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奥山村物語ー10

そして、ある程度の時間がたったならば、リーダーがまた迎えに行くのです。
それまで、各お宅で過ごさせてもらうのです。

谷口くんからその説明を受けると、食事の片づけと、お風呂の準備へと、立ち上がりました。

各グループのリーダーは、だれがどのお宅にお邪魔するかをすでに把握しています。そして預けていく道筋もメモにしてあります。
準備ができたグループから、三々五々、リーダーに引率されて、お風呂をもらいに出かけていきます。

その風景を見ながら、福田さんは、つぶやきました。
「問題は買えりだろうな。」村の人たちの雰囲気から言って、もう少しいてもいいじゃないかと、言われ、なかなか帰ってこれないのではないだろうかと想像していました。

リーダーが、子どもたちを預けて戻ってきます。
皆、笑顔です。あずけてくることで、何の問題もない感じがしました。

リーダーは本のひと時ではありますが、子どものいない静かな公民館でくつろぐことができました。
しかしその中でも、彼らは子供たちのことを話題氏に、これからの指導者、活動の準備のう打合せをしていました。
「さあ、ぼちぼち時間です。迎えに行ってください」
福田さんが、リーダーに声をかけます。

リーダーたちは素早く立ち上がると、子どもたちの出迎えにと出かけていきました。
ほどなくして、子どもたちが、リーダーに伴われて、帰ってきました。
子供達は、どんなお風呂だったとか、お菓子をもらったとか、もう大騒ぎです。お土産までもらってきてしまった子供もいます。
これはには平野君も福田さんも頭を抱えました。
もらった子供と、もらっていない子供に差が出ては、まずいと考えたのです。しかし、ことすでに遅し。
今更取り上げるわけにもいかず、かと言って、ほかの子供達に用意するわけにもいかず。二人は目を合わせて苦笑いをするばかりでした。
福田さんは、夜のスタッフミーティングで、解決策を考えようと思いました。

今野さんのグループが見えてきました。
今野さんは、誰かを負ぶっています。
それはあのあかりちゃんでした。
平野君が伊藤さんに声をかけて、布団を急いで敷くようにお願いしています。
谷口君が今野さんのところに駆け寄り、あかりちゃんを引き取ります。
さすがに今野さんは、ふ~っと一息ついたようです。
福田さんが、「どうしたの?」と、聞くと、今野さんが
「ホームシックになって、大号泣しちゃったみたいです。でも、おばあちゃんは、あわてず騒がず、お風呂に一緒に入って、おばあちゃんと一緒に横になってそのまま寝ちゃったそうなんです。」
「そう、そりゃあ、あした、おれいにいかないとけないね。それに、君もご苦労様でした。」
「いいえ、私は大丈夫です」
平野君が来て、あかりちゃんはそのまま寝ました。
と、報告してくれました。

そこに、福野君のグループが帰ってきました。
スイカをくれたおじいいさんも一緒です。
福野君のグループの中で、あのおじいさんのところに行ったのは確か、三枝君でした。

福田さんは、姿が見えた途端に、何かあったのかと、おじいさんの方に歩いて行きました。
「昼間はスイカをありがとうございました。」
「いや〜なんのなんの」と、おじいさんは上機嫌です。
「何かありましたか?」
「いやあ、なんも。みんなどんな様子かと思ってな・・・」と、にこやかにみんなを見回しながら、そっと、福田さんに
「ちょっと裏に来いや。」
【え、公民館の裏に呼び出し? やっぱり何かあったのか?】
言われるがまま何気ない振りを装って公民館の裏に行くと、おじいさんが先に行って待っていました。
「子供が何かやらかしましたか?」
「うんにゃ、子供はいい子達じゃ。じゃがな、あの三枝という子じゃが…お主らは気がついてなかったか?脇腹とか、内腿とか、目立たないところではあるが、あざがあるぞ。」
「えっ!」
福田さんは絶句しました。誰かにいじめられている?
それを察したのかおじいさんは手を振りながら、
「ちがう違う、あざは、だいぶ薄くなっているから、昨日今日のものじゃない。家でやられたんじゃろう。子供同士で、あんなところに痣をつけるように殴ったりはできん。大人が考えながら殴ったんじゃ。」
「そうでしたか。実は、このキャンプの参加の申し込みも、おばあちゃんがしてくれたみたいなんです。」
「そうじゃったか。可哀想な子じゃな。」
「それでわざわざ・・・」
「うむ、まあな。教えといたほうがいいじゃろうと思ってな。」
「なんなら、しばらく預かって、こっちの学校に通わせてやってもいいぞ。」
「いや、ありがとうございます。しかし、一気にそこまではなかなか。とにかく無事にキャンプを過ごしてもらって、そのあとおばあちゃんと話しして見ます。」
「そうじゃな。まあ、なんでも言って来い。あの子のためなら一肌脱いでやるでな。」
「ありがとうございます」
福田さんは、嬉しくて、ちょっと涙ぐんでしまいました。

おじいさんは、福田さんに話し終えると、しばらくの間、子供たちの様子を桜の木の根方からにこやかに見守っていました。
そばに、駆け寄って何か話しをする子もいます。その中に三枝くんもいるのを、福田さんは目の端に入れ、心の中で微笑んでいました。

そして、福田さんは、節子さんのところに行きました。そしてお土産の件を相談したのです。
節子さんは、「言っといたのにね〜。そういうもの持たせちゃいけないって」と苦笑いです。
「どうしようかしらね」
節子さんはしばらく考えていましたが、桜の木の根方にいる、おじいさんを見つけると、「省三さ〜ん」と言って、かけて行きました。
(ああ、あのおじいさんは省三さんという名前なんだ、今初めて知ったな。そういえば、村の人の名前をあまりわかっていないな。もっと知らないといけないな。そうすればきっともっと親しくなれるな。何か方法を考えよう)と、福田さんは二人を見ながら考えていました。

さて、節子さんは省三さんに、お風呂から帰った子供の中にお土産をもらってきた子がいることを相談していました。
省三さんは「返させるわけにはいかんしな」と、子供達に微笑みながら、つぶやきました。
しばらく思案していんましたが、「わしに任せておけ。明日の晩、みんなが食事に招待された時に、土産をやらなかった家のものには何か手土産を持ってくるように言っておこう。逆に、今日土産をよこした家は絶対に持ってくるなということにすらばよかろう。」
「なるほど!さすが省三さん。」と、節子さんは省三さんの背中を思いっきり叩きました。省三さんは、イタタとしかめっ面になりながら、まんざらでもない顔をしていました。
「節ちゃん、今日みやげ持ってきた家と、そうでない家の一覧表をわしにくれるかな。今夜中に電話しておくことにするわい」
「ありがと、じゃあ、すぐに作るからまってて。」
節子さんは省三さんにくるりと背を向けると福田さんを探して駆け出しました。
省三さんとの話を福田さんに伝えると、福田さんは平野くんをすぐに呼びました。そして、お土産をもらったことそうでない子の一覧表を作るように頼みました。
平野くんは「少し待ってください。プリントアウトしてきます。」というと、スタッフの部屋に入って行きました?
その間に福田さんは桜の木の根方にいる省三さんのところに行って、
「省三さん、お手数おかけして申し訳ありません。そうぞよろしくお願いします。」と、頭を下げました。
「何おいうとるんじゃ、いうことを聞かんかった村のものが悪いんじゃから、君の謝る必要はない。任しときな。年寄りの言うことはみんな聞いてくれるからな。」と、ニヤリと笑いました。福田さんもおもわず一緒に微笑んでしまいました。
そこに、平野くんが1枚の紙を持ってきました。
「これが、お土産もらったことそう出ないこのリストです。」
福田さんはえっ?と言う顔をしました。いま頼んだばかりなのに…
その表情を見た平野くんが、にこりと笑いながら、「話を聞いた時に、一応リストにておいたほうがいいと思って、スタッフから、その名前を引き上げておいたんです。」
「さすがだね」と福田さん。
「こいつは使えると思ったが、いい軍師をもっちょるな」と、省三さんも褒めてくれました。
「おい、平野君じゃったな、うちの娘の婿にどうじゃ?」
これには平野君も福田さんも大慌てで、「いやいや、まだ学生ですから。」と二人で口を揃えました。
省三さんは大笑いで、「まあ、いい長い付き合いじゃ」と訳のわからないことを言いながら、リストをひらひらさせて、うちの方に帰って行ったのでした。
「平野君、本当に仕事にそつがないね。ありがとう」
「いえいえ、着実にしたまでですよ」
そこに節子さんが、ニヤニヤしながら割り込んで来て、「平野君、省三んはきっと本気よ」
「え、節子さん、何言ってるんですか」と、平野君は耳まで赤くして、オロオロしています。
「平野君て結構ウブなのね」と言うと、福田さんと二人で大笑いをしました。
平野君は「俺仕事がありますから」と、台所の方へ行ってしまいました。
「節子さん、そう入ってもありがとうございました。」
「お礼は明日、省三さんにおっしゃい。あれで、結構面倒見いいし、こうと思ったら、しっかりしてくれる。それに村の最長老だからね。大丈夫よ」
「いや、本当にありがとう」
「それから、あした朝、省三さんのところに行きたいんだ。付き合ってくれるかな。今夜でもいいんだけど。」
「わざわざお礼に行く必要なんてないわよ」
「そうじゃないんだ、三枝君のことをもう少し詳しく聞いて見たいんだ。節子さんには言うけれどこれは決した口外しないで欲しいんだ。」と、省三さんから聞いた三枝君のあざの話をしました。
「なるほどね、わかったわ、時間聞いてみる。また連絡するわ」
「重ね重ねありがとう」

すでに8時を回っていました。
平野君が子供達に声をかけて、襖を取り払った大部屋に集めま。
「みんな、今日は楽しかったかな?」
「は〜い」小さな子どもたちは、こぞって返事をします。
「さて、今夜も日記を書くことにしましょう。」

すでに小さな子供たちは眠そうな気配です。
福田さんは、あれっ?と、思いました。
あかりちゃんが寝ていないのです。

しかしそんなことは関係なく、谷口君は、夜の活動を進めていきます。
日記を書き、歯磨きをし、みんなで布団を敷いていきます。
布団を敷き終わると、男の子とお何のこの部屋の仕切りのふすまが閉まり、電灯が半分ぐらいおとされ、薄暗い中で、だんだんとざわつきが静まっていきます。
そんな中、今野さんが、スタッフルームからあかりちゃんを抱いてきます。
もらい風呂から戻ってきたときに、寝てしまっていたので、スタッフルームに寝かせていたのでした。
今野さんはあかりちゃんを昨夜も寝ていた場所にそっと寝かせました。

そうして、昨夜と同じようにスタッフのミーティングが始まりました。
子どもたちの様子は、昨夜以上にいろいろ報告されてきます。
三枝洋君のことも話題になりました。
本人から聞いた話と、省三さんから聞いた話などです。
そして、福田さんは、福野君に「夜の様子はどうだった?」と、たずねました。
福野君は、「お風呂から帰ってきてからはとても楽しそうでしたよ。」との答えです。
「それはイイネ、明日もこの調子で行きましょう。あかりちゃんのことは、どうかな?今野さん。」
「はい、お風呂いただきに行って、またホームシックが出ちゃったみたいです。夜道を歩いているときにすでにちょっと怪しかったんですが、おばあちゃんのおうちで、堰を切ったように泣いちゃって。でも、おばあちゃんは、任せときなさいと言ってくださったんで、そのまま預けてきたんですが、迎えに行ったら、お布団ですやすや寝ていて。そのままおんぶしてきたというわけです。」
「ご苦労様でしたね。」
「おばあちゃんの話では、心配ないよということでした。小さい子は、こういうことを繰り返して、親離れしていくんだよっておっしゃってました。」
「なるほどね、親離れか…」

平野君が頃合いを見て、「では、明日の予定の確認をしましょう。」
谷口君が、「では明日の予定です」
あしたは、今朝と同じ朝食です。そして、午前中は、堤光さんの畑に行ってトウモロコシの収穫をさせてもらいます。
帰ってきて、子どもたちは、ごはんと、カレーを作ります。地域の方々も来ますのでたくさん作ります。
あと、私たちで、フルーツポンチやサラダを作ります。
それから虫よけも兼ねていくつかかがり火を回りに焚くことにします。その周りにちょっと腰かけられるような椅子も少し置きたいと思います。
お年寄りが多いので、立ったまま食べるのはつらいかもしれませんので。
その後、夕食後、今度は、各貰い風呂受け入れ担当のご家族の方々に子どもたちを連れて行ってもらい、お風呂に入れてもらいます。
そして、帰りだけ我々で迎えに行きます。

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