名画座と社会生活の両立が出来そうにない
平日に休みなく働きながら、観たい映画を映画館に通って観る。って出来ることなのだろうか?
映画の予定でびっしり埋まった手帳を冷静になって眺めてみた。
最近では、映画のタイトル、時間、劇場と情報を連ねるとその他の細かい予定などが書き込めなくなるため、時間と劇場だけが書かれるようになった。何を観るべくしてその時間その劇場に行くのか、行けばわかるから良いだろうと思った。
映画館が好きだ。大きなスクリーンで、大きな音で、その時間私の体は映画の世界に溶けて1つになる。
あるいは、死ぬほど大好きな役者を大画面で見ることに、長い時間とたくさんの人手をかけて大仏を作り崇拝するのと同様な宗教性を感じる。私の中にも深い信仰が存在したのだと気付く。
観たいと思った映画を全て観たい。出来ることなら映画館で全て観たい。
私の本棚には佐藤允主演映画のDVDが並んでいる。その内映画館で観たことがあるのは半分くらいだ。
家に帰ればDVDがある。そのDVDも何度も観た。しかし、映画館で上映するなら当然観に行く。当然、当然だ。
そうしているうちに私のSNSは映画情報で溢れかえり、手帳もどんどん黒くなっていく。
しかし、映画を観るにはお金が必要だ。現在の私は映画を観る為に働いていると言っても過言ではない。
各劇場の上映スケジュール、観たい映画、手帳を並べて慎重に予定を構築していく。
過去の映画作品の再上映などに行かない人はピンと来ないかも知れないが、全国一斉公開で1ヶ月、2ヶ月と上映される新作映画と違い、名画座で観たい映画を観られるチャンスは長くてもせいぜい1週間。その日1日しか上映されないこともザラにある。
まあ、しばらくしたらまた上映されたりするのだが、そうナメてかかると上映されないかも知れない。今生の別れになるかも知れない。そう考えると観られる時にどうしても観たい。
平日のモーニング上映。名優特集でアンコール無しの5日間10本上映。それに加えて現在緊急事態宣言下で20時以降終映のスケジュールはカットされたりもしている。仕事の後に間に合う回が無い。
こんなことが続いたら、働く時間がないなあ。
だけど働かなければその内映画を観に行くことも出来なくなってしまう。そんな板挟み。
名画座で働こうと思った。
落語を聞きに行くお金が無いので落語を上演する飲食店でアルバイトした時と同じように、名画座でモギリでも映写スタッフでも何でもやって試写映画を観たらいいんじゃないか?それに単純に映画館で働きたい。
だがそうそう名画座でアルバイトの募集はかからなかった。好きな映画が偏っていれば尚のこと難しかった。アルバイト募集があっても、この数年ですっかり社会不適合者になった私はどんなに気合の入った履歴書を提出しても書類落ちだった。
ここまでをまとめる。
・映画館で映画を観たい(最優先)
・映画を観るお金を稼ぎたい
・映画館では雇ってもらえない
現状を把握し、考えた結果、私は諦めることにした。
映画館で映画を観ることは捨てることのできない人生の構成要素だ。で、あれば、私はこの映画を観られないくらいなら、その日働いて収入を得ることを諦めた。
様々な条件を並べて考えた結果である。ほぼ日雇い労働者の私は働こうと思えば翌日の仕事に手を挙げて働くことができる。何のためにフリーターなのだ?映画を見逃さない為だ!(違う)
とにかく、その日を逃せば観られない映画と、その日を捨ててもどうにかなるアルバイトを戦わせたら3秒も保たずに映画のコールド勝ちだ。
好きなものを選んで生きて悪いことなどあるはずもなかった。私の倫理観はそう言っていた。
そうして映画館に行くことを人生の最上層レイヤーに置くことを決めたからには、決めたことに従って生きるだけである。なんて晴れやかな気分だろうか。
とはいえ……全国の名画座・ミニシアターファンの社会人よ。映画を諦めず、社会生活も捨てずに生きている人がいたらその術をどうか教えてください。