マガジンのカバー画像

旅にもつ2020・2019

30
旅する日本語2020、2019のために書いたもの。初めてのショートストーリーの創作。
運営しているクリエイター

#モンブラン

君の髪

きみのショートヘアーが、恋しい。 若いパティシエは、美しい恋人のブロンドの髪を想った。緩やかなカーブに、艷やかな色、ふわふと弾む毛先の感触が、彼の指に蘇る。 勤めているキャフェでは、新作ケーキの試作が始まっていて、多忙を極めていた。恋人はおろか、自分の顔を鏡で見る余裕もないくらい、一日中厨房にいる。 クリーム、フルーツ、チョコ、色々試してみるが、なかなか見つからない。求めているケーキは、こんなのじゃない。 ふうっと息をついた刹那、よろけて背後のテーブルにぶつかる。カラ

栗独白

拙者は、栗だ。 生まれは秋田県の角館、西明寺栗などとも呼ばれておる。 皆は栗が好きか。日本は栗好きな御仁が数多(あまた)おるとは、まことか。 いま拙者は、モンブランなるケーキに乗っておる。如何なる出会いがあろうか。 おーい! あ、目が合うた。もしや、拙者の声が届いたのか。 穏やかに、しかし睨めつけながら近づいてくる。喉鼓が聞こえてくるような顔つきをしておる。 ケーキを好むとは、児子(ちご)のようだが、拙者も兄弟や父母の手前、食べてもらわねば浮かばれぬ。 しかし