ホワイト・マカロン【0：2：0】【女性同士/ラブストーリー】

『ホワイト・マカロン』
作・monet


所要時間：約10分


◆あらすじ◆

一一人はどうして見返りを求めるんだと思う？

※軽めの百合要素あり。

「ホワイトデー」と「見返り」について成人女性二人が話しているだけ。

桜/♀/鈴白　桜（すずしろ　さくら）。ブラック企業でメンタルを壊し、現在は退職手当で生活をしている。いわゆるお薬飲んでるメンヘラ。風子と住んでいる。

風子/♀/山峰　風子（やまみね　ふうこ）。元港区ＯＬ。婚約破棄をきっかけに仕事を辞め、貯金で生活をしている。いわゆるアル中酒クズ。桜と住んでいる。大学では栄養学を専攻していた。



◆ここから本編◆

桜：ねえ風子さん。

風子：なんですか、桜さん。

桜：人はどうして見返りを求めるんだと思う？

風子：は。

桜：人はどうして見返りを求めるんだと思う？求めてしまうんだと思う？

風子：いやいや、聞こえなかった訳じゃないって。

桜：ねえ！どう思うよ！風子さん！

風子：……何？四年前くらいに付き合ってた、哲学科大学生くんのことでも思い出した？

桜：あれは付き合って無いってば！！ただのセフレ！！

風子：あーハイハイ。でもあれじゃん。桜が哲学的なこと言い出したの、その子と出会ってからじゃん。ばっちり影響受けてるっしょ。

桜：……それは間違ってないけど。

風子：で、何だっけ？「人はどうして見返りを求めるか」だっけ？

桜：そうだよ！風子さん！

風子：……今日はそのテンションなのね。

桜：「人はどうして見返りを求めるか」の議論をするなら、今日はぴったりな日だと思うわけですよ。

風子：あー、ホワイトデー？もう日付変わってますけど？

桜：あああああああ！！

風子：（※やれやれのため息）

桜：いや、もう、この際なんでもいいや。

風子：お返し貰えなかったのね。ホワイトデーの。

桜：うるさいよっ！

風子：さあさあ、嫌なことは忘れて酒でも飲もうじゃないかっ。

桜：……あの、風子さあ、私が言うことでも無いかもなんだけど、昨日もワイン二本開いてたよね？……ストゼロのロング缶も二缶、空だった。

風子：こっちはこれでも必死で生きてんのよっ。分かる？！

桜：分かる分かる！分かるけどさ！いやっ、あのっ、もう…なんも言えん！！

　（風子、酒をあおる）

風子：……何さ。

桜：なんで風子はあんなに頑張ったのにさ、康太くん（※風子の元彼）は何も返してくれなかったのかなって。

風子：あー。あの「ゴミ」のこと？

桜：人は見返りを求める生き物だって、皆分かってる訳じゃん。それなのにさ、どうして返さなかったのかなって。

風子：大事じゃなかったんでしょ。

桜：そうかなあ？でも、山田さ…私の元彼はさ、ちゃんと返してくれる人だったっていうか、むしろ私が何も与えて無かったっていうか。……だから、別れたっていうか。

風子：（※酒をあおる）

桜：私と風子は、そこらへんがそもそも、何もかも違うんじゃないかなって。

風子：……誰だって見返り求めるならさ、康太も、山田さんも、同じでしょ。

桜：え？

風子：見返り、求めてたでしょ。

桜：そう、なのかなあ。

風子：私たちがその、「求める見返り」を満たせなかっただけでしょ。

桜：……なんかそう考えると、きっついね。

　（風子、酒をあおる）

風子：……で、誰にあげたのよ。チョコレート。聞いてないんだけど。

桜：あ、え、えーっと……

風子：私というものがありながら！桜ったらひどいわ！しくしく！

桜：風子、もう酔ってる？

風子：こんくらいで酔えれば人生イージーモードよ。

桜：まあ、それもそうだね…。

風子：で、誰にあげたの？

桜：ネットで知り合った、配信者の……人。

風子：……あー。そりゃあ返ってこないわ。

桜：まあそもそも？期待してあげてないからいいんだけどねっ。

風子：いや今落ち込んでる時点でがっつり期待してたじゃん。

桜：（※ため息）…つら。

風子：……難儀な生き物だよねえ、人間って。

桜：さっきあんだけからかってた癖に、風子だって哲学じゃん。

風子：え？これって哲学なの？

桜：……分かんない。哲学だと思ったら哲学？みたいなこと、言ってた気がする。

風子：がっつり哲学科大学生くんのこと覚えてるじゃん。

桜：うーん。なんかでも、あいつに出会ってからな気がする。見返りとか、考えるようになったの。

風子：あの頃は桜が洗脳されるんじゃないかと、ひやひやしてました。

桜：ごめんごめん（笑）でも結局勝手に逆ギレされて出ていかれて、そっから会ってないからさ。

風子：一回くらい連絡来たんだったよね？確か。

桜：うん。余所でセフレ妊娠させたかもって来たから、ブロックした。

風子：くっず！！

桜：いや、クズよ。

　（風子と桜、笑い合う）

風子：はーーでもさーー、「見返りの無い愛」欲しいわ。それは分かる。

桜：そんなんこの世にあるのかな？人間誰しも見返り求めるでしょ？それが無いとしたら、聖人君子（せいじんくんし）とか？そのへん？

風子：聖人君子の意味分かってる？

桜：いや、あんまり分かんない（笑）なんか、天使みたいな？「くんし」と「てんし」で？

風子：待って、何？桜まだ飲んでないよね？あんたの方が酔っぱらってるみたいだよ？

桜：風子、「あんた」なんて言うんだね（笑）

風子：え、駄目？「あなた」が良かった？新婚みたいじゃない？

桜：いやうちら実質新婚みたいなもので…

風子：それはまあそうなんだけどさ！！

　（風子の酒を奪って飲む桜）

風子：あ、ちょっとぉー！私の酒！！

桜：大事な大事なパートナーさんの？寿命を縮めない為にも？今日は私も飲んじゃいますよーっと！

風子：（※ため息）とことん付き合ってもらうから。

桜：任せとけ！

風子：……酒弱いくせに。（※ぼそりと）

桜：なんか言った！？

風子：何でもない！！

　（数時間後）

桜：（※酔いつぶれて寝ている）

風子：まったく…（※毛布をかける風子）

桜：んん。…ふーこぉ？

風子：あ、ごめん。起こした？

桜：……ほわいとでー。

風子：は？なに？

桜：……ホワイトデーのお返し。……なんでくれなかったのさ。

風子：え、なに、待って、さっきの話、私の事だったの！？

桜：いや、配信者の人っていうのは、男の子だけど。

風子：おいコラ。殴るぞ。

桜：でも、風子からも欲しかったよ。

風子：バレンタインにもあげたじゃん。

桜：でも、風子の作るお菓子美味しいから、期待してた。

風子：……。あーハイハイ。ちょっと待ってて。

　（キッチンの奥へ行く風子）

桜：？…風子？どしたの？

　（戻ってくる風子）

　（手には、可愛くラッピングされたマカロンが）

風子：日付変わっちゃったけど、ハッピーホワイトデー。

桜：へ！？それ、手作りのマカロン！？用意してくれてたの！？

風子：うん。でもなんか桜、その配信者の男にお熱だったみたいだから、渡すの辞めようかと思ってたの。

桜：ううう！！風子ぉ！！私にはやっぱり風子だけだよぉぉ！！

　（風子に抱きつく桜）

風子：ふふーん。でっしょー？？

　（マカロンを受け取る桜）

桜：ありがとう！風子！これ、早速食べてもいい！？

風子：勿論。早めに食べちゃってー。

桜：マカロンとか手作りできちゃうの、ほんっと流石だよ、風子。女子の鏡。

風子：元・栄養学部を舐めないで頂きたいね！

桜：（※マカロン食べながら）ふーこぉ！おいひいよこれ！めっひゃおいひい！

風子：あーあー。せめて飲み込んでから喋りなさいよ。

　（飲み込んだ桜）

桜：はぁ～～。美味しかったぁ……。

桜：あ、そういえば酒は？

風子：ぁ……。えっと……。（※気まずそうに）

桜：二リットル赤ワイン二本の行方は！？

風子：ごめん！桜が潰れてる間に飲んじゃった！

桜：こんの酒クズが～～！！！

風子：あはは、ごめんごめん。

　（間）

桜：……でも、風子が居てくれて良かった。

風子：んー？それはお互い様なんだけどなぁ。

桜：「私が求める見返り」を、満たしてくれる。そんな風子が傍に居てくれて、本当に良かったって思うよ。

風子：……私も。おんなじ。桜は、「私が求める見返り」を満たしてくれる。

桜：え。私なんにもしてないのに？

風子：誰かのためにお菓子作って、美味しいって笑顔で食べてもらって、ありがとうって言って貰える。これだけで、嬉しいモンなんですわ。
……それと、なんもしてない自覚あるなら、明日はジャンポールエヴァンにでも行って来てもらおうかなあ！？

桜：ひいいっっ！勘弁してください風子さぁん！

風子：嘘だよ。嘘嘘。

桜：よ、よかった…。

風子：（※わざと桜に向かわず）桜ってホワイトデーのマカロンの意味知らないのかな？

桜：え！？何！？なんか意味あるの！？「あなたとはもう絶交です」的な！？

風子：違うよ！！絶交ネタはもう持ち出さない約束でしょ！？バカ桜。

桜：え！？じゃあ何！？なんなのさ～！！教えてよ～～！！風子～～！！！

風子：自分で調べなさい！


◆ＥＮＤ◆

補足・ホワイトデーのマカロンの意味『あなたは特別な人』。