Music PlanetとかVoice Planetの広告について思うところ

 少し腹に据えかねたのでブログ記事にしたいと思う。Music Planet、Voice Planetというオーディション商法を運営する業者についてである。オーディション商法と言う言葉に聞き馴染みのない方への啓蒙に繋がれば幸いだ。

 先ず断言したいのだが、彼らのやっている事は悪質なオーディション商法以外の何者でもない。これは彼らが高額商品に関する重要事項説明書をサイト内のわかりにくい場所へ配置し、かつ引用しにくい画像によって表記していた(指導が入ったのか現在ではテキスト表記となっている)事から考えても明白であると言わざるを得ない。その上で、当記事では彼らの販売する「商品」が果たしてどの程度の価値があるのかについて考えたいと思う。結論から言ってしまえば購入する価値はゼロに等しい。

 そもそも現代の日本において「音楽」を換金するという事は酷く難しい。それは商業においても変わらないし、一部の超有名アーティストを除けば関わる人数が多い分商業の方がよほど収支がタイトですらある。これは印税比率や事務所の按分方法によっても変わってくるのだが、活動費を踏まえてプラスにもっていく事は新人ではかなり困難である。ある種の博打であるとも言えるだろう。もちろんこれは初期投資が0での話である。初期投資に数十万もかけてしまえば回収する道はよほど困難になる。商業一本でやる気がないのであればなおさら、それは活動の寿命を縮める事に直結するだろう。

 「それでもプロの作った楽曲の提供やサポートを受けてみたい」と、考える方もいるだろう。残念ながらその期待は大きな間違いである。確かにプロのコンポーザーが作編曲からMIXマスタリングまで含めて数十万円で曲を提供してくれるのなら悪い話では無いかもしれない。だが、よく考えてみて欲しい。商業音楽に携わった事のある方ならわかるかと思うのだが、コンポーザーという職業人は年間で数十本、何年か業界に身を置けば数百本という膨大なデモ音源を作成する。そして、その多くはドラマ・アニメの主題歌や、アイドルに提供する為に募られた楽曲コンペの残骸となる。勿論、それらの曲が他のコンペで見いだされたり、提供を再び望まれたりして日の目を浴びる事もあるが、残念ながら多くは何処にも行き場の無い死蔵ストックとなる事が殆どである。恐らく、彼らが売りつけているのはこういった死蔵ストックか、或いは彼らが抱き込んでいる新人の腕試しである場合が殆どであるだろう。あなたの為に書き下ろしたと言われたところでそれを判別する術は無いし、ストックの数が膨大であれば、求める雰囲気の楽曲をあてがうマッチングを行うだけで良いのだからボロい商売である。錬金術と言っても良い。

 そこまでの金額をかける覚悟があるのであれば、信頼できる音楽仲間を作るなり、ココナラとかで信頼できそうな作曲家を探すなり、信頼できるトレーナーに師事するなどして直接依頼した方が確実だし、その後の経験にもなるし、人脈の形成にも繋がる。商業音楽を志すのであれば音楽制作会社に直接自分を売り込んでも良い。デモ音源を作って仮歌でもなんでもやらせて欲しいと言えば、そして、その価値があると判断されれば意外とチャンスは与えて貰える。音楽制作会社は才能ある人物を何時でも欲しているし、音楽活動なんていうものはプロにせよアマにせよ実力と実績と人脈がものを言うのだ。あなたが十分な実力を有していて、一歩目を踏み出す勇気があるのであればわりかし道は広い。まぁ、落とし穴も多いのだけれど少なくとも高額な初期投資はしなくて済む。

 ヴォーカルに限った話では無く、コンポーザ―にしろリリックライターにしろ、時折レッスン料だのコンペ参加料とかいうふざけた事を言ってくる事務所があったりもするらしいのだが、そういった事務所はそもそも金回りが限界を迎えているので、巡り合ってしまったら可及的速やかに縁を切る事をお勧めする。ただし、狭い業界ではあるので、それがどんな相手であっても最低限の礼節と義理は果たしておく事が望ましい。音楽業界はわりとヤクザな体育会系の世界なのだ。

 まぁ、そんなわけである。すでにオーディション商法業者としてTwitter(現:X)でコミニティノートがつくなど方々から指摘され始めている業者と関わったところで、あなたの信用に傷がつくだけでメリットは何もない。まして人間はトラブルと関わる人を本能的に排除する性質を持っているのだから、それは活動を志す人脈形成の上で致命的な傷となり得る。マジでデメリットしかない。

 最初にも言ったが、音楽で食べていこうと思っているのであればそれは茨の道である。音楽業界で生き残っている人の多くは実家が太いか、囲ってくれるパトロンがいたかのいずれかである。一昔前に人気声優の若い頃のAV出演が話題になったりしていたが無理からぬ事だ。活動を続けるには生活費も活動費もいるし、制作や自己研鑽に充てる為の時間も必要だし、業界のスケジュールはあなたの都合に合わせてはくれない。隙間を縫うような時間の中で諸々の費用を工面する為には手段を選んでいられなくなるし、場合によってはまともな人間関係の維持すら難しくなってくる。スケジュールや嗜好で案件を選り好みすれば大きな案件からは干されるし、基本的に拒否権は無い。枕営業の横行が囁かれる理由にもそういった背景がある。あらゆる人間関係や人間性を対価に払ってでもその世界で成り上がりたいという希求が無いのであれば、芸能や商業音楽になんて最初から関わるべきではない。

 そして、そうまでして歩んだ道であっても永遠の成功が約束されているとは限らない。印税生活なんて世の中で思われているほど豊かではないし、歴史的なヒット曲でもなければ旬が過ぎるほど萎んでいくのだ。運よくヒットに巡り合ったとしても、10年後も同じ生活水準を維持できるほどの案件に関われる事は稀だ。作風が時代やクライアントの求める方向性にフィットしなくなったり、何らかの理由でメインストリームから干されればその寿命はもっと早まる。それでもその栄華を忘れられない人間たちが行きついたのがオーディション商法なのだろう。

 昔、何かのドキュメンタリーで見たことがあるのだがこれは日本に限った話では無い。アメリカでも富裕層の子女向けに似たようなビジネスが横行した事があったようなのだ。彼らは言葉巧みに子女やその両親達へ取り入り、デビューに向けた準備を行う。楽曲を提供し、レッスンを行い、マネジメントのスケジュールを綿密に打ち合わせる。しかし、その裏で約束されたはずのレーベル側への働きかけは行わず、「今回は運が無かった」「時期を見合わせよう」「また次のチャンスが来る」と言った言葉で煙に巻く。子女達はマネージャーを信頼し、未来のレディガガやテイラースウィフトの座を掴むために再びレッスンに励み、高額なマネジメント料を接収され続ける。と言った内容である。実に嘆かわしい事ではあるが、華やかな舞台の陰にはこのようないくつものおぞましい泥濘があるのだ。

 Music Planeの「商品」はただ、それがマイルドになっただけのものである。ハードコアにプロを目指すのではなく、アマチュアとして緩やかに活動していきたいのであれば余計にこんな高額商品と関わるべきではない。彼らはきっと楽曲と、それを披露する場と、支え合う仲間を与えてくれるだろう。けれど、それは閉じたサイクルの中での話だ。それはマルチ商法に興じる若者達が分不相応な夢を語らう姿とさして変わらない。結局のところ求められるのは残酷なほどに実力であり実績であり人脈であるのだ。それを形成するのは新たな世界へ飛び込む勇気であり、自分を売り込むためのプレゼン力であり、自分を磨き適切な発信をする為のセルフマネジメント力である。マーケティングはまぁ、また別の話だが、閉じたサイクルの中でそれを熟成させる事は、決してあなたの活動に良い影響を与えない。害ですらある。軽自動車ぐらい買えるほどの金銭を投じてまで毒を飲み込む必要は無い。

 酷な事ではあるかもしれないが、アマチュアであるのなら尚更、自分の歩く道は自分で切り開くしかないのだ。活動を通じて人との繋がりを作り、時には失敗したり嫌な思いを積み重ねながら経験を積んでいくしかない。それはそれで茨の道ではあるけれど、そうやって得た経験値は確実にあなたの血肉になるのだ。安易に全てを金銭で解決しようとしてはならない。自分の足で歩き、自分に適用できるノウハウを構築し、活動を共にしたいと思える戦友を探し、適切な場所に適切な形で資金を投じなくてはならない。それがアマチュア活動の大変なところであり、それこそがアマチュア活動の醍醐味だ。あなたの歩いた道が、そのままあなたの活動になるのだ。わざわざ泥濘に浮かんでいる泥船に高額な対価を払って一緒に沈んでやる必要は無い。

 さて、長くなってしまった。僕が言いたいのは結局、どれだけ甘い言葉をかけられようが高額なお金がかかるならやめておいた方が良いし、好き好んで詐欺師の悪徳商法に加担するのも良くないよという事である。プロにせよアマにせよ、音楽を志して生きていくなら自分の足で歩いていこう。きっと多くの尊敬すべき先達が、自分の足で道を切り開いてきたように。

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