ソーシャルディスタンス シナリオ

〇 あぜ道

ミレイ「はい、これ」
書類を手渡すミレイ。マスクをしている。
ミレイ「社判は押しといたから。あとはそっちで空欄埋めて先方に送って」
コウキ「はい。…あの、すみません、わざわざこんなところまで」
同じくマスクをしている。ラフな普段着。
ミレイ「別にいいのよ。…ひさしぶりに顔、見ておきたかったし」
コウキ「(嬉しい)」
ミレイ「(はぐらかす)部下の健康管理も仕事のうちなの」
コウキ「(落胆)はい…」
ミレイ「(見透かして)元気にしてた?」
コウキ「はい…どこにも行けないんで、体力余っちゃってます」
ふたりはテレワーク中である。不要不急の出勤は厳禁である。
ミレイ「コウキ君いくつだっけ。24?」
コウキ「今年25です」
ミレイ「若いな…(羨望)」
コウキ「芹沢さんだって、年齢の割には…」
ミレイ「(ふふふ)ありがと」
コウキ「(照れて)」
ミレイ「そうなのよね。ずっと自宅に籠ってると精神的に良くないっていうか。だから、今日は単なる外に出るための口実」
コウキ「いいじゃないですか。また来てください」
ミレイ「(誘いをかわして)もう慣れた?」
コウキ「テレワークですか?はい。通勤しなくていいんで。気が楽です。もうずっとこのままでもいいかなって。はは」
ミレイ「ここから通うとね、会社までいつもどれくらいかかるの」
コウキ「1時間半ですね」
ミレイ「そっか。ならテレワークの方が楽だね」
会話が途切れて、並んで歩く。ふたりの間には微妙な距離がある。
コウキ「あの」
ミレイ「(?)」
コウキ「家、すぐ近くなんで、よかったら、休んでいっても…」
ミレイ「…」
コウキ「…」
ミレイ「実家だっけ?」
コウキ「ひとり暮らしです」
ミレイ「…」
コウキ「…」
ミレイ「…ごめん。仕事途中で脱けてきたから、戻らなくちゃ」
コウキ「テレワークなら、どこで仕事したって同じですよね。僕の家でやってもらってもぜんぜん構いませんし、なんならずっと」
ミレイ「(遮って)パソコン置いてきちゃった」
コウキ、マスクを外して距離を詰めようとするが、
ミレイ「ソーシャルディスタンス守って」
コウキ「(歯がゆい)そろそろ、越えたいです。この距離」
ミレイ「…」
コウキ「(本気)」
ミレイ「(あやすように)こ~ら」
コウキ「芹沢さんが上司だからとか、年が離れているとか、そんなの関係ないですから。俺、本気ですから」
コウキが距離を詰める分、後ずさる。
ミレイ「ぐいぐい来るな。若いな~」
コウキ「すいません…」
ミレイ「いまはそういう時期じゃないでしょ?頭冷やしなさい」
ミレイ、さっさと歩き出す。
意気消沈してマスクをつけるコウキ。
ミレイ、マスクを取り、振り返る。
ミレイ「ねぇ、知ってた?本当に好きな人は遠くから見守るぐらいがちょうどいいんだよ?」
コウキ「…」
ミレイ「(からかうように)」
マスクを外すコウキ。
コウキ「え、それって…」
ミレイ「…」
さっさと歩いていってしまう。
コウキ「…」
その後ろ姿を見送って。




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