『四年生』木尾士目

就活と恋愛と

島明夫(しまあきお)と相馬芳乃(そうまよしの)。恋人同士。彼らは大学4年生という季節を迎えた──。親・友人・将来・ふたりの関係……。考えても考えても、結論は出ない。痛く切ない青春が、ここにある。
四年生 (アフタヌーンコミックス)

『げんしけん』で有名な木尾士目の初期作品。大学4年生カップルの恋愛モノという設定が斬新。この作者も思い入れあるのか知らんが、『げんしけん』といい大学生の話ばっか描いてるな。
弁護士を目指す才色兼備のヒロインと付き合っているダメ大学生が主人公。
大学最後の年の絶妙な「夢の終わり」感が表現されている。社会人になってから読むと、中高生の話より大学生の話の方が読み終わった後のダメージが大きい。
ただひたすら無為に時間が流れていくあの感じをもう一度味わいたい。
将来を見据えて周りの人間がどんどん進んでいくのに、あえて「就活しない」と宣言する主人公。
そのせいで、将来有望で優秀な彼女との関係に不穏なムードが漂い始める。
「付き合うまで」じゃなくて「付き合ってから」の話だから、この辺の揺らがせ方が巧妙。台詞の端々から2人がどうやって付き合い始めたのかを匂わせたり、それとなく断片をちりばめて読者に想像させるのが上手い。
就職活動に関しては、実際に俺もこういう感じだったから、この主人公に感情移入してしまった。教育実習終わってから就活する元気がでなくて数ヶ月家で休んでたらいつのにか周りが全員内定持ってて焦った。
あんなに遊び回ってたやつらが四年生になってから突然真面目になって平然と就職活動してるのが不思議で仕方なかった。なんで今まで楽しかったのに、それをあっさり辞めて就活に集中できるのか分からなかった。俺は本当に就活ができなくて困った。
結局、最初に内定が出た適当な会社入って2ヶ月で辞めるというパンクロッカーみたいな真似をしてしまった。
それに比べるとこの作品の主人公の方が幾分かマトモに感じる。
この漫画を読んで、「いや、主人公就活しろよ」と思える人は、ちゃんとした人間である。逆に「留年すればええやん」と思う人は肝が据わり過ぎててやばい。
就活できないくせに、留年を選ぶ勇気はもっとない中途半端なダメ大学生だった人には刺さる。
付き合っている2人のひりひりするような心理描写と、会話シーンの緊張感がすごい。恋愛ゲームはマウントの取り合いなのだなと思った。授業中に先生の説教くらっている人の隣に座ってる時みたいな張り詰めた空気がある。
ちょっとした台詞にも、相手と自分の距離を推し量る、ボクシングのジャブのような鋭さが内包されてる。
この作品は一巻完結だけど、シリーズ物として、この2人のその後を描いた『五年生』(←破壊力ありすぎるタイトル)がある。こっちの方は自分には未経験の領域なので、共感はしなかったが、やはり面白かった。
主人公の不安定さが恋愛を盛り上げるスパイスになるなら浪人生のラブコメとかめっちゃ面白いんじゃないか?と思ったけど、『めぞん一刻』という金字塔がありましたね。

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