悪い人 シナリオ

〇 あぜ道
歩いてくる喪服のふたり。マスクを外して、くつろぐ。
エリカ「…急だったわね」
元希 「まだ信じられないです」
エリカ「もともと持病あったんだっけ?」
元希 「心臓じゃなかったです。痔だったんで」
エリカ「あ、そう…じゃ、関係ないか」
元希 「…まだ若いのに」
エリカ「そうねぇ、ていうても45?46?まぁ、でもまだまだこれからか。娘さんが独り立ちしてるのが不幸中の幸いよね。もう手がかからないし。なんでも結婚するらしいわよ。お相手はITの社長さんですって。羨ましい」
元希 「ショックです」
エリカ「元希ちゃん、最後一緒だったんだっけ。じゃ、辛いわね」
元希 「奥さんがいたなんて」
エリカ「あ、そっち…」
元希 「課長、指輪してなかったじゃないですか。結婚してるなんて一言も言わなかったし」
エリカ「それがあの人の手なのよ」
元希 「(泣きそう)…」
エリカ「(励まそうと)でも、あんまりうまくいってなかったっぽいわよ。わたし離婚の相談されたし」
元希 「(!?)それいつ頃の話ですか?」
エリカ「え?…えぇと、元希君もういた…かな?」
元希 「じゃ、けっこう最近の話ですね」
エリカ「えぇ、まぁ、そうね」
元希 「…なんでエリカさんに」
エリカ「ほ、ほら、話しやすかったんじゃない?あたしって経験だけは豊富っていうか…あ、言ってて辛くなってきた」
元希 「もしかして…関係持ちました?」
エリカ「…」
元希 「…」
エリカ「…ま、まぁ、その流れで…なんとなく…1回だけ?……」
元希 「(泣きそう)」
エリカ「ごめん。でも、そのたった1回だけだから。事故。そう、事故。本気じゃなかったし、ふたりとも。あ~て、なんであたしがこんなこと言わなきゃいけないのよ」
元希 「僕は本気でした!」
エリカ「…元希君、悪いんだけど、元希君だけじゃなかったからね」
元希 「(?)」
エリカ「わかるでしょ。課長、ああいう人だから。男でも女でも見境ない人だったから。葬儀の日にこんなことあんまり言いたくないんだけど。でも、元希君があまりに不憫で」
元希 「僕はどうしたら」
エリカ「うん、うん」
元希 「最後一緒だったんです」
エリカ「(頷く)」
元希 「出張先のホテルの部屋に呼ばれて、仕事の話かなって思ってたら、そうじゃなくて」
エリカ「(え?)」
元希 「そのまま…その…してたら…課長突然意識失って」
エリカ「(あらあらまあまあ)そうだったの…」
元希 「辛いっす」
エリカ「(顔輝いて)それは辛いわね」
元希 「僕はこのまま生きていてもいいんでしょうか?」
エリカ「え?」
元希 「(すがるような目)」
エリカ「(急な真面目モードに困惑)」
元希 「(ウルウルした目)」
エリカ「…い、いいに決まってるじゃない。そんなこと言ったらあたしなんてどうなんのよ。元希君はこれからの人なんだから、まだまだバリバリ働いてもらわなきゃ。ね?」
元希 「…」
エリカ「次の恋、探そう?」
元希 「(納得はしていないが頷く)」
エリカ「元気だそ」
元希 「…なんだったんだろうな(僕の恋)」
エリカ「本当、なんだったんだろうね、あの人。振り回されたわ」
元希 「…でも、みんなが言うほど悪い人じゃなかったって思うんですよ。僕は」
エリカ「…」
元希 「…」
エリカ「…人それぞれだね」




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