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夏は終わり、季節は巡る

8月がやってくるたびに、思い出す光景がある。
そのたびに、涙がこぼれ、心がぎゅっと痛む。

夏休みといえば、どちらかといえばウキウキと楽しみにしている方が多いものだと思う。

子供や学生さんだったら、長期の休みだ。宿題など、もちろんイヤなものもあるだろうけれど、例年だったら楽しみなイベントも多い。

社会人でも、夏休みの取れる会社もあるだろう。相方さんの実家へ帰省、なんていうちょっと憂鬱なイベントがある人もいるかもしれないけれど、やっぱり楽しみにしている人の方が多いのではないだろうか?

私の人生の夏休みは、8月1日、突然言い渡された。

リストラなんて、よくある話だ。
私がそのとき働いていた会社でも、理不尽な理由で、私よりもずっと前からいろいろな人が辞めさせられてきた。
そこに、正当な理由なんてひとつもなかった。どの事例もが、人を人と思っていない、そんな理不尽な理由ばかりだった。

とにもかくにも、私にもとうとう、そのときが訪れてしまったのだ。

突然言い渡されたけれど、1ヶ月は猶予がある。そして、幸いなことに、翌日からすべて有給休暇を消化できた。このときばかりは、有給休暇を残しておいてよかったと思った。
直属の上司は、「守ってやることができなくてごめん」と、引き継ぎゼロでの有給休暇消化を、認めてくれた。

突然やってきた、1ヶ月の休暇だった。
友達はみんな働いている。
お盆休みが迫っていることもあったし、ちょうど東日本大震災のあった年のことだったから、求人もほとんどなかった。

本当だったら、楽しい夏休みを取っているはずだった。
その会社は、夏休みという制度がなかったので、8月中に何日か休暇を取る予定だったし、友達との飲み会も計画していた。
それなのに、突然やってきた休暇のせいで、楽しいはずの夏休みは、一変してしまった。

あの頃の私は、心を弱らせていた。
書くことへの気力も奪われた。
書こうという想いなんて、微塵もなかった。
ただ、時間の針だけが動いていく。
変わらず少ない求人を見ながら、ひとり涙を流す日々。
楽しんでる振りなんてできない。
気を緩めたら、涙はとめどなく溢れ出していた。

「夏休み」というと、やっぱり楽しいことばかりを思い浮かべる人が多いと思う。
だけど、そこにたった5文字、「人生の」という言葉がつくだけで、こんなにも変わってしまうものなのか。

このコロナの日々で、仕事が激減している知人がいる。幸いなことに、彼女の職場は、現在はお給料を満額頂けているそうだ。
こういう感じの人が私の周囲には多いのだけれど、働く日数が少なく、それでも満額の給料を頂ける日々が、どのくらい続くのか、不安を抱えている人も多い。
だけど、知人はその不安を打ち消すような笑顔で言った。
「一生のうちで、これだけ自分のために自由に時間を使えることは、今しかないと思う」と。

もちろん、お給料が満額もらえているから、言える言葉だろう。
それでも、ほとんど働かないで満額のお給料をもらえる今の状況に、不安がないわけではないと思うのだ。
でも、その笑顔はすごく素敵だった。

一生のうちで、自分のために自由に時間を使える。
1日24時間の中で考えたら、どのくらいの時間が許されているんだろう。
それだって、パッと立ち上がって行動に移さなければ、時間は容赦なく過ぎていくのだ。

あのときの私は、今の職場が決まるまで、心の余裕はなかった。
突然やってきた人生の夏休み。あんな想い、2度としたくはない。
だけど、彼女のように逆境を笑顔で楽しむ心の余裕を少し持てていたら、よかったのかもしれない。



サークル「25時のおもちゃ箱」の8月のテーマ「人生の夏休み」で書いてみました。

今年の夏は思うように楽しめないことも多いけれど、そんな時期だからこそ、今自分にできることを大切に見つめ直したいです。

2020.8.20

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。