見出し画像

孫が甲状腺がんになりました~子ども脱被ばく裁判の集会で参加者が訴え~


「はじめて参加します。今朝、福島駅前で、この裁判のチラシを受け取って、その足で傍聴しに来ました。というのは、うちの孫も甲状腺がんになったからです

 福島地裁で5月15日に行われた「子ども脱被ばく裁判」第18回期日。
終了後の報告会で、ひとりの女性が、そう話し始めました。会場の空気は、一気に張り詰めました。
女性は、努めて冷静に話そうとしていましたが、その声はうわずっています。彼女のお孫さんは、原発事故当時、中学校2年生。現在は21歳で、社会人になっているそうです。彼女は、こう続けます。


◎甲状腺がんを告げたら採用試験に不合格◎

 「孫は会社の面接で、甲状腺がんの手術を受けていることを話しました。そしたら不採用になりました。ふたつ目に受けた会社には黙っていました。そしたら、その会社は採用でした。原発事故のせいで、こんな不条理なことが起きています。いずれ裁判を起こして(国や県の責任を)はっきりさせたい」

 福島県が実施している「県民健康調査検討委員会」の発表では、甲状腺がん(悪性疑い含む)と診断された子どもは現在までに212人です。

 しかし、県が甲状腺がんの疑いがある子どもに検査費を負担する「甲状腺検査サポート事業」で、申請を受けた子どもの数を合わせると、少なくとも275人の子どもが、原発事故後に甲状腺がんになっていることがわかっています。
 つまり、国や県は、甲状腺がんの正確な子どもの数すら把握する気がないのです。

 原発事故直後、福島県が隠さずにSPEEDIのデータを公開していたら。
 各自治体が適切に子どもを避難させていたら。
「うちの孫は、私の子どもは、甲状腺がんにならずにすんだかもしれない」
そんなやりきれない思いでいる保護者が、何百人といるということです。


◎不溶性セシウムによる〝内部被ばく〟のリスクを問う◎

「子ども脱被ばく裁判」は、こうした国や行政の責任を追求している貴重な裁判です。大きな争点は、〝内部被ばく〟のリスクがいかに大きいかという点。
とくに問題にしているのが、〝不溶性放射性セシウム〟の存在です。
不溶性放射性セシウムとは、文字通り、水に溶けにくいセシウムのこと。通常の放射性セシウムは水に溶けやすいので、体内に入っても体液や血液にのって、いずれ排出されます。
 しかし、不溶性は水に溶けにくいので、いったん体内に入ると長くとどまり、体内で放射線を発し続けます。つまり、被ばくリスクが、より高いのです。
 
 不溶性放射性セシウムを調査している河野益近さんによると、国道4号線の(福島~郡山間)道路脇に堆積している土壌の約98%以上が不溶性であるとのこと。
「人が呼吸で吸い込んだ場合、25マイクロメートル程度以下の微細粒子の一部は気管支や肺胞に取り込まれ、沈着する可能性もある」と述べています。

こうした証拠を残していくことも、この裁判の大きな意義です。


◎山下俊一も証人喚問へ◎

 2015年から始まった「子ども脱被ばく裁判」も、いよいよ佳境に入ってきました。
10月から〝証拠調べ期日〟が5回行われるとのこと。通常は3回程度なので、裁判官がこの裁判にかける意気込みがわかります。
  
 この証拠調べでは、本人尋問や証人尋問が行われ、判決は来年の8月頃になる予定です。

 弁護団長の井戸弁護士は、「〝不溶性放射性セシウム〟による内部被ばくを中心に扱ったのは、子ども脱被ばく裁判がはじめて。従来、議論されていなかったテーマだけに、被告の国側も防御しきれていない。あとは、これから始まる証人尋問で、どれだけ裁判所に印象づけることができるかがカギになる。まさに私たちの腕が試されるので気を引き締めていきたい」
 と語りました。
 
 証人尋問には、「笑っている人には放射能は来ない」と言った山下俊一氏(長崎大学理事・副学長兼福島県立医科大学副学長、福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)も呼ぶ予定とのこと。被ばく史に残る法廷になることでしょう。

 「福島のことはよく知らない」という方も、この裁判を傍聴していただければ、テレビや新聞の報道では伝わってこない福島の問題がわかります。

 ちなみに、弁護団長の井戸謙一弁護士は、裁判官時代に志賀原発の差し止め判決を出した有名な方。また最近では、湖東(ことう)記念病院事件でも主任弁護士を務め、再審請求を認めさせています。


 ままれぼ出版局では、井戸弁護士が子ども脱被ばく裁判について書いた著書「怖がっていい、泣いていい、怒っていい、いつか、さいごに笑えるように――」と、「原告陳述集Ⅰ」を販売していますので、こちらもぜひご覧ください。


よろしければ、サポートお願い致します。みなさまからのサポートを個人の取材等の経費にあてさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。