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うどんをこねる

ママがつくったうどんがすき!」娘が母の日に幼稚園で作った似顔絵メッセージ付きの作品を持って帰ってきた。良くみると、小さい字で「お肉が入っていておいしい」とも書いてあった。

あれ?それは、父の私しか作らない豚肉入りのうどんのことではないのか?普段料理はあまりしないが、時々、市販のうどん玉をゆでて、つゆを薄めて、豚肉を焼いて乗せるだけといった簡単なかけうどんを作って家族にふるまっていた。豚肉の組み合わせは自分しかしないので、絶対に父のうどんなのだが、ママのとなっていた!。普段娘からあまりポイントを稼げていない父からすると驚きと嬉しさが込み上がる。ママに気づかれないように心の中でガッツポーズしながら娘に聞いてみたが「うーん、パパのだっけ?うどんがすきなの」とはぐらかされた。

そこで思った。「うどんを極めよう。」「そして父の威厳を保とう。」うどんは、ほぼ麺とつゆのみの構成だから、もし、自分で麺が打てるようになれば、もう半分の領域を制覇したことになるではないかと単純に考えた。でも、素人が簡単に手を出せるのか?職人さんがふみふみして作る光景しか目に浮かばない。

しかし、インターネットはすごい。作り方が色々でてくる。しかも以外に作り方がシンプル。粉に塩水を入れて、手で練って切ってゆでるだけなのだ。びっくりしたのが中力粉!聞いたことがない💦。薄力粉、強力粉はギリギリ知っていたが、初めてお目にかかった。普段から極端ではなく、真ん中くらいがちょうどいいと思っている自分にとって。粉界隈にも中道があるのかと思い、これは極めなければならないと使命感にもかられた。

塩水と中力粉をまぜてひたすらこねる、こねる、こねる、最初はべたべたして手につくし、固まらないしで、疑心暗鬼になる。一人だったら「いったい何をやってるんだろう」と脱落してしまったと思う。でも子供の驚く顔と使命感が右手を動かし、こねる、こねる、こねるを続ける。

こねる、こねる、こねる、こねる。段々ハイになってくる、二の腕が痛くなってきたが、気にせずこねる。だんだん頭が空になり、仕事の嫌なことや失敗して恥ずかしかったことなどが頭に浮かんでくる。その邪心もうどんに混ぜ込んでこねる。気づいたらいい感じのつややかなうどん玉ができていた。

寝かせてから切るのがまた難しい。綿棒で伸ばして布団みたいに重ねて切ったものの、そのままくっついて卵焼きみたいに固まってしまう。もう一回やり直して、打ち粉をふんだんにして一本ずつ切る。すごく時間がかかる。でもこれが一番近道かも。不器用な人間は一足飛ばしは厳禁!。時間がかかっても一個ずつやるのがセオリーではないか。スモールステップってこういうことなのかと感慨深い。ようやく切り終え、一本ずつ鍋に入れて20分くらいかけてゆでる。水でしめて、ざるうどんにしてようやく完成。ちょっとジョギングして帰ってきたくらいの疲労感が出る。

いざ実食。娘「パパが作ったの?」「これはうどんなの?おだんごだね~」。食べるのにも、つるつるとはいかず、モグモグと笑いながら食べてくれた。一生懸命やったけど結果はやや失敗。なんか自分の人生に似ている。でも家族は笑ってくれる。何だか救われた気持ちになった。それから時々作っては、「まあ、前よりはおいしいよ」と、ありがたいお言葉をいただいている。

うどんはシンプルだけど、奥深い。色んな思いをうどんにこめる。こねて、こめての繰り返し、こねがあまいと形にならない、やりすぎでも硬くなる。中力粉に思いを込めて中道を極める短い人生の物語だと思った。失敗しても笑ってくれる。それを大切な人に食べてもらうことで、ちょっとだけ色々な思いを共感してもらえているようですごく楽しい。

#おいしいはたのしい

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