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流れゆく笑顔の記憶

冷たい気温に、つい背筋を丸めたくなるけれど、はーっと白い息を吐いて、澄み渡る空を見上げた。

祖父母の墓のある秋田にやってきたのは、いつくらいぶりだろう。
夜遅くに出て、まだ町中が眠りから覚めたかどうかわからない時間に高速バスを降りる。
ゆっくりと祖父母の住んでいた町内を歩くと、広い庭に洗濯物を干している女性がいたり、部活に行くからなのか、ヘルメットを被って自転車を漕いでいる中学生の男の子に出会った。

町中はとても静かだったけれど、寧静に毎日を生きていた。
学生の頃、長期休みになるといつも秋田に来て、祖父と早朝の散歩をしたことを思い出す。

祖父母はふたりとも秋田の人で、関東で生まれ育った私に、祖父母の話す秋田弁はあまり通じなかった。
「おじいちゃん、どういう意味?」と聞き返しても、嬉しそうに説明してくれる祖父の顔を思い出す。
散歩帰りにアイスキャンディーを買ってくれた小さなお店は、もう無くなっていた。



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#旅する日本語 #寧静

いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。