無題 Ⅰ (夢の創作物語)
蒼白い子供たちは、たしかにあの区域にいるはずなのだ。
わたしは、微かな望みを頼りに、ボロボロになった埃まみれのマントを身にまきなおし、
砂に埋まり始めた瓦礫の上を、足早に駆け抜けた。
顔にあたる細かい砂嵐が痛く感じていた。先程より視界も悪くなってきたな、そんなこともぼんやり思った。
見渡す限りの廃墟郡と、いつの時代の戦いの残骸かわからぬ鉄クズたちが、異様なカタチにひしゃげ、隙あらばこの首を切り裂こうと狙う鎌のようにも見えた。
わたしは、だいぶくだって来た。
あたりはずうっと、暗いままで、おそらくもう何年も光源という光源にさらされたことはないのであろう。
そのおかげか、わたしの眼もだいぶ暗闇に慣れてきていた。
建物のすきまから、さらに下に降りる入り口を見つけた。
しかし入り口のまわりも、得体のしれない残骸でその殆んどが塞がれているもんだから、身をよじってこれ以上マントが傷つかぬように慎重に中へ侵入した。
外と違って、中は静まり返っていた。
さっきまでの暴風と砂嵐も、まるで存在していないかと錯覚をおこすほどの無音だった。
わたしはそのなかで、何処にいる…何処にいる…こたえておくれ…何処にいるんだ…と、静かに意識を集中させた。
次の瞬間、ハッと脳裏に3人の顔が見えた。
見つけた。
わたしは、なるべく物音を立てぬように静かに、でもできるだけ速く駆け抜けた。高鳴る胸の鼓動が、この無音に響き渡るのではなかろうかと少しだけ心配になった。
屋根のふきとんだであろう長い乗り物の、その沢山ある座席の一番前に、老朽化してできた窪みだろうか、子供たちがうずくまり収まっていた。
できるだけ、怖がらせないようにしなくては…。
わたしは、そう思いながら、彼らの言語とわたしのそれが通じると、よいが…大丈夫かね?と、小さく話しかけた。
途端に、パッと、振り返る子供たち。
頭髪はない。肌は蒼白く、透明感もない。ざらつき骨が浮き彫りになっているのがわかる。
瞳は大きく、暗闇のせいか、どこを捉えているのかわからなかった。しかし、うらうらと瞳の表面が揺れているような気がした。
衣服というようなものは、纏っておらず、その生命維持か体温維持のために、重要部位は固く甲殻化しているようにも見えた。
近寄ってもいいかね?
そう告げつつも、あまり時間もないので足は動いていた。
子供たちは、スクッとたちあがり、無表情でその痩せ細った両手を差し出してきた。
わたしは、ひとりずつ丁寧に、ひざまずき、手をとり会釈をした。
3人だと、思っていたが、もうひとりいた。3人よりもすこし小柄で、まだこの3人より顔の骨格が発達途中であるから、3人よりも顔が違ってみえた。3人は、まったく似た顔立ちだった。
わたしは、ボロボロのマントをひろげた。子供たちに入りなさい、と告げると、みんなわたしの身体にひしっとしがみついてきた。
わたしは、できるだけ長く抱きしめた。それから、4人全員に、わたしの想いを浸透させた。
4人は、わたしを見て、そのうちのひとりがこう言った。
「…まだもっと、むこうに、まだ、まだ」
わたしは、驚愕した。
しかし、それを悟られぬように、無言で頷いた。
きみたちは、もう此処にいる必要はないから、わたしと共にまず歩こう。歩けるかな?
4人は小さく頷いた。いちばん小柄な子供と横の子供は、手をつないでいたので、もしかしたら、これは、一族の問題から派生したのかもしれないな、と心のなかにドロッと嫌な液体が流れ落ちるのを感じた。
つづく
いつもありがとうございます(о´∀`о)💕これからもよろしくお願いします🌈✨🙏