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【受賞スピーチ】第37回講談社科学出版賞の贈呈式が執り行われました【全文掲載】

お茶の水女子大学で教員をしております。毛内拡と申します。この度は、このような素晴らしい賞をいただき大変光栄です。本日授賞式に参加し、改めてことの重大さを実感している次第です。 

私は、脳に興味があり、脳の研究をしている研究者です。研究者というと、研究室に閉じこもってマニアックな実験をしている変わった人というイメージがあるかもしれません。研究者の仕事は実験をして論文を発表するだけではありません。教育に力を入れて、技術を継承したり、後進を育てたりするという使命もあります。また、本を出版したりテレビに出演するなどして、研究成果を分かりやすく発表したり、啓蒙したりするというのも重要な仕事の一つです。私は、研究発表を行う際や授業では、小学生の娘や地元の両親や祖母でもわかるような簡単な言葉を使うように心がけています。本書でも、そういう専門家でもないし、ひょっとしたら生物学を学んでいないかもしれない人たちの顔を思い浮かべながら執筆いたしました。 

よく君は一体何を目指しているのか、どんな研究者になりたいのかと聞かれますが、未だ自問自答の日々です。研究、教育、啓蒙と全てを同時に行うのは難しいですが、まだどれも可能性があると自分では信じています。自分で可能性を閉ざしてしまわないこと、自分から蓋をしてしまわないこと、これが重要だと私は思います。 悲しいことに、世間の研究者に対する評価は案外、どんな素晴らしい論文を書いたかよりも、どんな本を出したか、どんなテレビに主演したかだったりします。感染症対策分科会の尾身会長が、若い層にアピールするために、インスタグラムのアカウントを開設したことが話題になりました。私も幅広い年齢層にアピールするために、YouTubeインスタグラムなどさまざまなメディアに挑戦しています。引き続きテレビ出演のオファーもお待ちしております。 

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世の中には色々な業界があるものですが、業界が異なれば常識も異なるものです。研究論文は、いわゆる脱稿をしてから英文校閲があったり、ピアレビューと呼ばれる同業者による厳しい審査、追加実験の要求などがあったりして、運が良ければ数ヶ月から一年くらいたってようやく日の目を見ます。長い戦いなわけです。研究論文も、最終的にはお金を支払って商業雑記に掲載させてもらうわけですが、それに比べると本の出版業界のスピード感には驚かされました。 

本書は、ちょうど一年くらい前に脱稿しました。脱稿した瞬間から、あっという間に、まず発売日が決まります。12月という目標がまず掲げられ、それに向かってヨーイドンで動き出すわけです。そこからあれよあれよと言う間に、まだタイトルも決まっていないのに、イラストや図版の打ち合わせ、ゲラ校正、表紙イラスト、帯や宣伝文と進んで行き、結局タイトルが決まったのが印刷予定の数日前とかでした。本当に12月に出版できるのかなと何度も不安になりました。 そんなスピードの中でできてきたイラストや図版、これも見ものです。ご担当のお二方には心から感謝しております。また校正段階で間違いに気付いたり、日本語の言い回しについて勉強になったりもしました。校正のご担当者様にも大変お世話になりました。 

打ち合わせでは、何度か文京区の講談社に足を運びました。よく打ち合わせを行なっていた会議室は、ブルーバックスとは別のフロアにありまして、週刊誌を扱うような部署でした。エレベーターを降りると水着の女性のグラビア写真がずらっと並んでいて、場違いな感じがしていたのを鮮明に覚えています。 実は私の職場は、講談社のすぐ近所にあります。講談社の建物には、垂れ幕が掲げてあって、今話題の作品などを宣伝しています。今朝も確認してきましたが、今は、ながいこと人気漫画の「進撃の巨人」の最終巻のイラストが掲載されていて、巨人が感謝感動で泣いている絵なわけです。進撃の巨人ならぬ、感激の巨人と。気になる人はぜひ、護国寺の駅前の講談社に足をお運びください。毎日、通勤で講談社の前を通っていますが、この垂れ幕にいつ私の本が登場するのかを今か今かと楽しみにしております。巨人の隣にひとつよろしくお願いいたします。 

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巨人といえば、Google社の研究論文データベースGoogle scholarのトップページにはこういう文句があります。「巨人の肩の上に立つ」。これは、偉大な先人たちが積み上げた発見や業績の上に、小さな新しい発見を積み重ねていくということを表した言葉です。この度、受賞を授かりましたが、科学書というのは小説などと違って、すべてが著者の頭の中から出てきたことではなく、膨大な先人たちの、巨人たちの並々ならぬ努力があってこそ、その上に成り立っています。私はそれを紹介したに過ぎません。したがって、本賞は私一人のものではなく、私を導いてくれた全ての研究者のものであると思っております。素晴らしい研究をしてくれた全ての人に感謝いたします。 

本書を評価してくださった読者の皆様、選考に関わって下さった皆様、本書の出版に携わってくださった多くの皆様、なにより編集の家田有美子さんに心より御礼申し上げます。また、「先生の本が本屋さんで平積みになっていました」とか「目立つところにこっそり移動しておきました」とか言って、本書の出版を一緒に喜んでくれた研究室のみなさん、いつもありがとうございます。さらに、私を導いてくれた恩師の先生方、そして私を育ててくれた地元函館のみなさまと、今これを函館で見ている両親には、感謝の言葉もありません。最後に、いつも私を支えてくれる娘と妻に格別の感謝を捧げます。

この度は、素晴らしい賞をいただき誠にありがとうございました。

第37回講談社科学出版賞受賞作品 毛内拡脳を司る「脳」

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