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旅にもつ2020・2019

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旅する日本語2020、2019のために書いたもの。初めてのショートストーリーの創作。
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#旅

二度目の春

感嘆の声を上げ、息をのみました。 ここに来るまでに何度も見てきたはずなのに、圧倒される致景でした。闇のなか、強めの明かりに照らされた桜が、真っ白に視界を埋め尽くしました。 京都の春がこんなにも綺麗だとは。 休みが合わない友人と、なんとかやりくりして行った京都でした。社会人になって一年が経ち、繁忙期と呼ばれる季節を経験した僕らは、身も心もヘトヘトの状態だったのです。 前日に友人からメールが来て、休みが合うことがわかり慌てて決めた旅程。準備らしいこともせず新幹線に乗り、着い

世界の避暑地

うだるような暑さの市街から、高地へ飛んだ。富士山の8合目ほどの標高にある空港は肌寒い。テレビや写真で見て以来、ずっと行きたかった世界遺産が、すぐそこにあった。 青く美しい湖が点在する九寨溝、奇跡的な造形美が広がる黄龍。 そのどれもが自然によって作られたことが信じられないほど、いやむしろ自然にしか作り出せないと思える景色に驚嘆した。規模の大きさや色など、写真では到底収まらない迫力に圧倒され、この目に焼き付けることができて感激しながら歩いた。 景色や移動手段に気を取られてい

たびのことわざ

夏休みは家族で、祖母の住む九州の離島に行くことにした。飛行機を乗り継ぐ旅は、小さな子どもがいると緊張感がある。娘は、海のある島の風景が忘れられないのか、絶対に海に行きたい、なんて言っていた。 出発が近づいた日、妻の具合が悪くなってしまった。数日の入院が決まり、その後に予定していた旅行はどうするか、迷った。また来年、行けばいいんじゃないかな。意思を確認したくて、娘に聞いてみた。 娘の決断は「お母さん来れなくても、行きたい!」だった。実は、母親が数日間そばにいないことは、まだ

かみさまの森

飛行機と船で、およそ半日。さらに、翌日の早朝からの登山3時間余り。太古の命が目の前に姿を現したとき、なぜか安堵していました。雨に煙る森の中で、自分の呼吸と雨音だけが聞こえていました。 屋久島の自然、その象徴でもある縄文杉への旅は、憧れのひとつ。世界遺産を目の当たりにするという幸せだけでなく、緑深い神秘的な森を歩くと、呼吸とともに体が浄化されるように感じるのです。 速足で登ってきたせいか、縄文杉を仰ぎ見るための展望台には、僕らのほかには誰もおらず静かでした。やっと出会えた縄