【映画】オッペンハイマー

2024年3月31日

オッペンハイマーの伝記をベースに。というだけでかなりの興味をそそられる本作品。
もちろんそれだけではなくクリストファー・ノーランが監督を務めるというだけで気分は最高潮。
うきうきで日本公開を待ち望んでいた。

おそらく元となった伝記作品の中でのセクション分けされていた、1.核分裂、2.核融合とパート分けされ核爆弾の開発に至り完成するまで、太平洋戦争(大東亜戦争)、第二次世界大戦、という歴史の転換点を乗り越えた後に共産側のスパイという疑念が沸き上がるその後というように分けられていた。
完全無欠のオッペンハイマーの伝記として作りこまれている作品だったので、当然核爆弾の製作というのは大きな要因ではあるが彼の側面の一つに過ぎないことを微塵も隠していない演出だった。
そりゃま、一般的な日本人にとっては歴史の授業、毎年のニュースで大々的に取り上げられるビッグイベント原爆投下ではあるが、米さんの認識からして【威力がでかい爆弾】【悲惨な戦争を終わらせた力】という認識が大半でありその齟齬が違和感となるのであろうというのは想像に難くなかった。
また、当時のその戦争を地政学的に認識できているかということも併せて重要であり、それについても共産主義と資本主義の争いについても知っておかないと映画の大部分が分からない。で終わる気がしている。
それによりこのオッペンハイマーの評価が日本では落ちる。ということかと思った。

オタクの教養で、ある程度の地政学的知識が頭に入っている。
ミリタリーオタクとして、二次大戦の知識とその後の東西冷戦の知識をある程度持っている。という自分のアドがかなり効いた映画だったと思う。
また以前のNHKで放映されていた、核兵器の開発に携わった科学者の特集番組でも科学者同士の核弾頭作成での意見の食い違いなども描かれていたのを記憶していたので、映画の内容が割と素直に腑に落とし込めていたのだと思う。

とにかく大西洋を取り巻く地政学、軍事知識、西側諸国の共産主義に対する恐れなどを肌感覚とまではいかないまでも、知識として知らないとノーランということも相まって非常に難解な作品となること請け合い。
特にノーランお得意の、時間の前後が容赦なく降り注ぐ上に公聴会のシーンでは切り替わり前のシーンがかかわるセリフなどもてんこ盛りでドラマが展開していくので、どの時期に何をしてこうなったかの整頓がめんどくさいことこの上ない。
そしてその整頓も彼の来歴を知っているかどうかという要素で難易度がかなり変化するので、映画を見るにあたって「事前の予習が必要」というのはくそ映画。と考えている俺でさえも、本作品に関しては少なくとも物理学上のオッペンハイマー、政治屋としてのオッペンハイマーを知っていく勉強から始めた方がいいと思えた。

それらの前提条件をクリアしたうえで本作を見れば、人間関係のドラマ、開発の修羅場、米の無尽蔵な軍事費、原爆の完成の恐ろしさ、そして戦後の処理と、東西停戦の黎明などが非常に高いクオリティで組み合わされた作品だった。
またマンハッタン計画でのトリニティ実験に至るまでの科学者のやり取りは絶妙な距離感で進み、日本では感じ取れることのできないオッペンハイマーとエドワード・テラーのやり取りなどもふんだんに盛り込まれていた。

原爆という軸で考えるとつまらない、意味がわからないと思ってしまうが、地政学的な力に巻き込まれてしまった物理学者の数奇な伝記と見ればこの上なく上質な作品だと思った。

以上。

てかオッペンハイマーマジで性欲強すぎだろ。