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夏の恋は、熱く咲く

真っ青な空に浮かぶ、入道雲。
強い日差しがアスファルトに容赦なく照りつける。

空を見上げて、軽く深呼吸する。
そして、グラウンドを走る翔平を見つめる。
いつのまにか、大きくなった背中。
高校に入ってから、グンと伸びた身長。
ほどよく鍛えられた胸筋は、同級生だけでなく、先輩や後輩の女子たちからも、熱い視線を向けられていた。

どんなに努力しても、私にとって翔平は追いつけないくらい遠い存在だった。
手を伸ばしても、ひらりと交わされてしまう。
元々、手を伸ばそうとした私が間違っていたのかもしれない。

太陽のように熱い目標を持って、翔平は日々ハードルのトレーニングに励んでいる。
私もそんな翔平のそばに居たくて、陸上部のマネージャーになったけれど、翔平のそばにいるどころか、中学時代よりも翔平との距離を感じていた。

翔平はいつだって、妥協を許さない。
それは、自分に対してだけじゃなく、他人に対してもだ。
だから、周囲の人間からは反感を買うことも少なくはない。
でも、陸上部員の誰よりも、翔平は努力をしている。
しかも、その努力している姿を、翔平はあまり他の人たちに見せたがらない。
陸上部の練習が終わった後、翔平がひとり残って自主練しているのを知ってるのは、多分私とコーチくらいだろう。


◇◇◇◇◇

今日も部員みんなが帰った後、翔平は部室で筋トレとストレッチを始めた。

「今日も自主練?」

翔平に話かけると、翔平は無表情のまま頷いた。

「別に、先に帰っててもいいぞ」
「あ、ううん。今日はコーチがいないから、私が残る」

コーチがいないから残るなんて、ただの言い訳だ。
翔平のそばに、少しでも長くいたい。
それだけだった。

翔平は黙って頷くと、先に部室を出て行く。
夜の7時とはいえ、真夏のこの時間はまだ充分明るい。
翔平の後に続き、私も部室を出る。
いつもなら、さっさと行ってグラウンドを走り出す翔平が、なぜか部室の前で待っていてくれた。

「あのさ、」
「うん」

部室の前の花壇には、ひまわりの花が満開だった。
明るくて、大きくて、まるで太陽みたいな、ひまわりの花。
私にとっては、翔平のような存在だった。

「今度の休み、ひまわり畑に行かないか?」
「ひまわり畑?」
「あぁ」

翔平は、照れくさそうに笑うと、逃げるようにグラウンドへと行ってしまった。

あこがれだった翔平の存在は、きっとこれからも変わることはない。
私はずっと、翔平の背中を見つめてる。
まっすぐに、太陽に向かって咲く、ひまわりの花のように、ずっと。

fin

ひまわり
花言葉:憧れ、あなただけを見つめる

いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。