「そのお店は、手とお口を使うサービスです。」
どういうこと??
そんなことを言われても、ピンともこない世間知らずな私でした。
野原さんという人は、本当にお話が上手な人でした。
未知の世界のお話を淡々とする野原さんの声を、健気に傾聴する私。
「○○さんは、こういうお店とか水商売とか体験入店も全部合わせて経験のある女性はどれくらいいると思いますか?」
検討もつかない世間知らずな私でした。
「4人に3人が経験者って言われてます。」
え、そんなに?
本当かどうか、どう調べたのかは今もわかりませんが18の小娘をとりあえず安心させるには最適数値な気がします。
この時の仕事内容に関してのお話は、どれもめちゃくちゃふわっとしていて全貌が掴めないものばかりでした。
「とりあえず、1日体験入店してみますか?今日だったらこの後できますよ。やってみて続けられるか考えてみましょう!」
と言われ、内容が不透明なことが逆手となり、やってみなきゃわからないという思考が前面に出ていました。
よろしくお願いします!!
と、体育会系な返事をするとにっこり爽やかな笑顔を浮かべる野原さん。
野原さんがいう選ばれし娘を紹介している特別な店とやらは駅から歩いて10分圏内ほどにありました。
「階段、急だからきをつけてね」
ドッドッドッ
地上にいてもきこえてくるとんでもない音量のはやりの音楽
音でっか!!!!!!!
ドッドッドッ
自身の緊張もあいまって、音楽の重低音なのか己の心拍なのか判断も曖昧に野原さんに続いて階段を登ります。
「「「おかえりなさいませ〜〜!!」」」
声でっか!!!!!!
野太い屈強な声たちに迎えられた野原さんとわたし。
部屋くらあ!!!!!!!
階段を登り薄いカーテンをくぐると、
向こうの壁が見えないくらいに薄暗い店内。
奥の方になにやら黒いソファのような素材で囲まれたネットカフェに近いエリアがあり、天井の四隅には青紫にビンビカ光るブラックライトが部屋を囲んでいます。
パッと右手に目を向けると、制服姿の女の子の写真たちがずらっと並んだ大きなパネルがかけられていて、最上部には、一列だけ別枠でNO1〜10までナンバリングされた女の子たちが掲示されていました。
何ここ?????
どういうこと???????
「体験入店?」
?!
お腰につけたどでかいドルチェアンドガッ○ーナのベルト
が、まず目に入りました。
光るんじゃないかくらい焼かれた肌とツンツンなヘアスタイルの長身超ガタイの、やたら声の高い男性。
どうやら店員さんらしい。
いや怖すぎる!
失礼だが野原さんが面接担当の意味がわかる。
そんな度迫力の店員さんに気おされながらも、野原さんの後ろをついていきます。
左手にソファには、ナースやらチャイナ服やら多種多様なコスプレに身を包む女の子が座っていて
きゃっきゃとお話をしていたり、お菓子を食べていたり。
共通していたのはスマホをいじっていないこと。
あんまり見ちゃ失礼だと思いつつもキョロキョロが止まりませんでした。
「こっちだよ!」
どかどか響く音楽の合間から、野原さんの声が私を導いてくれます。
場違いすぎる思いを胸いっぱいに抱きながら手招きする野原さんに追いつく私。
暗い店内から一転して明るい水場が現れました。
謎のアイテムがひしめく水道の向かい側には、大きな模造紙が掲示されています。
そこの下部に女の子の名前が横一列に書かれ、各名前につながるように上にカラフルな棒が伸びていて、その棒は人によって長さがちがいました。
その部屋のさらに奥の部屋から野原さんが顔を出していて、こっちだよと再度促されると
「ここに衣装がかけてあるから、こっちのロッカーに荷物をいれて着替えてね!ここにあるやつは何でも着て大丈夫!」
ほお〜〜!
さっきソファに座っていた女の子たちが着ていたような衣装たちが並んでいて、これを着るのか??と戸惑いが隠しきれません。
「じゃ今日は僕が似合うの選んであげるよ!これだね!!」
野原さんが手を伸ばしたのは、セーラー服
うそでしょ
「着替えたら声かけてね」
中高ブレザーの私にとっては人生初のセーラー服
これが、セーラー服か…
こんなに丈が短いのか…
え、ちょっと………かわいいな。
戸惑いながらも高揚しながら、待たせてはいけないとせっせと着替えます。
まあもうそのセーラー服ときたら
腹は見えるはパンツは出るわ。
あの…ちょっとちいさいかも…
と情けない声を出す私に、野原さんはまた爽やかな笑顔を浮かべて大丈夫!似合うね!と言ってくださいます。
足、小さいんだねえと靴を選びながら、はけるかな?ととんでもない高さのヒールの靴を手渡されます。
セーラー服にハイヒール?!
どういうこと?
言われるがままにハイヒールに足を詰めて外反母趾が唸ります。
「いいね!てか着痩せするんだね、何カップ?」
はあ、Dくらいかと……
ふーん!とセクハラ的な質問と裏腹に全くいやらしい目をしていない野原さん。
野菜の鮮度を確認するくらいのテンションでした。
模造紙と水場の部屋に戻ると、シャー芯の擬人化みたいな細さのメガネの男性がひたすらにおしぼりを巻き直してはタオルウォーマーに収めています。
「コンニチハ」
たぶん言っていた気がします。
「こっちだよ〜」
また野原さんの声がすると、今度は爆音フロアに移動し、ネットカフェのような仕切りの一室に入るように促されます。
「今から先輩の女の子がお仕事についてお話ししてくれるから連れてくるね!わからないことは彼女に聞いてみて。」
もうここまでほぼ野原さんのスピード技です。
ほぼ有無を言わさずに、着替えをさせセクハラをしブースにぶち込んでいます。
敵ながらあっぱれです。敵ではありませんでしたが。
わからないことを聞けと言われてもなにもわかりません。
結局、手と口をつかうサービスってなに???
想像もつかないしボケも思いつかない。
「こんちは〜〜!!リエで〜〜す!!!」
?!?!
「この子、リエさん!なんでも教えてくれるよ!15分くらいしたらまたくるね!」
前髪を分けた綺麗な黒髪のロングヘアに、目じりが垂れるようににっこりとした笑顔が素敵な
キャットスーツを着たお姉さん。
え?!
すごい人きた!!!!
次回、いざ初接客
おたのしみに。
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