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重要文化財(伝統木造建築)の耐震診断・補強設計の記録01

■はじめての需要文化財耐震診断

 大阪市のど真ん中に位置する明治期に建設されたとある重要文化財。このたび、一般公開施設として活用するということで、弊社に耐震診断・耐震補強の依頼をいただいた。

 弊社初の重要文化財の耐震診断業務であり、恥ずかしながら当初はすべて外注事務所任せにしていた。

 その結果、外注先から出てきた補強案は既存の土壁を斫り(はつり)飛ばし、多くの合板パネル・鋼板パネルを設置するというなんとも悲しい案になっていた。

 いったいなぜこの建物が、兵庫県南部地震をはじめとする幾多の地震被害を受けつつも現在の姿を保っているのか。そこに顧みて私が引き取って、一から診断内容の見直しを始めた。

 最終的に本業務を完了させるのに一年を要したが、いにしえの職人技、木材の性質、伝統的な軸組など、勉強になることは多く、非常に良い経験となった業務である。

■診断開始にあたって

 診断するにしても、何はともあれ現地を見ないことには始まらない。耐震診断は現地調査の結果が全てと言っても過言ではない。

 さっそく建物内に入らせてもらったのだが、築100年以上の建物は各部材が極めて健全であり、古の大工の業のすばらしさを改めて実感することとなった。

 土壁は孔や欠けもなく、主部材はしっかりとその姿を保っていた。調査と言いつつも伝統木造建築のすばらしさに感動した私は、最終的に30回以上、その建物を訪れることになったのだ。

 調査業務も当初は外注していたものの、仕上げで隠れている部材については『未確認』とされ、どんな部材が配置されているのかがわからなかった。

 すべてをひっぺがして躯体を確認するわけにもいかず、専門家である大工さんを探し出して協力いただくことにした。見えない部材についてはサイズを想定してもらい構造図に記録していった。

 さすが大工さんだ。どんな梁の架け方で、どのような仕口部納まりかというのを、中を見ずとも想定できるのだ。この技術は我々も学ばなければならない。

  この建物の場合、柱にスギ、ヒノキなどが混在、梁はマツだった。仕口部はほぞタイプで、込み栓か各所に見られたが緩みはなかった。
 多少の漏水跡、柱の傾斜、虫喰いが確認された程度で、他は健全だった。基礎は、礎石の束立て形式となっている。

■診断法の選定

 まずは、構造図が完成した。どこに土壁があり、どこにフレームが組まれているのかが概ねわかった。これらの耐震要素を洗い出し、耐震診断に取り掛かることにした。

 耐震診断も紆余曲折あり、最終的には日本建築構造技術者協会関西支部(以下、JSCA関西)の『限界耐力計算による耐震診断・耐震改修に関する簡易計算マニュアル』に沿って診断することに決めた。

 診断法は、限界耐力計算により、安全限界変形角を1/15として大きな変形時の耐力を評価している。

 また、JSCA関西の構造技術者によって、耐力要素の復元力特性の実験や計算法の検証が成されており、大阪府や大阪府建築士会でも認められた診断法である。

 過去には、専門的な構造エンジニアだけではなく、意匠設計者も当マニュアルに基づいて耐震診断をおこなったそうで、やり方をマスターすれば誰でも計算可能なのである。
 私もそれに従って、耐震診断を進めていくことにした。

 つづく。

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