小さい手は大きい実

家族が増える喜びは、かけがえのないものです。
赤ちゃんは無条件にかわいいし、手も足も、何もかも小さくて愛おしい気持ちにさせてくれます。すやすやと眠る子どもの握られた手を見つめていたら、ある旅行を思い出しました。

航空会社のサイトで、目的地がランダムに決まる旅を申し込んだのは2月。
久しぶりのひとり旅、秋田に決まったものの、ウインタースポーツに疎い僕は、乳頭温泉に浸かり、角館を散策する旅にでました。

温泉は情緒たっぷりの秘湯という趣きだったし、一面の雪景色は寂しさと美しさがあって、寒いけれど来て良かったと思いました。

春は、しだれ桜の並木道が有名な角館ですが、2月は冬。それも真冬でした。武家屋敷通りは、真っ白な雪で染めぬかれ、冷気が冬の厳しさを頬に教えてくれました。宿のオーナーはとても気さくなおじさんで、ちょうどその日に冬の祭りがあるのだと教えてくれました。市内を流れる上桧木内川の河川敷で、大きな紙風船を空に飛ばすという祭り。

実際に見ると、紙風船とはいえ気球のような大きさと仕組みで、かなりの迫力でした。多くの人が集まり、懸命に焚き火にくべて紙風船を膨らませているのですが、残念なことに、その夜は吹雪が強く、ほとんど飛ばすことが出来ませんでした。

会場では、地域の料理や特産物を売る露店が並んでいました。ひときわ長い行列の店には「西明寺栗」と書かれた幟が。ここで、栗の文字を見かけるとは・・しかもこの行列の長さ、きっと美味しいはず。吹雪の中で震えながら行列に並び、ようやく手に入ったのは、焼き栗と栗しるこでした。大粒の栗はホクホクとして柔らかで、温かで甘い小豆とよく合って、ほんとうに絶品でした。

あくる日、市街で西明寺栗を扱っているお菓子屋さんを見つけました。大粒の栗が入った大福は初めての体験で、栗好きの僕にとってまさに大きな発見でした。
「大きいのは、赤ちゃんの握りこぶしくらいになるんです」
店員さんが教えてくれた時、少し混乱してしまいました。赤ちゃんの手が、どのくらいの大きさだったか思い出せなかったのです。

寒い冬に出会った角館は、知られざる栗のまちでした。温かな人たちとの出会いも、とても幸せでした。赤ちゃんの握りこぶし、我が子との出会いで確認できるとは思ってもみませんでした。
こんどは家族で行きたい。もしできれば、栗の季節に。

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熊木産業株式会社主催
「栗屋大賞 栗のエッセイ部門」応募作品

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