アラノンの不安 (anxiety)
今回は、アルコホリズムの影響として挙げられている二つ目の症状である不安(anxiety)について考えます。アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)のウェブサイトの説明によると、anxietyとは、緊張感や懸念、血圧の上昇など身体的な変化を特徴とする感情です。また fear(恐れ)との違いについて、fearが明確に識別可能な特定の脅威に対する現在志向で一時的な反応であるのに対し、anxietyは広範な脅威に対する未来志向で慢性的な反応であると書かれています。
一体アルコホリズムの何が私たちを脅かすのでしょうか?子どもの頃のことを振り返ると、私にとっての最大の脅威は「守られないこと」でありました。コントロールを失った父の飲酒が孕む「何を起こすかわからない」危険性と、「酔った父には対処できない」という心許なさが、何かが起きても自分は守られないという状況を彷彿とさせたのです。酩酊とは本来大人が持つべき義務を放棄した姿であり、その庇護の元にある子どもが感じる不安は紛れもないアルコホリズムの影響であるでしょう。そこにさらなる言葉や身体による暴力が加わるならば、その不安はもはや子どもが抱えることができないものとなります。
一方、私たちが大人である場合はどうでしょうか。アルコホーリクが飲んでいれば、生活が脅威と隣り合わせである可能性はかなり高いと言えます。あの悪夢のような出来事がまた起きるのではないか。そう危惧するほど、私たちは通常なら気にも留めない些細なことにも怯えるようになります。電話の音。請求書の封筒。不機嫌なアルコホーリク。それらはまるで黒雲のようであり、(自分が何とかしなければ)(~が必ず起こる)(周りの人々に知られてはならない)といった強迫観念に直結します。私たちは先回りから後始末まであらゆることを請け負うようになるも、それは不安を軽くするどころか、むしろその上に重くのしかかる責務となって私たちを縛りつけます。そしてこの不安とコントロールの悪循環もまた、私たちを取り巻くアルコホリズムの環境の変化とは無関係に繰り返され、いつまでも家族全体を苦しめ続けるのです。
重たい話が続いていますが、粛々と進めていきましょう。次回は、アラノンの怒り(anger)を深く掘り下げます。