見出し画像

人類最後の日 シナリオ


鞄を大事に抱え、待っている渡充。

タイトル「人類最後の日」

缶ビール両手に走ってくる仲村友依。

仲村「先輩~買ってきました」
渡 「お、ご苦労さん」
仲村「いや~自販機まだ動いててよかったです」
渡 「よしよし」

×  ×  ×

堤防に腰掛けて、
プルトップを開け、グビグビ呑む。

渡・仲村「ぷふわぁ~」「くぅ~~~」

渡 「あ~生きててよかった~」
仲村「(笑)…最高っすね」
渡 「な~昼間からな~」

しばし、呑む。

仲村「会社に連絡しなくてよかったですか?」
渡 「え?いまさら?」
仲村「まぁ、そうっすよね」
渡 「どうせ、もう誰もいないよ」
仲村「出張なんかしなくてもよかったってことっすね」
渡 「人生そんなもんでしょ」

しばし、間。

仲村「仕事、もうしなくてもいいんですね」
渡 「そうだな」
仲村「不思議っすね」
渡 「俺は嬉しい。やっと解放された~」

しばし、解放感に浸る。

仲村「なんか後悔とかあります?」
渡 「う~ん、そうだな。こんなんなるってわかってたら、就職なんかしないでも、よかったかな?」
仲村「(明るく)食べてけないですよ」

しばし、まどろむ。

渡 「俺さ」
仲村「はい」
渡 「いまだから言っちゃうけどさ」
仲村「はい」
渡 「経理のミカちゃん、いいなって、思ってたんだ」
仲村「おぉ!?」
渡 「わかる?」
仲村「先輩、ミカさんみたいな人がタイプだったんすね」
渡 「あ~思い切って、告っとけばよかったかな~」

仲村「(ふふふふ)」
渡 「なに、その含み笑い」
仲村「いえ、別に」
渡 「おいおい、いまさら隠すことないだろ?」
仲村「確かにそうっすね。すっきり終わった方がいいっすもんね…ま、いいか。…ミカさん不倫してましたよ」
渡 「え、誰と?」
仲村「会社の人じゃなかったみたいですけど。奥さんいる人だって」
渡 「そっか~そっちか~」
仲村「年下ですって」
渡 「なんですって?」
仲村「ダブルで残念でしたね」
渡 「うるさいよ、お前」

しばし、感傷に浸る。

渡 「おい、お前はなんかなかったのかよ」
仲村「え、あぁ、そうですね」
渡 「言っちゃえ、言っちゃえ。言ってすっきりしちゃえ」
仲村「確かに…すっきりしますよね…」


渡 「え~なになに?その深刻な顔…」

仲村「先輩…」


渡 「え、なに!?俺?俺のことが好きだったとか?」
仲村「(キッパリ)いえ、それは無いです」

渡 「あ、そうなの…やけにはっきり言うのな…そっか…いや、別にいいんだけどさ…なんかさ…ちょっと傷つくっていうかさ」

仲村「(聞いていない)う~ん、先輩怒らないですか?」

渡 「なんだよ、内容もわからねぇのに怒るもクソもないだろ」
仲村「そっすよね…」


渡 「なんだよ、仕事のことか?」
仲村「う~ん、まぁ、そっすかね…」
渡 「もう関係ないだろ?」
仲村「そっすよね…」
渡 「ウジウジしやがって。ほら、これ見ろ」

鞄を示す。

渡 「ここに機密書類が入ってる。俺、これ偽造しろって言われてたの。わかる?バレたら、絶対ヤバかったの」

仲村「それヤバかったすね。だから、先輩ここんとこずっと暗かったんですね」

渡 「もうどうしようって思っててさ。だって、これ犯罪じゃん?仕事なのに、俺、犯罪に加担しなきゃいけないの?本当はこっちで処分するか、とんずらするかどうしよかって、ずっと迷ってたんだけどさぁ、まぁ、こうなったら、もう関係ないし」


仲村「先輩も苦労してたんですね…」
渡 「な?俺に比べりゃ、お前の悩みなんざ、大したことねぇだろ?」
仲村「…実はですね」
渡 「ほいほい」
仲村「専務殺しちゃったんです」
渡 「はい?」
仲村「信じてほしいんですけど、別に殺すつもりなかったんですよ。でも、ほら、専務ってああいう人じゃないですか。言った言わないで口論になっちゃって」

渡 「あぁ、はいはい」
仲村「あんまり酷いこと言うから、思わずカーッとなっちゃって、それで殴ったら、専務引っくり返って、で、金庫の角に後頭部から突っ込んじゃって…」

渡 「あ~~~~」
仲村「いや~~~」
渡 「それいつの話?」
仲村「昨日の朝です」
渡 「こっち来る前か」
仲村「はい」
渡 「だから専務電話にぜんぜん出なかったのか」

仲村「どうしましょう」
渡 「どうしましょうって、お前…」
仲村「実は、死体こっちで始末しようかなって思って」
渡 「はい?」
仲村「車のトランクに入れてきたんです」

渡 「…おい」
仲村「もうそんなに暑くないから、別に匂わなかったでしょ?」
渡 「そういうことじゃなくてだな」
仲村「怒らないって約束したじゃないですか」
渡 「別に約束してねぇよ」
仲村「あ~~~すっきりした」
渡 「お前…怖いやつだな」
仲村「別にいいじゃないですか。どうせもう終わりなんだから」
渡 「まぁ、そうだな。最後ぐらい仲良くいこうか」

水平線でロケットが次々と打ち上がる。

渡・仲村「お~~~」
渡 「行ったなぁ」


仲村「酷いっすよね、あれ。知らないうちに決まってて」
渡 「そりゃ、秘密にしとかなきゃ暴動とか起こるからだろ」
仲村「文春凄いっすね。よくすっぱ抜きましたよね」
渡 「いつの世も、秘密は秘密にしておけないってことだね」
渡・仲村「(ふふふふふ)」

お互い、まだ言っていない秘密を抱えている。

仲村「あれ、誰が乗ってるんすかね」
渡 「どうせ国会議員のお偉い先生とか、お金持ちさんでしょ」
仲村「死ねばいいのに」
渡 「おいおいおいおい、そういうこと言わないの」

空に閃光が走る。

渡 「ほらぁ、お前が変なこと言うから」
仲村「あ、先輩!」
渡 「なに?」

仲村の脚から結晶化が始まっている。

渡 「あ、俺もだ」

渡の脚も結晶化がはじまり、地面とくっついている。


渡・仲村「…」

渡 「お別れですな」
仲村「そのようですね」

しみじみ、景色を眺める。

渡 「しかし、天気がよくてよかったな」
仲村「そっすね」

全身が結晶化していく。

そして、風景に溶け込んでいく。

END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?