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奥山村物語ー7

夜の肝試しの散歩から、そのまま、貰い湯に行く計画のですが、その貰い湯のおうち方面の道をそれぞれのグループは歩いていたのです。
ですから、おうちの近くの田んぼで働いている人たちは、そこで、すでに、今夜お世話になる子供たちとご対面する状況になっていたのです。

これは、平野君と谷口君のアイデアでした。そして、すでにそれが、功を奏した結果となっているようでした。
それぞれのグループが役場の駐車場に到着し始めました。平野君と谷口君が待ち受けていて、到着する子たちから順番に飲み物を配ります。
皆思ったよりも元気に歩き通したようでした。
全員が揃ったところで、村長さんにご挨拶に行きます。
村長室は、子供たちでいっぱいです。
そして村長さんが、
「今日はよく来ましたね。君たちは今日から4日間ここ奥山村の村民です。みんな仲良く、楽しく、いっぱい遊んでください。そして、村の人たちとも仲良くしてください。いいですね。では、村の人たちが、皆さんを歓迎して、用意してくれた、お米と野菜を持って帰ってください。」と言って村長室から外に出ると、そこにはリヤカーにお米と野菜が山盛りになっていました。
「みんなで助け合って、公民館まで引いていけるかな?」
「は~い」
そういって、子供たちは我先にリヤカーの先棒にとりつこうとします。
谷口君が、それを制して、「みんな、まずは村長さんにお礼を言わないといけないだろう。」
「ありがとうございました!」
「は~い、またあとで、公民館に顔を出すからな~」「は~い」
村長さんもご機嫌でした。
そして村役場の職員の人たちも笑顔で、見送ってくれました。
子供たちはリヤカーにまとわりついたり、谷口君が用意したロープでリヤカーを引っ張ったりしながら、公民館に戻っていきました。
途中、下り坂や、上り坂があり、そのたびに四苦八苦しながらも、どうにかこうにか、公民館までリヤカーを引いてくることができました。
もう、夕方近くになっていました。

「さて、では、この野菜を使って晩御飯を作ることにしましょう!」と、谷口君が高らかに宣言します。
「お~!」
子供たちは、どんどんたくましくなっていくように見えます。

公民館の前の広場で、「くど」と「はがま」でご飯を炊きます。
子供たちは不思議そうにこの道具を見ています。
谷口君が、説明を始めました。
これでご飯を炊きます。
これは「くど」と言って、かまどの役割をします。ここで火をたいて、上にこのおかまを載せます。ほら、この土星の輪のような羽がちょうどうまい具合にこの「くど」の上にひっかかるでしょう。
では、公民館の裏にまきになる木や枯葉があるので運んできてください。そして、何人かはお米を洗うのを手伝ってください。
後、何人かは公民館の中の調理室で、トン汁と作ります。
おかずは、トン汁と、サラダ、それにお漬物です。

公民館の周りに、たき火の煙が立ち込めていきます。
夕焼けが西の空に広がり、ひぐらしが鳴き、煙の香りの中に、ご飯の炊けるにおいが混ざっていきます。
子供たちの声が、夕焼けの空に響いています。
福田さんは、この風景を見て、ああ、これが、故郷の風景だ…と、ひとりごちるのでした。

そんな郷愁に一人浸っていると、視界の片隅に、女の子が一人しゃがんでいました。
見ると、最年少参加の小学3年生のあかりちゃんです。
「あかりちゃん、どうした。」
と、福田さんが話しかけても返事をせず、しくしく泣いているばかりです。福田さんが途方に暮れていると、今野さんが近づいてきました。そして福田さんにそっと「きっとホームシックです。私が、付き添いましょう。」と、言ってくれた。
福田さんは正直ほっとすると、「じゃあたのむよ」と、軽く頭を下げました。
そういえば、若いときのキャンプでも、そんな子がいたな~。すっかり忘れちゃってる。今野さんは、あかりちゃんと一緒にしゃがんで何やら話し込んでいる。お任せておいて大丈夫だろうなと、福田さんは、再び、大騒ぎしている子どもたちのほうに、歩んでいった。

今野さんは、そっとあかりちゃんの肩に手を置くと、すぐ横に、一緒にしゃがみこんだ。
「どうしたのかな…」
「・・・」
「寂しくなっちゃったかな?」
「・・・」
返事はなく、しくしくとしゃくりあげるばかりです。
今野さんはあかりちゃんをそっと抱き寄せると、「夕焼けきれいだね~」と、言ってしばらくじっとしていた。
すると、あかりちゃんが…「お家に帰りたい」と、ポツリとつぶやいた。
「そっか…帰りたくなっちゃった? でも、おうち遠いしね…それにほら、いい匂いしてきたよ。トン汁でしょう。お姉さんはおなかすいちゃったな~。あかりちゃんはおなかすかない?」
あかりちゃんは小さくこくりとうなずいてくれた。
「よ~し、じゃあ、おいしいトン汁食べに行こう。みんなの分もよそってあげようよ。」
「うん…」と、おずおずと今野さんと一緒に立ち上がった。
実は、あかりちゃんは今野さんのグループの女の子だったのです。
今野さんはあかりちゃんをトン汁づくりをしている台所に連れていくと、みんなで一緒によそるお手伝いをしてくれるようにお願いしました。
すると、元気者のテル君が、他のグループにもかかわらず、「おっしゃ、一緒によそうのやろうぜ」と楽しそうに請け合ってくれたのです。
今野さんは、微笑んで、「じゃあ、テル君一緒にしてくれる?」「まかせとけ」と、軽快です。
そして、「えっと、名前は?」
あかりちゃんは小さな声で、「あかり」
「あかりちゃんか、よっしゃ、あかりちゃん、一緒におわんを取りに行こう!」
「うん」
少しだけ声が出てきたあかりちゃんは、お兄ちゃん格のテル君の後ろから、食器棚に向かいました。
今野さんは…(とりあえずは大丈夫かな…でも、今夜もう一回ぐらい、お家に帰りたくなっちゃうかな…きおつけておかないといけないな。)と、思いながら、微笑んでふたりを見ていました。

夕食は男の子の部屋と女の子の部屋のふすまを取り払って、机を並べました。
みんなワイワイガヤガヤ。
グループごとにまとまって座りますが、いただきますは、みんな一緒に、谷口君の「いっただきま~す」に合わせて大合唱をして、夕食が始まりました。
すでに午後7時を少し回っていました。
夕食を食べ、片づけをし、お布団を敷くとすでに8時を少し回っていました。
みんなよく食べました。

さて、襖を取り払った大きな部屋に、全員がもう一度集まると、平野君が話を始めました。
「みんなしおりは出してあるね?」
スタッフが、再度集まるときに子供達に話をして、しおりと筆記用具を用意させていました。
「しおりの予定のところを見てみよう。今日のページを見て。」
今日の1日の行動を振り返ります。
この村について村長さんにご挨拶をして、食べ物を運んできたこと。
その途中で、村の人たちに挨拶をしたこと。
その時のエピソードなどもスタッフから引き上げてあり、いくつか紹介しました。そして、みんなで、晩御飯を作ったことなどです。
そして、話し終えると、
「みんなは何が楽しかったかな?楽しかったことをそのしおりの今日の日ずけが書いてあるページに書き留めておこう。忘れないようねね。そして、そして、お家に帰って、そのページを見せて、家族の人にお話しできるようにしておこう。小さな子たちは絵を書いてもいいよ」
と、いって、各リーダーに書き始めるよう小さくうなずいて促しました。
しばらくは、あちらでヒソヒソ、こちらでヒソヒソと話がありましたが、だんだんと子供達は書くことに真剣に向かい会い始めました。

書き上げる時間は子供によってまちまちです。書き上げた子供が飽き始めて、いろいろ動き始めます。
見計らったように平野君は「書けた子は一度外に行こうか。しおりをリーダーに渡して、筆記用具をしまってから外にいる谷口君のところに集まっていて下さい。」
谷口君がそとでてをあげています。
何人かの子供がごそごそとたちあがり、かたづけをして外に出て行きます。

谷口君は外で、何やら子供達と話をしています。
そして、子供たちは、それぞれ、桜の木下をこちらの桜の木からあちらの桜の木下まで、行ったり来たり歩き始めました。
後から行った子供たちも谷口君と話をすると歩き始めました。
歩き終わった子供は、谷口君に耳打ちをすると、喜んだり、がっくりと肩を落として、また歩き始めたりです。
喜んだ子は、再び谷口君に何か囁かれ、今度は石ころを拾い始めました。

そんなことをしているうちに、全員が日記を書きを書き終わりました。
平野君も外に出てきました。
月の綺麗な夜でした。
子供たちは野菜を運んだりするコンテナを椅子にして座り、ました。
「さて、明日の話をしましょう。」と、平野君が切り出します。
「谷口君に話してもらいましょう」
子供たちがぐっと身を乗り出しました。

谷口君がみんなの前に出てきて話はじめます。

明日は朝起きたら、みんなで、ここで朝ご飯を作ります。
サンドイッチです。自分で好きなものを挟んで食べます。
子供たちがざわつきますが、谷口君は構わず話し続けます。
食事がすんだら、川遊びに出かけることにしましょう。
今度は、歓声が響きます。
谷口君はしばらく待って、続けます。
お昼ご飯は、川でお弁当を食べます。
川に入って遊んだ後は、帰って来て、お昼寝です。
そのあと、晩御飯を食べます。
そして、その後、村の中を歩いて、みんなそれぞれ村の方々のところに行って、お風呂にいれてもらいます。
「温泉?」すかさずテル君が声をあげます。
谷口君は、それには答えず、
何人かづつ村の方々のお家にお邪魔して、お風呂に入れてもらいます。これを「貰い風呂といいます」
お風呂に入れていただくので、それぞれのお家で失礼のないように注意して下さいね。
お風呂から出たら、リーダーが迎えにくるまで待っていてください。
勝手に帰ってこないように。
帰って来たら、きっともうおやすみの時間です。
以上が明日の予定です。
何か質問はありますか?
「お昼ご飯と、夜ご飯は何を食べるんですか?」
と、〇〇君が叫びます。
「おお、いい質問ですね」
「お昼ご飯はお弁当を、頼んでありますから、何がくるかはお楽しみですね。晩御飯は、私たちスタッフが、用意しあげます。」
子供達は興味津々でざわざわとなりました。
谷口君がみんなの前から下がって行くと、代わりに平野君が出てきて…
「谷口君の話はわかったね。何かわからないことがあったら、それぞれのリーダーに聞いてください。
ちょと空を見てみようか。」
子供達は空を見上げます。
「月が綺麗だね。」
そういうと、平野君は「月にのぼったうさぎ」という話をみんなにして聞かせました。
15分ほどのお話でしたが、子供たちは、かたずをのんで、聞いています。
「それでは、今日はこれでおしまいです。こから、それぞれ寝る支度をしましょう。」
子供達は、すっかりシ〜ンとしています。
そして、ぞろぞろと部屋の中に戻って行きます。部屋はすでに他のスタッフによって机が片付けられ、襖で2つに仕切られいます。
子供達はそれぞれの部屋に男女に分かれ、協力して布団をしいいて寝る支度を始めました。

今野さんは、何気なくあかりちゃんの横に添い寝しました。
すでに少し涙ぐんでいたからです。
しかし一日の疲れが出たのか、今野さんが隣にいてくれたことで安心したのか、ほどなくすやすやと寝息を立ててしまいました。

10時近くまで、各スタッフも三々五々子供たちの間で、寝かしつけていましたが、平野君がそっとスタッフのみんなに目配せをしてキッチン横の広間に集めました。
福田さんが、「一日ごろうさまでした。おかげさまで、一日目は無事に過ごすことができました。簡単に、今日のまとめと明日の打ち合わせをさせてもらいます。」
みんな、子供たちの様子を報告します。
田中さんは、テル君がお兄さん格でよくやってくれるムードメーカーであること。

今野さんは、あかりちゃんがホームシック気味であること、そして、テル君に救ってもらったことなど。
ほかのスタッフもそれぞれ報告をします。
そして、平野君や谷口君からもこまごました報告がありました。
伊藤さんからは、写真を撮るときにピースはしないようにとの注意があったりもしました。
そして、平野君が、あすの予定の確認をしていきます。
明日は川遊びがメインです。
そして、散歩しながら、地域の方々のお家にお邪魔して、もらい湯をします。
谷口君は昼間、川遊びの場所の下見もしていました。
歩いて30分程度のところに、川があります。村の中を歩くことは、いろいろな人との交流にもなるので大切なプログラムなのです。

お昼はおにぎり弁当を地元のお弁当屋さんに頼んであります。
朝ご飯は、食パンとハムやレタスで、サンドイッチを作りながら食べるオープンサンドです。
夕食は、うどんです。これは、時間がかかるともらい湯の時間が苦しくなるので、川遊びの時に、うどんをこねてしまうことになっています。
夜はそのうどんをこねて、けんちんうどんです。

「最後にちょっと気になったことがあったんだが…と」福田さんが話し始めました。
「三枝君のことが少し気になっているんだ。彼は洋というだろう。福野君のグループだよね。福野君や、谷口君が、洋君とか、洋と呼ぶと、びくっとすることがあるんだよね。どうしてかな。決して怒っているわけではないのに、何か、怯えた感じになるんだよね。どうしてだろう。」
「ああ、それ俺も少し気になっていました。臆病者なのかなって…それとも俺のひげ面がよっぽど怖いのかななんて思っていたんですが。」と、担当の福野君。
「そう、気づいていた。明日も、ちょっと気を付けて観察していてくれるかな? 福野君だけでなく、みんなも気にしてください。
それから、彼の申し込みの時の資料にも目を通しておきましょう。
 では、今夜はこれぐらいで休むことにしましょう」
「夜尿症の子どもが何人かいますから、起こして、おトイレに行かせてください。」と最後に谷口君が念押ししました。
この時すでに11時を回っていました。
スタッフが眠りについたのは12時を回ったころでした。

是非、応援のためのサポートをお願いします。 集まったお金は、自然学校の厳しい生活に追い込まれている若い人たちのために使わせていただきます。