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子ども脱被ばく裁判第21回公判傍聴記

 10月1日、「子ども脱被ばく裁判第21回公判」を傍聴。いよいよ証人喚問が始まった。

 この日、原告側の証人に立ったのは、3名。放射能測定を長年続けている河野益近さん。原爆の被ばく者250人の主治医であり、現在は、福島の子どもたちの健康診断などを行なっている医師の郷地秀夫さん。そして、原告で元・原発作業員の今野寿美雄さんだ。

 この裁判では、原告らが住む福島県内の自治体に対して、「子どもたちが被ばくする心配のない環境で教育を受ける権利」を求めるとともに、国と福島県に対しては、「原発事故後、子どもたちに被ばくを避けさせる措置を怠り、無用な被ばくをさせた責任」の追及を行なっている。

 そのため、原告側の主尋問では、「福島県に住み続けることの被曝リスク」や「国や県、自治体がいかに情報提供を怠り、その結果、住民が無用な被ばくをさせられたか」という点が明らかにされることになる。

 この日の主尋問で、強く印象に残ったのは、以下のような点だった。

■データが示唆する健康リスク

 まず、トップバッターの郷地氏は現在、兵庫県にある東神戸診療所の所長で、これまで兵庫県内の原爆被ばく者の主治医をしてきたという。そうした経緯から、福島第一原発事故後は、福島県や関東周辺から避難してきた方、および保養に来た方に対し、健診や調査を行なってきた。その調査データから、原発事故の影響を受けた地域の住民(とりわけ福島県在住者)の健康リスクが高まっている、という証言が出た。

 ごく簡単に説明すると、郷地さんらが、「①福島県在住で兵庫県に保養に来た方」「②福島県から兵庫県に避難された方」「③福島県外(おもに東京)から避難された方」合計418人を、2012〜2019年にかけて調査したところ、放射線の影響によって罹患することが医学的に認められている〝自己免疫性甲状腺炎〟(橋本病)の子ども(20歳未満)の陽性率が、①が29%と最も高かった。②は13%③は11.8%なので倍以上だ。一般的に、自己免疫甲状腺炎は女性に多く、子どもにはほとんど認められないという。
 しかし郷地さんらの調査では、①で女性の陽性率が20%であるのに対し、男性では37.5%と男性の方が高かった。さらに、同じく①〜③グループについて、がんを抑制するP53遺伝子が傷つくと血中に出現する「P53抗体」も調べたところ、平均年齢が20代後半というがん年齢より相当低いにもかかわらず、陽性率は9.7%と高かったという。P53抗体は加齢とともに陽性率が上昇し、70歳以上になると陽性率5%程度になるのが一般的だという。

 郷地さんは最後に、「こうした調査結果は、原発事故の影響を多く受けた地域に住み続けることのリスクを示唆するものだ」と証言した。

(郷地さんらの調査結果は、こちらから詳細を確認できます)

■体内に入ると数百万倍内部被ばくが大きくなる可能性も

 二番目に証人尋問に立った河野さんは、福島第一原発事故後に関東周辺まで飛んだ〝不溶性放射性微粒子〟の採取を続けてきた。これは、従来の水溶性のものとちがい、体内に取り込まれたら臓器に沈着して排出されにくい。被ばく量も水溶性のものに比べ、年間で数百万倍大きくなる可能性もあるという。河野さんが、福島県内の国道4号線路上に堆積している土を採取して調査したところ、106μm以下の粒径の土壌に含まれる放射性セシウムは、98%程度以上が不溶性放射性微粒子であることがわかった。気管支や肺胞に取り込まれると、従来よりも長く留まる可能性が高い。
 これまでICRP(国際放射線防護委員会)は、水に溶けやすいタイプの放射性微粒子でしか、内部被ばくのリスク計算をしていなかった。そのため「現時点では、不溶性の放射性微粒子が体内に取り込まれた場合の被ばく評価方法が確立されていないので、少なくとも子どもたちが、そこに住んで安全といえる根拠はない」と証言を締めくくった。

■SPEEDIの情報が隠されていなければ被ばくは防げた

 最後に、本人尋問にたった原告の今野さん。原発事故のときは、女川原発の中で働いていた。福島県浪江町に、妻と5歳になる子どもと三人暮しだった。すぐに自宅に戻りたかったが、女川原発周辺の放射線量が高かったため、現場から外に出ないように言われたという。携帯電話もメールも通じず、妻と子どもが気がかりだった。連絡がとれない間に、妻子は放射性プルームが流れていった浪江町の津島に避難していたという。

あのとき家族と連絡がとれていたら、そして国や県がSPEEDIのデータを公開していたら、「もっと遠くに逃げて!」「ヨウ素剤をすぐに手に入れて飲んで!」と伝えたかったのに悔しい、と証言した。

 浪江町は津島地区をのぞいて2017年3月に避難指示が解除されたが、今野さんは自宅に戻るつもりはない。現在は、福島県飯坂町の復興住宅に家族と暮らす。自宅は取り壊す決意をしたという。

 反対尋問に立った国・東電の代理人からは、「浪江町に戻っていたとしたら、ご子息が通うことになっていたのは「なみえ創成中学校ですね。校庭のモニタリングポストの値は、毎時0.07マイクロシーベルトなのをご存知ですか?」という尋問があった。空間線量が低いのになぜ帰らないのかという趣旨だ。これに対し今野さんは、「除染しても、自宅周辺の土からは、不溶性放射性微粒子を含む250万ベクレル/㎡の汚染が見つかった。そんなところに子どもを連れてかえれない」と語気を強めて証言した。

 福島に住むことの健康リスクや汚染について明らかにすることは、「差別や風評被害を助長しかねない」とふたをされがちだ。しかし、事実を明らかにすることで、二次被害を防ぎ、なによりも同じ過ちを繰り返すことを避けられる。そういった意味で、真っ向から被ばくリスクを問う子ども脱被ばく裁判の意義は大きい。

■裁判長は鈴木氏の証人尋問に意欲的

 公判終了後の報告会では、弁護士から、福島県立医科大学・鈴木眞一教授の尋問予定について報告があった。鈴木教授は、福島県内で実施されている県民健康調査で、小児甲状腺がんの手術などを担当する甲状腺専門医だ。
現在、福島県内では、273人という異例の多さの小児甲状腺がんが見つかっているが、県の専門家で構成される検討委員会は、「放射線の影響は考えにくい」と結論づけている。臨床データは明らかにされていない部分が多く、鈴木氏の証言が重要になるのだが、鈴木氏は「日程が合わない」と証人尋問を渋っているという。

 これについて井戸弁護士は、「裁判長は非常に前向きで、『やるからには意味のあるものにしたい。そのためには、対立する側からの申請で尋問する場合、かみあった尋問にするのがむずかしいので、福島県側から証人として申請してもらい、鈴木氏の言い分を事前に陳述書にまとめてもらったうえで、こちらが疑問点を突いていくという方法がよい』と意向を示した」と述べた。

 また柳原弁護士は、裁判長が「鈴木氏の日程が公判日と合わないなら彼の予定に合わせてもよい」と述べたことを明かした。

 次回、第22回口頭弁論は11月13日(火)午前10時10分〜福島地裁。


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福島第一原発事故以降、福島での取材を重ね、12年に福島の今を伝える季刊誌「ママレボ」を創刊。ままれぼ出版局を立ち上げる。「女性自身」でも、原発事故や汚染の問題を中心に発信中。 ままれぼ出版局の本は、こちら。http://momsrevo.blogspot.com/
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