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劇団四季『ゴースト&レディ』感想 (2024年6月1日・2日)

2024年6月1日(土)夜公演と、6月2日(日)昼公演を観劇してきました。

原作漫画は未読での観劇でしたが、原作漫画の世界観と良いところと、ミュージカルならではの表現と良さを存分に味わえるように丁寧に作り上げられた印象と満足感があり、とっても楽しめました!

観劇して思ったこと、印象に残ったことを書き残しておきます。
ネタバレが含まれますのでご注意ください!


公式サイトはこちら↓


キャストボード

6月1日(土)夜公演 2階席前方センターのお席
6月2日(日)昼公演 キャストは同じです。
1階席中ほど下手寄りのお席

こちら開演前の写真撮影OKタイムに撮った2階前方センターのお席から見た写真(トリミング済み)です。

現実なのに、立体なのに、この平面感すごくないですか!?絵画のようにも漫画の白黒の誌面のようにも見えました。

幕の手前に少しだけ見えているのですが、床は図式化されたアンモナイトみたいな模様になっていて、劇中で登場した「フローが病院の患者さんを分析して作ったグラフ」の形とそっくりでした。


はじめに

そもそもの前提として、主人公のモデルは誰もが知っている世界の偉人であるナイチンゲールで、その彼女とファンタジックな存在であるゴーストが行動を共にしていることがまず面白いですよね〜〜

原作漫画未読でしたが、序盤から歌とセリフのやり取りが丁寧で状況や物語の展開が分かりやすいなぁと感じていて、ストレスなく物語に引き込まれて着いていくことができました。

初回の観劇ではこの先どんな展開になるんだろう?というワクワク感はありつつ1幕は割と淡々と物語が進んでいくなぁという印象でしたが、2幕からものすごく盛り上がってきた!アツい展開!と思いました。
1幕から丁寧にじわじわ積み上げてきたものが2幕で一気に加熱して広がって引き込まれていくような感覚で、クライマックスで一番心を揺さぶられるタイプのミュージカルだと思います。

2回目の観劇では1幕に散りばめられていた伏線や「このセリフって…」というキーワードに気づけたので、1回目とは違う感じ方で楽しめました。

観劇中、このシーン漫画っぽいなぁと思う時と、これがミュージカルの醍醐味だ!と思う時どちらもありました。漫画の小さなコマの中に描かれた絵を元に想像の力で物語の世界を広げていくことと、劇場の中、舞台の上の限られた空間と数々の制約の中で展開される生のお芝居から物語の世界を感じて飛び込むことはとてもよく似ているのかもしれない…
登場人物の心の声は漫画ではモノローグとして文字になって、ミュージカルでは歌になって、表現の仕方は違うけれど漫画とミュージカルってすごく親和性が高いんじゃないかと思いました。

ここから下は個人的に印象に残ったことと、思ったことについて書いていきます。


眩しすぎるヒロイン フロー

正直に言いますと、初見時は物語の途中まで「これは強い女の自己実現の物語だな」と思ってちょっと斜に構えて見てしまっていたところがありました。

私は「自分は確固たる信念も理想もなくその場しのぎで生きている人間だ」という自覚があるため、フローが自分には使命があると確信して、理想を語って、逆境にもめげずに周りを巻き込んで行動を貫いて自分の信じる道を進んでいく姿があまりにも眩しく感じられて…

当時の看護婦という職業や女性に対する世間の偏見を跳ね除けながら、死ぬ覚悟でもって看護の道を突き進むフローに尊敬と応援の気持ちを持ちながら物語が進んでいくのを見てはいたのですが、心の片隅で「私はこうはなれない」という劣等感というか、「この人にはどうやっても叶わないな」と対等な立場に立つことを諦めてしまうような感覚がありました。

なのでエイミーが「あなたが眩しすぎて悲しくなる」と歌い始めた時は舞台上のエイミーと自分の心の中が通じ合ったように感じられて、「これが…共感!!!!」と結構な衝撃を受けました。

なんというか、こっち側の人間のことも掬い上げてくれるんだなって思って…胸がギュッと締め付けられるとともに勝手に卑屈になっていた自分を許してもらえたように感じて、少し泣きそうになりました。
エイミーが胸に秘めた思いと看護の道の厳しさ辛さをこぼす『あなたが遠くて』の曲以降、この物語の主人公であるフローに対して感じてしまっていたひねくれた気持ちがほぐれて、素直にまっすぐ見られるようになりました。

フローとグレイ 関係性の変化

「どうかお願い!私を…殺して!」と「こういう女が絶望するところを見てえなぁ」からはじまって行動を共にするフローとグレイの不思議で歪な関係性が魅力的でした。

絶望するそぶりを見せないフローに対して苛立ちを隠せずにいるグレイと、もう少しすれば私きっと絶望します!どん底に落ちます!と言ってグレイを引き留めるフローの情とか愛とか信頼とか、一言では言い表せないお互い少し不器用な心の結びつきがね…良いですね…

序盤はお互いの目的のために腐れ縁的に一緒にいるという感じだったのに、1幕の終盤にグレイがオイルランプを持ってフローの部屋を訪れるシーンで「あ、これはラブストーリーだった!!」って明確に思い出しました。
グレイが読み書きができたなら芝居を書きたいと夢を語って、それに対してフローが戦争が終わったら口述筆記でお手伝いしますと応える。静かな夜の暗がりの中でオイルランプの淡い光に照らされながらふたり見つめ合って…この時点ではまだ愛なのか何なのか、当人たちにも自覚がないような生まれたての温かい感情という空気感でした。
1幕ラストできらめく星々に囲まれながら歌うフローとグレイのデュエットもとても幻想的で、お互いの間にこれまで感じていなかった情が芽生えていて、惹かれあっているのだと分からせられる素敵なシーンでした。

2幕でデオンの放った短剣が胸に刺さって目を覚さないフローにグレイが口づけをして生気を流し込むのですが、(う、浮いた!!!)目を覚ましたフローが「ずっとそばにいてほしい」と迷子の子供ような不安げな表情で訴えるのに対して、グレイが「最近俺は気が長くなったようだ」って優しい優しい歌声と表情で答えるのがもうたまりませんでした。
グレイがフローと行動を共にすることにした最初の目的は「こういう女が絶望するところが見てえなあ」だったのに、もうフローが絶望するところは見たくないし、殺したくないし、悲しませたくないんだなって思って、、、、、、それってもう…愛じゃん……

デオン様(岡村美南さん)に釘付け

突如現れてフローの命を狙うスラッと美しい女性の姿のゴースト、デオン・ド・ボーモン。いやかっこよすぎる!!!!?!?一人称「僕」!??!?こんなに魅力的なキャラクターがいるなんて聞いてませんけど!!?!?!

過去は騎士として名を馳せ、決闘代理人としてグレイと因縁があるデオンの秘密…父親に男として生きることを望まれて、自分自身も「女はつまらん」「女であることは呪いだ!」として性別を偽って生きてきた過去が明かされます。

ジョン・ホール軍医長官の部屋でグレイとデオンが剣を交わした後、デオンが歌い踊るシーンがマジのマジのマジで良かったです……
カルメンのハバネラみたいな、ワルツみたいな音楽も良いし、チェロ(たぶん)の旋律にのって言葉もなくただひたすら舞うデオンを見つめる時間最高でした。
頭の先から指先、足のつま先までしなやかで美しくて、眼光は鋭く妖しくて声の響きは深くて力強くて…溢れ出るミステリアスな魅力がたまらなかったです。

いろんな意味で劇的なグレイの過去

2幕でフローが「もう、分からなくなった…」と弱々しく呟いてグレイに殺してくれるように頼むシーン、胸が締め付けられました。
大切な人たちが自分の元から去ってしまい、陸軍には拒絶され続けて孤独を感じているフロー…心が疲れてしまった時って、これまでだったら耐えられたかもしれない出来事でもそれが積み重なってふとした瞬間に限界を超えてしまいそうになるんですよね…

グレイはフローを殺すことはせず、自分がゴーストになった理由、裏切りで始まり裏切りで終わる人生と孤独な最期について語り始めます。
大きな白い布がスルスルと広げられて、その布に舞台の奥からライトが当てられて影絵のように回想が進んでいくのですが、赤ん坊から青年に成長したジャック(グレイの本当の名前)が布の真ん中を破って勢いよく手前に飛び出してくるのが面白い演出だな〜と思いました。
舞台女優のシャーロットに一目惚れして劇場に毎日通った、金が必要だったから決闘代理人の仕事を始めたと語るグレイ。観劇オタク、俳優オタクの鑑じゃん…
正確な歌詞は忘れてしまったのですが、グレイの「たくさん金が手に入った 笑えるくらいに」と歌う時の皮肉っぽくあざ笑うような言い方と、シャーロットとばったり鉢合わせてしまった時のテンパりまくりの上擦った声が好きでした。

恋とジン!グレイの過去回想は歌もダンスも惜しみなく見ていってね〜〜!!って感じの大盤振る舞いで、今私ミュージカル観てる!!!っていう満足感がすごかったです。
推し女優と本気の飲み比べ対決をしているジャックが酒に酔ってふらついて床に転がる動きと舞い上がった表情が本物の酔っ払いすぎて笑ってしまった。

シャーロットの家に通うようになったジャック。「このシーンはレディにはお目汚し。ご想像にお任せします。」と言って布が張られるシーンはなんだか健全な漫画っぽいなあと思いました。

そしてシャーロットからの裏切りに絶望したジャックはデオンとの決闘に敗れ、劇場でひとり孤独に息絶えてシアターゴーストのグレイになった…話を聞き終えたフローは、自分も辛い時なのに何よりもグレイの孤独と痛みに寄り添って「最期の瞬間にひとりぼっちだったあなたと共にいたかった」というようなセリフを言うのですが、この時の表情があまりにも優しくて慈愛に満ちていて、自分のことよりも傷ついた誰かのことを優先して考えるフローの揺るぎなさでグレイの孤独が少し癒やされた瞬間だったと思いました。

クライマックスの絶唱で情緒がズタズタ

真っ白な空間でフローとジョン・ホールが向かい合って、後方ではグレイとデオンが宙を舞いながら激しく剣を交わすクライマックスのシーン、アツすぎました。
グレイとデオンの浮遊しながらの決闘はゴーストならではという感じで、回転ありスピード感あり見応えがすごかったです。特に2階席センターからの視界だと浮いてる感がマシマシで、目の前で闘っているような臨場感がありました。

敵意と憎しみをあらわにしてピストルを構えるジョン・ホールに対して、フローは怖気付くことなく「私が信じた道に誰かが続くだろう!さあ撃てば良い!!!」とまっすぐに向かい合うのですが、その歌声の力強さ意志の強さに圧倒されて、感情のコップがバアァァッと溢れるような感覚と共に涙が勝手に溢れてきました。心が揺さぶられるってこういうことか…と。

フローを間一髪のところで救ったグレイはその隙を突かれてデオンの剣で胸を貫かれてしまうのですが、本当に身体を貫通していたように見えました。イリュージョンの仕掛けが全然分からない!

このあと相打ちとなったグレイとデオンは真っ白な世界に煙のように消えてしまうのですが、グレイがいなくなったことで取り乱したフローの気迫がもう…もう…
ジョン・ホールの手から離れて地面に落ちたピストルを拾い上げて「あなただけは許さない!」と声を張り上げて感情を爆発させて…見たことのないフローがそこにいました。

姿が見えなくなったグレイに向かって
どこなの 殺すのは 今なのよーーーーーー!!!!!!と身体が張り裂けそうな絶叫…もう、もう胸が締め付けられてどうしようもありませんでした。

切なくて温かい幕切れ

時は流れ、数々の功績を残したナイチンゲールの危篤を報じる新聞記事。
アレックス、エイミー、ボブに寄り添われてフローが息を引き取るのですが、その瞬間スーーッとフローの身体が動いてゴーストのように立ち上がり、そこにグレイが現れるので驚きました。
ここ野戦病院での臨死体験を経験してゴーストが見えるようになっていたボブだけが再会したフローとグレイの姿が見て声をあげているのが良いですよね…

あのクリミアの銀世界で別れ別れになったふたりが今ようやく再会できたことが嬉しくもあり、今この時まで会うことは叶わなかったのだと思うと切なくもあり…
人生という長い旅を終えたフローにグレイが微笑みかけて「なにかひとつ古い物…」と歌いはじめた瞬間にこれは反則だ!と思いました。『サムシング・フォー リプライズ』ずるいよ…そのリプライズは私に効く…
フローの純白のドレスも相まって本当の婚約の儀式のようでした。

「なにかひとつ青いもの…」「青空」の瞬間、自分の耳の奥でジワァッ…と音が聞こえて、涙がガーーーッと込み上げてきました。ふたりで見上げた空模様が本当に本当に輝かしくて切なくて美しくて、今までに観た舞台上の青空の中で一番綺麗だ、と思いました。


最後に舞台上と客席にたくさんのランプが吊るされて一斉に灯りが灯るのですが、劇場全体が驚きと温かい光に包まれるあの瞬間は忘れられない観劇体験になりました。特に2階席では視界全体にランプの光が広がるようで、本当に素晴らしい景色でした。
全身で舞台を感じて、心の底から込み上げけてくるものがあり、この作品をこの目で見て感じることができてよかったと思いました。


登場人物について+キャストさんの印象

プリンシパルキャストさんの印象と、各登場人物について思ったことをごちゃ混ぜにしていますのでご了承ください。
あとデオン様についてはさっき散々書かせてもらったので、ここでは割愛します。

フロー(谷原志音さん)

まっすぐな信念を体現したような表情と立ち振る舞いが本当に素敵でした。強さも優しさも憂いも悲しみも、クライマックスで見せるどん底の絶望にすら濁りのない清らかさを感じて、意志の強い瞳にものすごく惹きつけられました。漫画みたいな位置に漫画みたいな大きなハイライトが入るんですよね。

フローが自分の信じる道を突き進む様子は堂々として迷いがないように見えますが、グレイにだけは「みんなの期待に応えられなかったら…」「どうすればいいの…」と弱音をこぼすのが良いなと思いました。グレイが元いた劇場に帰る!と言い出した時は必死に引き留めていて、自分以外誰にも見えない聞こえない存在を頼りにしていて、とにかくそばにいて欲しかったんだなぁ…
フローがグレイと話す時の敬語とタメ語が入りじった話し方が絶妙な距離感で好きでした。

フローの「人の善性」に対する希望と信頼はずば抜けているなと特に感じたのは、2幕後半でジョン・ホール軍医長官からの呼び出しの手紙に応じるシーンでした。
事前にアレックスからの忠告もあり、グレイもこれは罠だと止めるにもかかわらず「困っているなら力になりたい」と言って、「話せば分かると信じているの」とまっすぐな瞳で高らかに歌い上げてジョン・ホールの待つ場所へ向かうんですよね。
このあとジョン・ホールの命令を受けた兵士たちによってフローは仲間たちと引き離されてしまうのですが、兵士のひとりから「お逃げください!」と促されたフローが間髪入れずに「あなたはそれでいいの!?」と聞き返すのも、自分を犠牲にしてでも人のことを優先する覚悟が決まりすぎている…

身長的に小柄な方なのかなという印象を受けたのですが、クライマックスでの絶唱は本当に凄まじくて、その華奢な身体のどこにこれだけのパワーとエネルギーを秘めていらっしゃるの…と圧倒されっぱなしでした。歌声のギアが一段階二段階とどんどん上がっていくのを感じて、本当に心が震えました。

冒頭でフローが家族から浴びせられる看護婦という職業への苛烈な蔑みの言葉を聞いて、当時の看護婦・女性に対する世間のイメージや偏見はここまで酷いものだったのかと驚き、野戦病院の酷い状況を見て「病院=清潔な場所」だという頭の中の当たり前とのギャップに驚き…
逆境を跳ね除けて不断の努力で変化をもたらしたフローの生き様を目の当たりにして、史実のフロレンス・ナイチンゲールのことも考えずにはいられませんでした。

グレイ(萩原隆匡さん)

壁に持たれかかって立ったり何気なく椅子に腰掛けたり、剣を抜いて戦ったり、あらゆる全ての動作が様になっていらっしゃる…と思いました。
お茶目な仕草やおどけた声の出し方で客席を笑わせて一気にコミカルな雰囲気を出すのもチャーミングでした。キュッと上がった口角が素敵!

身近な人からの度重なる裏切りに傷つき、孤独な最期を迎えて「信じて裏切られるくらいなら一人きりの方がマシだ」と諦めてしまったグレイが、フローと行動を共にするうちにフローのことが気になって大切になってしまって「この女は裏切らない!」と断言するまでになる変化が見事でした。
グレイは本来は情が深くて人のことを信じたくて、人とともにありたかったんだろうな。

はじめは達観したような諦めたような態度でフローのこともあしらうような対応だったのに、だんだんフローに翻弄される側にまわってくるのが良いですね〜〜〜。グレイの話し方も声色も最初と最後ではまるで違っていて、2幕後半は壊れものを扱うように大切にフローに接していたように感じてグッときました。

2幕のラストで『ゴースト&レディ』というお芝居は劇作家グレイの処女作であり劇中劇であったことが明確に示されるのですが、自分しか知らない彼女のことをどうしても形に残したかったって……フローのことを想う気持ちが深くて大きすぎる……

この劇中劇の構造と、フローの危篤を新聞で知った市民たち(アンサンブルキャストさん)が一列に並んで歌うシーンは『ノートルダムの鐘』のラストシーンを彷彿とさせる演出だなと思いました。

ジョン・ホール軍医長官(野中万寿夫さん)

プライドが高くて出世欲が強く、現場と部下を軽視し、女を蔑んでフローを目の敵にするジョン・ホール、悪いな〜〜〜〜!!!!
自分の中の利己的な正義とか信念に従って権力を行使してくるので本当にタチが悪い。戦場でキャビアを食うんじゃない。

急患のもとへ一刻も早く駆けつけたいフローたちの前に立ち塞がって横暴を並べ立てるシーンではジョン・ホールに光が当たって身体から伸びる影がどんどん伸びて大きくなって、逆らえない上下関係の強さを感じさせる面白い演出でした。

野中さんは以前『ノートルダムの鐘』フロロー役で拝見していたのですが、本当に本当に素敵なお声ですよね…
低くて深みがあって、どんなに酷いことを言っていても一定の説得力が出ちゃうというか……感情を露わにブチギレている時でもどこか品があるというか…

自分の得や利益を優先して行動しつつも上には良い顔をするジョン・ホールは胸くそ悪い嫌なやつではあるんですが、程度の差はあれこういう人って身近にもいますよね…
フローの前に立ち塞がる存在として時代の流れや戦争や病など大きな要素があって、だからこそ相対する人は強大すぎない(と言ったらジョン・ホールに怒られそうですが)所属する集団の最高権力者とまではいかない上司というポジションがちょうど良いのかな、なんて思いました。

アレックス・モートン(寺元健一郎さん)

以前『ノートルダムの鐘』カジモド役で寺元さんのことを拝見して、温もりと沁みわたるような透明感を併せ持つお声がとても印象に残っていました。
物語の序盤にその素敵なお声でフローに優しく声をかけてプロポーズするも断られてしまうのですが、その後の対応がとても落ち着いていて、感情に振り回されることのない、冷静で余裕がある人だと思いました。

野戦病院でフローと再会するシーン、ジョン・ホールの命を受けた男達に襲撃されたフローを助けて、「痩せたんじゃないか?こんなに手が荒れてしまって……」と声をかける様子も誠実で真面目でフローのことを大切に思っているのが伝わってきました。
それだけに…それだけにこのあとしばらく経って「エイミーと結婚する」とフローに報告するシーン……
プロポーズの時の『サムシング・フォー』のリプライズで「僕はもう君を守れないけど、きっと君はひとりでも大丈夫」というようなことを歌うのが残酷すぎて…。そんなわけない…そんなこと言わないでよ…
アレックスも貴族の身分で親や親族から結婚しろとかいろいろ言われていたんだろうけど……エイミーと幸せになってほしい気持ちもあるけど……ウッ…

エイミー(木村奏絵さん)

ミュージカル『ゴースト&レディ』の作中で一番共感したのは先述の通り、エイミーのフローに対する「あなたが眩しすぎて悲しくなる」でした。
同じ曲の中でエイミーが歌う「身も心もボロボロ」という歌詞は、彼女たちが今いるのは戦場で、従軍看護婦たちは壮絶な環境の中命懸けで働いていたのだと改めて思い出すきっかけにもなりました。
最初は包帯が全然上手く巻けなくて周囲に呆れられていたのに、やがてどんどん頼もしくなっていく姿は応援したくなるし、木村さんのまっすぐ伸びる澄んだ歌声と一生懸命さが滲み出る表情がとても好きでした。

エイミーに自分を重ねるような気持ちだったのですが、終盤でエイミーがフローに向かって「お話があります」と言ってアレックスと結ばれて国に帰ると打ち明けた時はめっちゃめっちゃめっちゃショックでした。
なんというかブラック企業に同期で入って一緒に頑張ってきたのに、その同期が結婚を機に退職していくのを目の当たりにした感じというか……(こんな例えでごめんなさい…)

でもこれまで頑張ってきたエイミーが幸せになってほしい気持ちもものすごくありました。
ラストシーンのフローの最期にエイミーとアレックスが寄り添っているのを見て、戦争が終わってからもフローとこのふたりは良い関係性を続けてきたんだろうなぁと思えて嬉しかったのも本当です。

それでもやっぱりカテコでエイミーとアレックスが手を繋いで出てくるのを見て感情を拗らせてしまう〜〜ッ これは私が悪いです、ごめんねエイミー…アレックス…

ウィリアム・ラッセル(長尾哲平さん)

本物の新聞記者さんがいる。と思いました。クリクリした大きな目が印象的で、戦場での良いことも悪いことも全部見てるぞという感じ。
冷静かつ熱血な男で、従軍記者としての使命感と誇りを持っているのが伝わってきました。

ラッセルの書いた記事が戦場から離れた本国(英国)にもたらされて世論を巻き起こしていく様子がしっかり描かれていて、報道の力、ペン1本の力、伝えること、受け取ること…今の自分の生活にも繋がることがあると感じました。

ラッセルは狂言回し的なポジションとして要所要所で登場するのですが、他の登場人物とガッツリ絡むシーンがあまりない?印象でしたが、よく通るお声がパーーーン!と響くのが聴いていてとても気持ちよかったです。

ボブ(平田了祐さん)

フローに介抱されながら「あなたは天使ですか…?」と作中で(私の記憶の中では)初めてフローのことを「天使」と形容した若い兵士。1回目の観劇時は彼がボブだと認知していなかったのですが、2回目でボブだったのか!と気づきました。

1幕の中盤で急患として野戦病院に担ぎ込まれ、命が尽きようとしている彼にフローが懸命に歌いかけるシーンは本当に熱量がすごかったです。
ベッドに横たわったボブの身体から幽体離脱のように魂(?)が抜け出して光に導かれるように歩き始めるのですが、空っぽでぼんやりした表情で遠くを見つめているボブを見て本当に死んでしまう…と思いました。演出もさることながら平田さんの表情もすごい…
フローの必死な声かけによってボブの魂がスーッと引き返して身体に戻ってきて一命を取り留めるのを見て、上手すぎる歌は医療行為なんだな…と深く納得しました。そして意識を取り戻したボブがグレイを見て指をさす動きがキレキレなのが面白くてホッとして笑ってしまいました。

この時の臨死体験を経てグレイのことが見えるようになったボブは2幕の冒頭で「なぜナイチンゲール様に付き纏うのか?」とグレイを問い詰めます。ゴーストに向かってピストルを構えて必死なボブと、余裕たっぷりにボブをからかうグレイのギャップが良いですね〜
ここの『さあ言え!』の曲で、このボブ役の俳優さん絶対どこかで見たことあるな…と思っていたらウィキッドのボック役で拝見していました!フレッシュな瑞々しさが素敵ですね。

1幕ラストでデオンと対峙したフローの構図で幕が下りて、2幕冒頭で『さあ言え!』があってから次のシーンで1幕ラストと全く同じ構図から続きが始まる感じ、連載漫画の「次号へ続く!→次のお話」の流れっぽいなと思いました。

ずっとナイチンゲール様をお守りするんだ!と奔走していたボブはラストシーンのフローの最期にも登場するのですが、階級の高そうな装飾が豪華な軍服を身につけて車椅子に乗った老ボブの「ナイチンゲール様…」の別れを惜しむ呼びかけがとても印象に残りました。


観劇を終えて

カーテンコールでグレイ役萩原さんが両腕を広げて、フロー役谷原さんが抱きついてハグ!!
このふたり作中では全然触れ合ってなかったのに!!!ここに来てハグ!!!!!めちゃくちゃ拍手しました。

終演後は胸がじんわり温かくなって、面白かった〜!ミュージカル観た〜〜!っていう満足感もあって前向きな後味でした。
2回の観劇でかなり音楽が頭に残ったので、記憶の中の音楽と歌声を上書きしたくない!と思って1週間くらいは他の音楽を聴けませんでした。

そして観劇後のハイな感情が落ち着いてからいろんなシーンやセリフを思い返していると、ただ前向きなだけ、心温まるだけじゃない部分についても意識が向いてきました。

この作品の舞台は史実を元にした戦場ですが、直接的な戦闘の描写は無く血も出ません。それでも勇ましく行進していた兵士たちがあっという間に傷ついて野戦病院に収容され、不潔で感染症が蔓延する環境の中で寒さと空腹に耐え弱っている様子、妻子を残して死んでいく若い男…
戦争のこと、看護婦への蔑み、女性への抑圧、権力……作品に散りばめられたさまざまな要素を思い返して考えを巡らせることもあり、今回の観劇で『ゴースト&レディ』から受け取ったものを忘れずいたいなと思ってこの感想文を書きました。

かなり個人的な気持ちも含まれる拙い文章でしたが、もしここまでお付き合いくださった方がいらっしゃいましたら…最後まで読んで頂きありがとうございました。

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