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【コレクション展】藤助さんと幕末 - @神奈川県立歴史博物館

【コレクション展】藤助さんと幕末

まずは、開館直後の神奈川県立歴史博物館へ。

鈴木藤助さんは、歴史を動かした!とか、何らかの事件にかかわった!とかではない、
ただの一般人。 
身分はお百姓さんです。
なのですが‼ 
素晴らしい資料(日記)を残しました。
それが今回の展示なのですが、とっても興味深かったです。

藤助さんは、ペリー来航に衝撃を受けたようで、それきっかけに日記を書き始めます。

ペリー来航、頻発した安政の地震、桜田門外の変、戊辰戦争、明治維新、洪水などなど…
混乱の幕末、彰義隊を騙るニセモノが村に現れ金銭を要求する事件もあったようです…

現代でも我々は 「もう、ここから日本の未来はどうなっちゃうの?」 と悲観したりする事も多いわけですが、きっとその比ではないくらい「どうなっちゃうわけ?」と思ったに違いありません。

しかし、藤助さんの日記は本人が書けない時は家人が代わりに筆を執ったとの事ですから、本人の感情ではなく事実が書き連ねてあります。
それが、小さな字で筆でみっちりと書かれており、37年間に渡って58巻もの日記を続けた覚悟や決意の表れのような気がしました。
ご本人の几帳面でまじめな性格ももちろんあるのでしょうが、それ以上のものを感じました。

ペリー来航は藤助さんに「これから世は変わっていく」と確信させたに違いなく、感情の吐露ではなく、子孫に仔細を伝えたい、その一心だったように思います。

とはいえ、悲観的だったわけではないようです。

藤助さんはお風呂が好きで(珍しく内風呂付のおうちにお住まいだったとのこと!)、熱海や箱根、時に草津や伊香保にまで足を延ばしていたようです。 現在、23区に住む我々家族と全く同じラインナップです。
57歳の頃の約1か月間の温泉旅行では、1日に10回、計178回も入浴したとのことですから、そのお風呂好きは尋常ではなく、かえって湯あたりして疲れてしまうのでは?と心配になるほどです。

また、自分たちのみならず、使用人たちが熱海へ温泉旅行に行く時はお小遣いを渡していたそうですから、使用人といえども割と自由で、かつ藤助さんは太っ腹な人物だったのだと思いました。

仮に私が温泉旅行に行きます!と有給申請をしたら、上司も会社ももちろん快く許可はしてくれるが、お小遣いは絶対に頂けないだろうという事を考えると、藤助さんの素敵さが分かります。

そして、幕末や明治の「奥様」業。
磯田道史先生の本を読むとよくわかるのですが、存在するだけで良い身分の奥様とは違い、全く奥に鎮座していません。
藤助さんの奥様は”およし”さんというお名前の女性なのですが、働きまくっています。
鈴木家、身分は百姓ですがかなり豊かで醤油業を営む豪農だったようなので、力仕事というよりは、主にマネージメントです。
親戚縁者の挨拶やお見舞い、お礼やお返しなど、もう毎日のように細々とある。

例えば、明治9年の3~4月などは、およしさんの外出日は23日にも及び、親戚の家で外泊もありました。
女性は家に閉じ込められてとか虐げられていたとかいう、私が学校で習った「歴史」は、だいぶ捻じ曲げられていたんだなと痛感します。

さて、藤助さんが亡くなった後も息子によって日記は続きました。
明治に入り、醤油醸造業に課税が義務付けられるようになると、廃業となってしまいました。
ここら辺は朝ドラの「らんまん」と経緯が似ているのだろうなと推測。

出典:NHK朝ドラ『らんまん』第89話より

鈴木家では、お茶の生産業などにも意欲を見せ、様々な模索を行っていったのだろうなと思いました。


唐突に入り口の写真

藤助さんの日記に惹きつけられた理由。

それは恐らく、激動の時代を生き抜いた”ある一般人の記録”が自分と重なったからかと思います。

藤助さんは、何も歴史に名を残すようなことはしていません。
ペリー来航の際、船に侵入しようともしていないし、異人を切ったりだとか、奮起して何かの隊に入隊して戦ったりだとか、井伊直弼に攻撃をしたりとかもしていません。
激動の時代を生き抜いた、ただの一般人、いうなればモブ、でも実際は地域の中心的人物で小学校設立にも尽力した立派な人物です。

私も世の中的には、何も歴史に名を遺すようなことはしてないし、これから先もまぁないだろうという一般人です。
(藤助さんのように、地域のリーダー的存在でもない) でも一生懸命生きている。
日々税金の高さにウンザリしながらも、まじめに働き、まじめに生きています。
色々と悲観したり、いやだなぁと思うこともありますが、藤助さんのように生きていけたら、それが最上なのではないかと思いました。

なお、もちろん歴史研究の上で素晴らしい資料であることは、間違いありません。

常設展に続く…!

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