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シュガーレスラブ(1/3)

大好きな人からの甘い言葉。
女の子なら、いつだって聞きたいと思う。

「里菜、何拗ねてんだよ?」

意地悪、という言葉なんかより、サディスティックという言葉がピッタリの海渡は、私が拗ねてる理由なんてお見通しのはずなのに、私からその理由を聞き出すために、まだ熱の冷め切らない私の身体に手を伸ばす。

「やめてよね。理由わかってるんでしょ?」

いつだって、私の一番聞きたい言葉を、海渡は言ってくれない。
"好き"でも"愛してる"でも、一度だって聞いたことはないんだ。

「わかってるよ。こうされたいんだろ?」

払いのけても、懲りることなく私に手を伸ばす海渡は、確実に私よりも上手で、いとも簡単に押さえ込まれて、私の拗ねる理由を打ち消していく。

結局そのまま海渡からの言葉は聞けない。
エッチの最中くらい、甘いセリフを囁いてほしいのに。

"先にぶっ飛んだらお仕置き"
"泣くほど気持ちいいなんて、エロすぎ?"

意地悪な言葉を散々並べ立てることはあっても、私の求めるたった一つの言葉は、決して囁くことはない。

散々私を突き上げて、自分だって限界が近いはずなのに、余裕そうに笑う海渡には絶対敵わないけど。
いつか絶対言わせてやりたい。

「チョコレート、食わせろよ?」

海渡のために、朝から張り切って作ったチョコの包みを解いて、中からトリュフを一つ取り出した。
それを海渡の口元に運ぶと、海渡は口角をあげてニヤリと笑う。
意地悪なことを考えてるときの海渡の表情だ。
その笑みが好きでもあるんだけど。

息を呑んで、続く海渡の言葉を待つ。

「……口移しで食べさせろよ?」

そこに、絶対有無を言わせない雰囲気の海渡。
やっぱり、ケーキにすればよかった。
食べさせるなんて甘い行為も、口移しでなんて恥ずかしすぎる。

そもそも、七つ入りのトリュフ。
この行為が、エスカレートしないわけはない。

仕方無しにトリュフ口に含んで、そのまま海渡の口元に運ぶ。
海渡は私の口内に舌を侵入させて、簡単にそれを絡め取る。
それだけの行為が、また私の身体を熱くさせた。

「……大きさが足りない! 俺は食わせろって言っただけで、里菜が食っていいなんて言ってないぞ?」

そんなこと、絶対無理なのに。
海渡は私の指につく僅かなチョコを舐めあげると、箱から一つトリュフを取り出して、それを私の口内に放り込んだ。

海渡のために作った二つめのトリュフは、私の口の中でじんわりと溶けていく。

「甘いだろ?」

それだけ言うと、また舌を侵入させてきて、簡単に溶けかかったトリュフを奪っていく。

七つ全部のトリュフをそうされて、少しずつ私の口内で溶けたチョコすらも奪うような長いキスを交わす。

それでも私の欲しい言葉は、決して口にされることはない。

「海渡。たまには好きって言ってよ」

懇願しても、無意味だとわかっていた。

「……そんな言葉より、里菜が欲しいのはもっと違う言葉だろ?」

意地悪で卑猥な言葉だけを、いくつも囁かれて、絶頂まで導かれる。
海渡の言葉に弱い私は、海渡にはやっぱり敵わないんだろうか。

◇◇◇◇◇

ため息を一つついて、鳴らないスマホをテーブルの上に置いた。

いくら仕事が忙しいからっていっても、連絡の一つくらいくれたっていいじゃない。
そうは言っても、海渡が自ら連絡をよこさないのは日常茶飯事。
痺れを切らした私から連絡するか、海渡がヤリたいときに掛けてくる。

これじゃ、恋人って言うよりただのセフレじゃん。
付き合い出した半年くらい前から変わることのない二人の関係。

"好き"も"愛してる"も、一度だって言ってもらってない。
連絡したい気持ちをぐっと堪えるのも、楽じゃない。

今回は、今回こそは。
あのバレンタインの夜に固く決めた心。

海渡が"愛してる"って言ってくれるまで、私は海渡に流されたりしないんだから。
もちろん、"会いたい"なんて言葉も絶対に言ってなんてあげない。

鳴らないスマホを睨みつける。
何よりもエッチが好きな海渡が、一週間も連絡をよこさないなんてありえなかった。

今までだって、私が一日連絡をしなければ、二日後には呼び出されて、散々虐められたのに。
自分との戦い。
会いたい気持ちは募るだけなのに。
今連絡をしたら、私はずっとその言葉を言ってもらえないだろう。

いくら年度末で仕事が忙しいっていっても、放置することはないじゃない。
強気な心も、だんだんと弱気になっていく。

もしも、海渡にとって私は本当にただのセフレだったら?
恋人だと勘違いしてるのが、私だけだったら?

元々合コンで知り合って、「付き合ってやるよ」って言葉で付き合い始めた私たち。
その"付き合う"の言葉の意味が、"恋人"だと思ったのがそもそもの間違いだったら?

もしそうなら、海渡は今頃私以外の女の子を虐めてるんだろうか?
それとも、本命の彼女には、こっぱずかしくなるほど甘い言葉を囁いてたりするんだろうか?

確かめればいい。
そう思って、私は急いで支度を始めた。
いくら仕事が忙しいとはいえ、夜中まで仕事をしてることはないはず。

まだ乾ききっていない髪の毛を束ねて、海渡の好きそうな下着を取り出す。

明日が休みでよかった。
いつもは私の部屋にくるばかりの海渡だったけど、今夜は泊めてもらおう。
お泊りセットを用意して、車にエンジンをかける。
暖気もしないまま、海渡のマンションへと車を走らせた。

結局は私の負けだ。
いつもは一日、二日だったのが、一週間我慢できただけ。
でも、今夜こそは確かめたい。
たった一度でいいから、海渡の"愛してる"が聞きたい。

海渡のマンションに到着すると、来客用の駐車スペースに車を停めて、海渡の車を確認した。
まだ帰ってきてないのか、そこに海渡の車は停まっていなくて、仕方なく車の中で待たせてもらう。

ここまできて、合い鍵すら持たされることのない自分の存在に不安を覚えた。
恋人だと思っているのが、私だけの勘違いだったらどうしよう。


(2/3)へ続く。

2021.2.18

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。