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奥山村物語ー1

第1章
奥山村物語のはじめ
1章1節
奥山村の空は青くて大きい
夏休み、奥山村の波多野さんのお家の縁側の掃き出しの窓は大きく開かれています。
「寛太~ドラクエしようぜ~!」と、
自転車のブレーキの音とともに武雄君がやって来ました。
太陽はすでにジリジリと肌を焼く角度と強さを村の隅々にまで降り注いでいます。
その強さで、水分を奪われた道からは、自転車のタイヤですら、土煙をもうもうと舞い上がらせます。
そして、武雄君は、ほんの数分ペダルをこいだだけなのに、その額といわず、腕といわず背や胸にまで汗をしたたらせています。
今年は例年になく、ことのほか暑い夏です。
ここ奥山村だけでなく、日本中が異常気象のようです。
「寛太く~ん」と、縁先で武雄君が叫びます。
うちの中から返事がありません。
「武雄君上がっていいわよ。」
「は~い」
武雄君は縁側から、ゴム草履を脱ぎ飛ばして這い上がっていきました。
寛太君は、客間のテレビに向かって、夢中でゲームをしています。
ここは、寛太君のおばさんの家。で、田舎(ふるさと)。おばさんは寛太君のお母さんの妹で、波多野節子さん。
90歳のあやのおばあちゃんもいます。
寛太君は夏休みで、3泊4日の予定で遊びに来ました。
でも…節子おばさんの子供は二人とも女の子で、まして寛太君より年下なのです。
ですから、あまり一緒に遊ぶこともなく、近所の高橋さん家の武雄君と遊ぶことが多くなります。
武雄君は寛太君と同じ4年生。地元の小学校のガキ大将といったところです。
そして、二人が夢中になったのは…テレビゲームだったのです。
「あんまりずっとしてちゃだめよ~」と、節子おばさんは言うけれど…きっと今日も昼ごはんまでは、釘づけだろうな…
案の定、お昼ご飯まで二人は黙々とゲームをしていました。
「武雄君もうちでお昼たべなさい。午後も寛太君と遊ぶんでしょう?。行ったり来たりも大変だから、うちでたべちゃいなさい。」
「は~い。ありがとうございます」

節子さんのところの娘のまゆかと裕子もあらわれて5人でお昼ごはんになりました。
午後から、まゆかと裕子とおばさんはお買い物に行くけど、二人はどうする?お留守番してる?

寛太君と武雄君は二人で顔を見合わせて、そろって、大きくうなずきました。
「でも、テレビゲームばかりしてちゃだめよ。」
「は~い」と、返事もっ2人そろっています。まあ、その返事は、から返事以外の何物でもありませんでしたが。
おばさんたちが出かけてから、二人は再びテレビにくぎ付けでした。

***************

しかし、2時間もすると日差しは一段と強くなり、部屋の中にいること自体が辛いぐらい暑くなってきました。
このうちにはエアコンはついていません。
「寛太君、暑いね、ちょっと川に遊びに行かないか?」
「川?プールとかじゃなくて?」
「プールなんて学校にしかないし、学校のプールは入れる日が決まっているんだよ。だから暑い日はみんな川で遊ぶのさ。」
「オッケー、行こう!…あ、でも僕、海パンとか持ってない。」
「そんなもんいらないよ、いつもこのままさ。」
「だって、服びしょびしょになったら帰ってこれないじゃないか。」
「乾くまで河原で遊んでいればいいのさ。」
「なるほど~。それもいいね。じゃあ行こうか。」
「そうこなくっちゃ。」
武雄君は、縁側に飛び出しました。あっという間に自転車にまたがります。
寛太君は玄関から靴を履いて出ていきますが…立ち尽くしてしまいました。
武雄君は自転車…僕はどうしたら?
武雄君は後ろを向いて、
「早くのれ~」
「え、え、え、二人乗りは先生に叱られちゃうよ。」
「何言ってんだよ。大丈夫さ。いつものことだ」
二人乗りで、風を切って、坂道を下ります。
寛太君は、目を閉じたり開いたり、風を感じています。
「涙が~出る~」
(きゃっは~気持ちいい~)
気が付けば、あっという間に川が見え、橋を渡って河原への道へ…
「ギャギャギャ。お尻が痛い~」
「尻、浮かせるんだよ!」
「えっ、えっ、どうやって?お尻が壊れる~」
キ~ッとブレーキをかけて、武雄君が止まりました。
「しょうがねえな…大丈夫か?」
「う~ん」
「じゃあ、ここからは二人で歩いていくか。すぐだから。でもな、後ろに乗るときはここの軸に飛び出してるステップに立って乗るんだぜ」
「なるほど…そっか。」
「尻、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だ。」
「よし、じゃあ、川行こうぜ!」
河原の土手に自転車を放りさすと、階段を勢いよく駆け下りていきます。
武雄君は階段を降りると、ゴム草履を脱ぎすて、石の上をぴょんぴょんと川の流れに向かっていきます。寛太君は武雄君がゴム草履を脱いだところで、靴と靴下を脱ぐと、急いで追いかけようとしました。
しかし強い日差しに照らされた石は熱くなっています。
「あちち、あちち」と、寛太君は大騒ぎです。
武雄君は振り返って笑っています。
「大丈夫かい?」
「ああ、でも、石って熱いね~」
この石が熱いから、川で寒くなったら、この石に抱き着くと、あったまるんだよ。
「へ~そうなんだ」
「さ、川で流れて遊ぼうぜ」
***************
武雄君は、川にじゃぶじゃぶと入っていきます。ゆったり流れる川にザブンと入ると上向きになって川の中を流れて行きます。
「気持ちいいぜ~」
寛太君も、後に続きます。
(うっへ~、気持ちいい!)
寛太君は大きな空を見上げて川を流れていきます。冷たくて気持ちのいい流れに身を任せて、見えるのは真っ青な空。すごい気持ちいい!
寛太君は初めての体験で、もう夢中です。
何度も何度も流れます。
「お~い寛太君。ちょっと休もうぜ」。
武雄君が川岸の石の上から呼びかけます。
はたと気が付くと、ちょっと寒い。
寛太君は、急いで武雄君のところに上がっていきます。そして、武雄君がするように、大きな石に抱き着くようにしました。
「うっへ~あったかくって気持ちいい!」
「だろう、最高だぜ」
「石がこんなに暑くなるなんて、太陽の力ってすごいな~」
「なるほどな、太陽の力か…確かにな。曇ると、全然あったかくならないからな。体があったまったら、上に座るんだよ。ズボン乾くから。」
「そっか、そうだったね。」
寛太君は自分がズボンのまま川に入っていたのを、今思い出しました。
武雄君がするように、シャツを脱いで、別の石の上に広げて貼り付けました。
そして、石の上にお尻を乗せました。
シャツはあっという間に乾いていきます。
しばらく甲羅干しをしたところで、武雄君が「さあ、帰るか。」
「え、もう?」寛太君はもう少し遊びたい気持ちです。
「ダメダメ、すぐ寒くなるぜ。」
「え、まだこんな暑いのに?」
「ああ、帰りはちょっと時間かかるしな」
「そうなの?」
寛太君は少し不満でしたが、武雄君にしたがって、階段の下で、靴を履きました。
武雄君は自転車を押して、歩きだしました。
「あれ、帰りは自転車乗らないの?」
「馬鹿だな~、帰りは上り坂だぞ。二人乗りで登れるわけないだろう。ひとりだって無理なのに。」
「ああ、そっか」
ふたりは自転車を押す武雄君の後ろから、寛太君が荷台を押して坂を上っていきます。
とちゅまで来たときには、日が陰りはじめました。
「うっ、サム~」寛太君はちょっとブルっとしました。ズボンとシャツはまだ半乾きでした。
「だろ、ちょっと川をあがるのが遅かったぐらいだ。」
「本当だね。」
「さ、もうひと頑張りだ。」
でも二人は楽しかった。笑いながら、自転車を押して、家に向かいました。
「家に帰ったらまたテレビゲームしようぜ!」
「うん」
しかし、帰り着いた時は、すでに夕暮れが迫って、節子おばさんは晩御飯の準備をしていました。
「武雄君、もう帰りなさい。」
節子おばさんにぴしゃりといわれて、テレビゲームはおあずけとなり、武雄君もうちに帰っていきました。
そんなふうに、寛太君にとってはテレビゲームと、今までにしたことがないような川遊びで、あっという間に4日間が過ぎました。


寛太君が東京に帰ったその日の夜、節子おばさんと、寛太君のお母さんの長島陽子さんが電話で話していた。
「節子、ありがとうね~。4日も面倒見てもらっちゃって…」
「ねえさん、何でもないわよ。それに面倒なんてみてないから。近所の武雄君という子と意気投合して、遊んでいたわ。」
「でも、ねえさん…」
「な~に 節子」
「うちに来てもね、結局テレビゲームして遊んでるわよ。」
「そうなの?」
「あまり厳しいこともいえないでしょう~。」
「いいのに…ビシビシ言ってくれて。」
「それにね、きっと一人で家に来ても、うちは二人とも娘でしょう。年下だし。だから、何して遊んだらいいかわからないのよ。」
「だって~、武雄君と意気投合してるって…その武雄君にいろいろ連れていってもらえばいいじゃない。」
「残念でした。武雄君は、寛太君の持ってるテレビゲームをしたくてたまらないのよ。外に遊び行こうなんて誘うわけないじゃない。寛太君だって、テレビゲームなら、武雄君と対等に話しできるしね。」
「武雄君のお母さんの高橋さんとお話ししたんだけど、普段も、あまり外では遊ばないんですって。このへん子どもの数少ないでしょう。だから一緒に遊ぶ友達が近くにいないの。だから、帰ってくると、テレビゲームすることが多くなっちゃうんですって。」
「そうなんだ~。もしかすると、東京より、田舎の子のほうがテレビゲームとかしてるかもね。外で遊ぶのも、寛太なんかは、無理やりサッカークラブとかに行かせているから…」
「武雄君なんかそんなクラブとかに入ってないだろうな…。クラブはいったら、そこまで、お母さんかお父さんが送っていかないといけないしね。結構大変なのよ。」
「そうね~。とにかく、ありがとうね。」
「いいえ、どういたしまして。こんなんでよければいつでもどうぞ。」
「そう言ってもらえるとうれしいわ。じゃあまたね。」
「はい、おやすみなさい。寛太君によろしくね。」
*****
学校が始まりました。
寛太君は何とか宿題も出すことができました。
中でも、絵日記は順調でした。
それは、武雄君とのことが、たくさんかけたからです。
テレビゲームばかりしていたようですが、一緒に食べた、節子おばさんの作ってくれたご飯のことも、とっても思い出に残っています。
かじるついた丸のままのキュウリも、丸かじりしたトマトもおいしかったです。
もちろん川に遊びに行ったことは、2日分のページを使ってしまいました。
でも、そんな武夫君との思い出も、日がたつにつれて、少しずつ忘れていきました。
今日は天気も良く、夏休み明けはじめてのプールの日です。
寛太君は少し暖かいプールサイドを歩いていて、そんな忘れかけていた武夫君との思い出がふっと思い出されました。武雄君と行った、あの川での思い出です。
(あの石はどうしてあんなに熱かったのだろう。今日も、こんなに天気がいい。なのに、プールサイドのコンクリートはあの石みたいには熱くなってない…。)
なんて考えていたら、先生の笛が鳴りました。みんな揃って体操をして、そして、みんなで、ゆっくりプールに入っていきました。
そこでも、寛太君は気が付きました。

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