桃一

宇宙が怖い文系SF者。

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ネルガル狩り

 メリディアニ平原ポイントC3へ向かう輸送ヘリの中で、僕は10歳になった。もちろん、火星年齢換算だ。地球年齢換算なら――どうでもいい。護送船生まれの人間にとって地球は遠すぎる。そこで何歳であろうと、水一滴ほどの意味もない。 《見ろよ、蟲使いセンセ》  スピーカーからフランチェスカの声と同時に、<棺桶>内側のモニタには「斥候班LIVE」と表示された映像が出現する。そこではメリディアニ防衛線を襲撃していた蟲の軍団が、爆炎と共に宙を舞っていた。 《誕生日の祝砲だぜ》  火星の砂に含

    • フューネラル・ロック

       高層ビルの屋上で、男のコートの裾が強風に踊り狂う。彼は涙を流す少女を抱き締めて、生きて幸せになるんだと励ましていた。  空はよく晴れていた。今日の仕事もうまく行く。俺は銃に手をかけて、タイミングを計る。  男が銃を抜く。  きっかりコンマ5秒、遅れて俺も抜く。  風を切り裂く銃声が二発。俺はのけぞって倒れ、ほぼ同時に、男も倒れる。  内耳に仕込んだ通信機から、歓声と拍手が雷鳴のごとく響いた。 (ありがとうございました)  喪主の女の声は、感謝と悲しみに震えていた。 (夫も満

    ネルガル狩り