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【企画展】知られざる海生無脊椎動物の世界

2024年6月1日

哺乳類展に続いて企画展として開催されていた「知られざる海生無脊椎動物の世界」へ。
よく知られた脊椎動物の哺乳類に対比して完全にカウンターの様相の無脊椎の生き物を企画展としてぶつけてくるこのセンス。最高です。
企画の題の通り“海棲・無脊椎”に焦点をあてて、後生動物のなかでも先述の特徴を持った動物門を挙げて紹介する展示であった。

今回の企画展は日本館ホールも利用して系統図を見せてくるなど、企画展の中でも大きめの規模感で、まずは入口でどどんと34門の動物種の分け方を系統図で示していた。

地球館1Fの系統樹のちょっとちっちゃいVer.
とはいえ並の博物館でこれを企画展ではできない……

左右対称の体を持っているか、原口が肛門になるか、螺旋卵割か、脱皮の有無という条件などをもとに分類され、高校のときの生物のおさらいだ~~~!って思いながらこの系統樹は眺めていた。
この34門それぞれに代表的な生物種の標本が系統樹の末端に置かれているという見せ方をして、ここもまた地球館の系統樹と同じで手加減を知らない科学パワー。

前段として海棲無脊椎生物の細胞分裂の仕方とその体の成長の仕方を紹介、次段として彼らの生活環、棲む環境、繁殖の仕方を紹介し最後には、知らないながらも意外と身近に感じる彼らの人間社会への関わり方等を紹介していて、ピックアップする対象は遠く感じられるものが、手に届く範囲にいっぱいいるよ!ということを示していて非常に易しい作りになっていた。

まずは彼らの発生の仕方から。

代表的な体の作り方
左右対称・放射対称の2種

思い浮かぶ動物は基本的に左右対称というのが常ではあるが、彼らの中には細胞が集まっただけの動物も居て、左右対称ではない生物もいて、この左右対称である、そしてヒトデやクラゲのように放射対称であるというのも立派な生物種の分け方の指針である、という基本から紹介されていた。
また原口の陥入についても当然需要な指標であるので紹介されていた。
ここらあたりの知識となると高校生物の範疇であるので、面白い!というよりはやや懐かしい。という思いのほうが思い浮かんでしまう中年。
脊椎動物に関してはすべて原口の陥入は肛門となる。という事を思い出して習ったなぁ~と、しみじみしてしまう。

それでは復習しておいてください。
https://www.try-it.jp/chapters-15244/sections-15245/lessons-15275/point-2/

前行動物・後口動物との違いを明確に示すパネル
生物の教科書そのまま

続いては体の作りの様々を紹介するエリアに。

外骨格で支えるカニ
骨片のつなぎ合わせで支えるウニ
水の圧力を利用するクラゲ類などなど

生物として体をどのように維持するかは生き物にとって重要な要因の一つである。骨と筋肉、そして皮膚で外界とを境界している脊椎動物と違って海の中では様々な手法が凝らされている事を紹介する展示で実物のふにゃふにゃ感、形態のわかりやすい構造体のなどが置かれていて、液浸と骨格標本を織り交ぜてうまく紹介されていた。

生活環として、繁殖の手法が紹介されていたのだが、繁殖の仕方も我々脊椎動物からしたら彼らの繁殖はなかなかに摩訶不思議。
無性生殖は当然として、その中で縦分裂という自分のコピーを作る手法や、有性生殖をするためにまず無性生殖により自分の分身を作りその身体を切り離すなど、いろいろな生物の試みが見られる動物門である。

有性生殖のための分身を作り切り離す
ストロナイゼーション

極端に生物に入れ込んでるわけではないけど、比較的こういった動物の生態には詳しいと自負してるなか、初耳のものばかりでまだまだですね~。と思ってしまった。
もっと体系的に学んでいかないと知識は浅いままだなぁと痛感するセクションだった。

そして動物として求められる能力として“移動能力”があるのだが、自分の足を使い陸を歩く。という選択をしている我々と、海棲という水中を生活の種とする彼らの移動の概念の違いも面白い。
というか移動するのをやめている生き物も多々居て、海流など外界の要因で移動せずとも生命を繋げられるという環境もなかなかに母なる海を感じる。

最後にこれら海棲無脊椎動物から得られる人間社会との関わりを見ていくが、当然益ばかりではなく人にとっては有害とされてしまう動物も居て海という隔てるもののない一つの水の塊での生き物を管理するという難しさを感じる展示であった。

ホタテ養殖にとりつくホヤ

上記のように人間の行う養殖に害を与えるという語られ方をしているが、そもそも海は誰のものでも無いので人間はなんとかやっていくしか無いのよね~。って思いながら見てたら最強の解決法。食う。という海洋国家日本の海産の名産品の展示となっていたのは笑ってしまった。

日本人の特技、食う。

侵略的外来生物も食べたら美味しい。っていう紹介のされ方をしていたので日本人ほんと食うのが好き。

なかなか身近に感じることのない海棲無脊椎動物というくくりのこの企画展、基本を踏襲しながらキャプションなどが安定の科博クオリティなので、見やすい上に生物の教科書のおさらいもできる!
生物が生物たる由縁としての基礎の部分についても彼らを通じつつおさらいできるのでとてもおもしろい上に改めて勉強になった。
系統樹をきちんと洗いながら見ることって大事だよなぁ。という事を感じた展示だった。

以上。

生物にとって当たり前という言葉をあてがうのは陳腐なのだろうな。
と、思い起こす主催の言葉で〆