます。

伊藤忠(3493) 3/16

世界的にも……新型コロナウィルス等、経済活動に影響を与え得る様々な事象を背景に景気見通しは不透明な状況となっています。

産業ファンド(3249) 3/18

2020年1月中旬以降は、中国で発生した新型コロナウイルス(COVID-19)による国内外の経済への影響が懸念され始めたことから、足元では不安定な推移となりました。
今後は、中国で発生した新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に対して、国内外の経済ファンダメンタルズへの影響を注視していくとともに、不動産市場の動向や本投資法人の運用物件のテナントの業況等についても注視していく必要があると考えております。

以上、2020年1月~3月に決算短信を発表したREITの各銘柄について紹介しました。後編では4月~6月の発表銘柄を取り上げたいと思います。

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