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『スリル・ミー』尾上×廣瀬ペア感想備忘録(2023年10月9日 昼 大阪公演)

友人に声をかけてもらって2023年10月9日(月・祝)サンケイホールブリーゼで『スリル・ミー』昼公演を一緒に観てきました。

この友人に教えてもらった劇団四季の『ノートルダムの鐘』にまんまとドハマりしてしまった経緯があって彼女のおすすめにはとても信頼を寄せていたのですが、「〇〇(私)が絶対好きになるミュージカルだよ、一緒に行かない?」と言われてしまったらもう行く!!という選択肢しかなかったです。

ネタバレ無しで見てほしいと言われていたので、公式サイトのあらすじだけ目を通してそれ以外の情報は一切入れずに行きました。

完全初見の終演後の率直な感想
「こんな不健全な舞台初めて観た」
いやアダルディでウェッティだったとは思うんですけど、ここで言う不健全はそうじゃなくて、2人一緒にいるのにすれ違っているような、お互い相手のことも自分のことも大事にできていないような歪な関係性が不健全だなぁと感じました。

2023年10月9日の大阪昼公演で尾上×廣瀬ペア、同日夜公演で木村×前田ペアを観劇してスリル・ミー中毒になってしまい、急遽10月21日の尾上×廣瀬ペア高崎昼公演を追加して見納めをしたと思っていたら、全ペア配信上演が決定してあれよあれよと更なる深みに沈んでいった私が、大阪公演の初見の記憶、衝撃を忘れたくない!と思って当時のメモと記憶を頼りに書いた文章です。

ここから下はネタバレ有りで思ったこと、印象に残ったことを書き連ねていくので、まだスリル・ミーを観たことがない方はこのnoteを閉じて再演をお待ちください…まだ再演があると決まった訳でもないのに無責任にこんなことを言うのもどうかと思いますが、初見はネタバレ見ないでくらって欲しいので!!!!お願いします!

※この下の本文では尾上松也さん演じる「私」を「私」「尾上私」、廣瀬友祐さん演じる「彼」「廣瀬彼」、筆者自身のことは「わたし」と表記します。


はじめに

スリル・ミーという演目そのものが今回初見でした。友人からは「脳みそが焼かれる演目」と聞いていたので、ピアノ1台とキャストが2人だけってどんな感じなのかな〜の気持ちが半分、めちゃくちゃ怖いな…の気持ちが半分で劇場に向かいました。

こんなに分かりやすいキャストボード初めて見ました

尾上松也さんは「歌舞伎役者さん」という認識で、テレビのバラエティ番組で少し見たことがある程度。ミュージカルのイメージはなかったのでどんな感じなのか全く想像できなかったです。
廣瀬友祐さんはよくお名前はお見かけするけれどお芝居は見たことがなかったので、今回とても楽しみにしていました。

客席に着いてから舞台上にアップライトピアノが1台あるのを見つけて「あ、舞台の上での生演奏なんだ」と改めて驚きました。

◆プレリュード

開演のとき、客席の電気が音楽の始まりに合わせてスウーーッと徐々に暗くなるのではなく、ピアノの第一声(音)で一斉に一気にバンッと暗くなったのでオオッと思いました。
静かで真っ暗な中ピアニストさんが1人で奏でる不穏でミステリアスなメロディを聴いているのはとても緊張感があってどんどん引き込まれて、物語が終わってカーテンコールで拍手をするまでずっと集中が続いて気が抜けなかったです。
尾上松也さん演じる私が舞台上にゆっくり現れて、この舞台は「私」の語る物語なんだと理解しました。

◆隠された真実

幼い頃からずっと一緒だった彼の存在思い出すように、つぶやくように歌う私。音楽は本当にピアノだけなんだな…ピアニストさんが振り返ってキャストさんの動きを見て音楽のタイミングを合わせていたのが印象的でした。

この曲が終わって暗転したあと舞台上には19歳の私がいて、尾上松也さんの「53歳の私」と「19歳の私」の切り替えがすごかったです。
私の語りに合わせて場所や時間が異なるシーンが切り替わっていくのですが、全く「断片感」が無くて、連続した語りと追憶が展開されていくのを見ながら一時も集中力が途切れませんでした。呼吸をするのも忘れて、無意識に奥歯を食いしばりながら見入ってしまう、まさに「息もつかせぬ100分間」
自分が透明人間になってその場そのシーンに居合わせて、私と彼の行く末を何もできずにただひたすら目撃しているだけ、という感覚でした。

19歳の私と彼

バードウォッチングに夢中な私の背後から廣瀬友祐さん演じる彼が登場。
脚、長!!!!!!!!!!!!
廣瀬さんの脚が長くて腰の位置が高くてスタイルが良すぎて戸惑いました。脚、長!?

公園で再会した私と彼のやり取りは「そこに立っているだけで威圧感のあるカリスマ彼」と「頭は良いけど内向的で少し子供っぽい私」なのかなと思いました。
彼は私のことを軽く見ているというか、私の「自分が彼の一番だ」という主張と、彼の考える「自分の中の私の優先度」に明らかに差があるように見える、「彼が私の相手をしてやってる」パワーバランス、対等じゃない。
尾上私に対して「そんな男やめとけ…!そんな男やめとけ…!!」と心の中で連呼しました。
あとこの私、彼の弟を金で釣って彼の情報を聞き出してるの普通におかしくてなんか怖くないですか?幼馴染の弟を買収…??

◆僕はわかってる

私から彼への感情が想像より重いぞ…と思いながら見ていました。彼が煙草の煙を私に吹きかけるサービスシーン有り。
そして衝撃を受けたのが、彼が私に近づいたと思ったら突然の、キス
しかも2回
しかも長い
彼の「これで満足か?」に対して「ああ…」と応えて照れたような笑顔を見せる私。

なるほど

あらすじを読んで、これはおそらく男と男のクソデカ感情の話なんだろうとは思っていたんですけど、こんなに序盤で2人の関係性を見せつけられると思ってなかったので…
完全に客席の我々に対する「分からせ」のキスでした。
彼のことが好きで好きでたまらない私のことを彼はしっかり分かっていて、その気持ちを利用してコントロールして2人は一緒にいるんだって思いました。

◆やさしい炎

久しぶりに再会して一緒にやることが放火…?
とにかく曲がすごく良い
どうしてこんなに放火(犯罪)がロマンチックなシーンになるんだ……何が起きてる?何を見せられている…??
廣瀬彼が尾上私を後ろからギュッとしたあと、2人で両手をフワ〜っと広げていく時の動きが完全にシンクロしていて、声の溶け合いが本当に綺麗で、なんなんだこれは…なんてことだ……

◆契約書

廣瀬彼の「なんで?」の声の響きが子供っぽくて、何故かそれがとても気になりました。「なぜ?」とか「なぜだ?」じゃなくて「なんで?」なんだ…ってしばらく脳内で反芻。

彼が私に本を渡すと思いきや手から放って地面に落とす。彼!!!本を!投げるなーーーー!!!!!

「お前がいなきゃだめなんだ」の台詞は公園で去り際にキスしたり放火の現場で「レイ」って呼びかけるのと同じだ…
私の気持ちが離れていきそうな時、自分の思い通りにしたい時にちょっとした飴を与えて手懐ける感じが人心掌握の上手い悪い男だなと思いました。

契約書に「血でサインする」って彼が言った時に私が少し引いていましたが、急に中二病みたいな発言が来たなと思いました。
彼がためらっている私の手を強引に取ってナイフを突き立てる。距離が近いどころか密着してて…な、何を見せられている??(2回目)

◆スリル・ミー

いきなりカバンがドンッッッッッッ!!!!!!って落ちてきてびっっっくりした…

「もう我慢できない」から私の反論というか反撃が始まるわけですが、私は受け身な感じかと思っていたのにめちゃくちゃ自分から迫るので驚きました。
私が彼をどれだけ求めても同じだけ返ってこなくて、不満とフラストレーションが溜まっていただろうことはこれまでのシーンで分かったし、私の言葉に対して彼はまるで聞こえなかったかのように無視して自分の話を続けるので少し私が気の毒に思えたんですけど、これは、あの、、
曲が進むにつれてだんだん私→彼にぶつけられる欲があまりにもデカいことが分かってきて 怖かった

「抱きしめてほしい…」の意味がただの友愛や親密のハグでは無いことは頭のどこかで分かっていたんですけど、ジャケットを脱いで2人で向かい合ってネクタイを外していく光景を見ているのは本当にハラハラしました。ピアノの音の緊張感がすごい
尾上私がサスペンダーをするっと外しながら歩いて行くのを見ていたわたしの脳内「うわうわうわどうしようなんか色気がすごいやばいこれ大丈夫?どこまで行くこれ怖いうわ、うわわ、わぁ〜〜〜あ…ア……」

彼が「今はだめだ」って言っていたのに、契約書を交わしたとはいえ彼の気持ちは無視されて私の欲求だけが満たされるのを見るのは胸が痛みました。
まぁ私も彼の犯罪行為に進んで手を貸していたとは思えないので、彼の欲求を満たすために我慢していたんだろうからお互い様ではあるんだけど…
床に転がされた彼がゆっくりと起き上がった時の様子があまりにも呆然としていて結構ショックでした。

◆計画

彼は私に次のスリルとして殺人を持ちかける。ここであらすじにあった残忍な誘拐殺人事件に繋がるんだと思いました。彼は私がどこまで自分に着いてきてくれるか試している?
はじめは拒否していた私も彼の有無を言わせぬ圧に逆らえない感じでした。「彼の弟」がダメで「知らない子供」の方が良いという基準がよく分からないけれど、とにかく覚悟が決まってしまった。私は彼を止めることができなかった。彼が弟のことも父親のことも嫌いすぎるし、本当に家族と上手くやれていなさそう。

廣瀬彼の「ハ゛ン゛マ゛ーで頭を割る!!!!!!」めちゃくちゃ怖かったです。
それにしてもすごい歌詞だな……インモラル残酷ワードのオンパレード

◆戻れない道

ロープが細いと抗議した彼がロープを両手で握りしめて確かめるように引っ張って、座った姿勢で立てた右膝にロープを巻きつけてグッと力を込めていたのが最悪だった。それ子供の首だと思って試してるんでしょ…最悪だよ………
これから自分たちがやることに対してためらいも恐れも無いように見える彼。
「この時点ならまだ戻れる、実行に移さなければ…」と祈るような気持ちで2人を見ていたのですが、彼らはこのあとやってしまうということをわたしは知っているのでこの祈りは届くことは無くて…こんなはずではなかった彼らが転落していく直前の「もうここからは本当に戻れない」境界線を踏み越えるのを目撃しているようで、無力感がありました。

◆スポーツカー

怖い このシーンをこうやって見せられるんだ
子供はいないのに、そこにいるような声が聞こえるような錯覚を覚える生々しさで、これ見せられるのキツいなぁ嫌だなぁと思いました。
それでも目を逸らすことはできずに奥歯を食いしばりながら息を詰めて見入ってしまう…
優しくて親しげな声色で近づいて、車の鍵を見せて、スッと引いて…廣瀬彼の「名前は?」の声の穏やかで親密な響きは本当にゾーーーッとした。
「近くにおいでーーーーーーーーー」の伸ばした音が永遠に続くかと思いました。これから起きることはお願いだから見せないでくれ 耐えられない 怖い やめて、と心臓バクバク状態で、頭の中で警報音が鳴っているような感覚でした。

◆超人たち

奥から私と彼が飛び出してくる、ピアノの疾走感と緊迫感がすごい。
やってしまった ことは起きてしまった もう終わったんだと思うと同時に、もう彼らは「ただの非行少年」には戻れない橋を渡ってしまったんだと思いました。
決定的なその瞬間を見せられたら私は立ち直れなかったかもしれないので舞台上でモロに表現されなくて助かった…
興奮した様子で堂々とした立ち姿の彼と、やってしまったことの重大さに打ちひしがれてボロボロの私。終わったんだ……

◆脅迫状

脅迫状の文面を音楽に乗せて聴くのって生まれて初めてだなぁ(最悪)
誘拐→殺人の流れでショックを受けすぎてあんまり記憶が無い

◆僕の眼鏡/おとなしくしろ

完全犯罪を成し遂げたはずだったのに即バレしてる!!さっきまで順調だったのにだんだん状況が悪くなっていく。
弱々しい声で彼に不安を漏らす私と、落ち着き払って超人然としている彼の立ち振る舞いの差が…「そんなこと」って一蹴できるのがすごい。

落とした眼鏡は伏線だったんだ、もし現代の科学捜査をされたら1発でアウトなんだろうな…と思いながら畳み掛けるようなピアノと歌と叫びで2人がじわじわ追い詰められていく様子を見ていました。
そして彼が、取り調べを受けるのは「お前だけだ」と言った瞬間は裏切られた!終わりだ!と思いました。
この時点では「2人はこうして罪を犯して逮捕されて34年間服役するに至りました」の物語だと思っていたので「あぁもう逃げられないな、ここから崩されて逮捕される流れなんだな、なるほどな」と割と冷静に考えていました。この時点では。
最後に『九十九年』で私の本当の動機が種明かしされて、その狂気性異常性にひっくり返されるとは思っていなかったので……

◆あの夜のこと

私の「無いアリバイ」を彼がでっち上げる歌。
彼はどうしてこんなに自信満々でいられるんだろう。2人が手を繋いで交互に繋いだ手に力を込めて相手の方に押しやる動きは励まし合っているようにも、押し付けなすりつけ合っているようにも見えました。

警察署から戻ってきた私に対して彼は一瞬優しい言葉をかけておいて最終的にはイライラと怒りをぶつけて突き放して見捨てる。眼鏡を落としたのは確かに私の落ち度かもしれないけれど、あまりにも私が可哀想すぎる。
彼の腹の底から出たような「お前は、最低だ」を聞いた時に、この物語は裏切りと2人の決別で終わるんだなと思いました。この時点では……

◆戻れない道(リプライズ)
〜警察署でのやりとり

警察に出頭する私の悲痛な表情。
ここで全く動かなかった舞台セットが動いたので、逆に動くんだ!?って驚きました。

そして彼も警察署に連れてこられるのですが、部屋に放り込まれた彼がものすごい勢いで地面に膝と両手をつくので驚きました。前髪も乱れていて、さっきまでの威圧感と余裕はどこへ!?
彼の「こんな所すぐに出てみせる」の台詞も強がっているみたいに思えて、私の落ち着き払った様子とは対照的でした。
そして私が「警察と取引した」と打ち明けて、彼の裏切りを裏切りでお返しする。

◆僕と組んで

彼が私を懐柔するための優しい優しい声と言葉をかける。暴言や暴力の後で態度が急変して反省するそぶりを見せたり優しい言葉をかけたりするの、DVの典型と言われているやつですよね…
彼が言葉を重ねている間、私は彼と目を合わさないようにしていたと思います。だめだよ私、その彼絶対また裏切るよ

さっきまで優位なポジションだった彼が「助けてくれ」と命乞いをするように懇願するように私に口づけるのですが、なんっっってドラマティックなピアノのメロディの盛り上がり方なんだ……(ここ警察署ですよね?)
彼が左手を地面につけて私の上から覆い被さるようにキスをしていたのですが、廣瀬彼の左手の接地点が身体から遠すぎて腕の長さを見せつけられました。

私が彼の手を掴んで払いのけて、ここで決別するんだな…と思っていたのに、私の口から出たのは「わかったよ」でした
えぇ…わかっちゃうの…??いいの?絶対に彼また裏切ると思うよ?

◆死にたくない

彼の弱い部分が曝け出されるものすごい曲だった
眠っている(ふりをしている)私に向かって「起きてるか?」と呼びかける廣瀬彼の声は「起きていて欲しい」と「起きていて欲しくない」が入り混じった響きに聞こえて、それがとても印象に残りました。
今まで余裕たっぷりで堂々としていて常に威圧感を放っていた彼の口からこぼれ出た「こわいんだ」はもう衝撃ですよ。
自嘲混じりの弱音を吐きながら混乱したように叫び声を上げて、長い長い手脚を縮こまらせて振り乱して床を転げ回っているボロボロの彼の様子は見てはいけないものを見ているような壮絶さがありました。
乱れて目にかかった前髪と腕まくりしたシャツから見える腕の筋が…その…フェティッシュでした…

◆九十九年

私から彼への種明かしであり、これまで頭の中で抱いていた前提がひっくり返される瞬間。
廣瀬彼の思いのまま手のひらで転がされていたと思っていた尾上私が、彼と観客にそう思わせておきながら実はもっと深いところで、手のひらの上で彼を踊らせていたということ?いつから?どこからどこまで私の計算通りだった?

私が考えていたことは「彼と一緒にいたかった」というシンプルなことだけなのに、実行された手段と手に入れた成果が常軌を逸しているので理解が追いつかず、何を考えているのか分からない。
眼鏡を落としたのはわざとだったという告白のあと、彼に向かってじりじりと迫りながら歌う尾上私の目の奥の感情が読み取れなくて、彼へ向ける微笑みに底知れない恐怖を感じました。

私が彼と向かい合って「変だよ青ざめて」と言うのがほんとに…ほんとに…「変だよ」じゃないよ…
こうしたら/こう言ったら相手はどう思うだろう?っていう視点が欠けてませんか?
それとも全て分かった上で煽りで言ってる?とも考えたけれどそうは思えない…本当に心から不思議に思って「変だよ」って言ってそうでした。
とにかく私の目的は達成された。信じられないやり方で…

99年、永遠に一緒だと歌い上げたあと、53歳に戻った私の口から彼がすでにこの世にいないことが明かされて、もうどうしたらいいか分かりませんでした。
彼と一緒にいるために全てを捨てて目的を成し遂げた私が、その彼すらも失ってしまったなんて、救いも報いも何もない…

◆スリル・ミー(フィナーレ)

仮釈放が認められた私がライトに照らされた組んだ両手の指をゆっくりゆっくり解いていく。息が詰まるような服役中の生活から自由の身になることの重大さを感じるシーンでした。

逮捕された時の所持品だった「彼の写真」が優しく「レイ、」と呼びかけて、私が観客に向かって「スリル・ミー」と呟くように歌って暗転。解釈はそちらにお任せします、というような投げかけをされたようにも感じるものすごい余韻でした。


終演後、ぐちゃぐちゃになった

衝撃的なミュージカルでした。劇場をあとにするわたしの頭の中はぐちゃぐちゃでした。

何も分からないけど どうして
彼らの関係は何だったんだ
どうしてあんなことになってしまったんだ
彼らが幸せになるにはどうしたらよかったんだ
彼らの幸せってなんだったんだ
どうして

ふたりの考え方や行動の歪みが徐々に膨らんで、どんどん後戻りできなくなって、本当に取り返しがつかないことをしてしまった。
そしてああいう結末を迎えてしまったんだということに落ち込むし、どうにか、なんとかああならない道は無かったのかと無い「if」を考えてしまう…


尾上私と廣瀬彼

尾上松也さんの私は「育ちのいい、いいとこの坊ちゃん」感が全身から漂っていて、オドオドと控えめな一面と手段を選ばない執念強さを併せ持つミステリアスな私でした。
廣瀬友祐さんの彼は周りの人間全員を虜にしてしまいそうなルックスで、カリスマ性と威圧感を感じる堂々とした立ち振る舞いと話し方が印象的でした。それが最後にズタボロに崩されるギャップ……本当にすごかった…
尾上さんの少し甘い響きのある声と廣瀬さんの低く落ち着いた声の相性がすごく良いな〜と感じました。

彼と私がお互いに犯罪と欲望で相手を試して繋がって利用して依存して、最後には一緒に転落していく…ひたすらに仄暗い空気感の、精神的に不健全でアンバランスな関係性でした。
契約書にしたがってお互いにやりたいことをして、彼らは一時的に満たされた気持ちになっていたかもしれないけれど、相手を思いやるとか尊重するとかそういった考えは2人とも持っていなかったように思います。

わたしは基本的にはハッピーエンドの物語が好きな「関係性のオタク」なので、もしハッピーエンドではなかったとしても確かに存在した感情とか、かけがえのない時間や関係性、記憶があればそれをよすがに「出会えて良かったよ…」などと胸をいっぱいにするタイプなのですが、今回の『スリル・ミー』大阪尾上×廣瀬ペアに関してはマジで2人出会わん方が良かったのでは?とすら思いました。
登場人物は2人、音楽はピアノだけ、構造はこんなに分かりやすいのに2人の関係は全然分かりやすいものじゃなくて、頭の中でひたすらぐるぐるぐるぐる思考が回る後味でした。


即効性の衝撃と遅効性の毒のような魅力

本当に衝撃的なミュージカルでした。ネタバレを踏むことなく劇場でこれを目の当たりにできて良かったと思うと同時に、結構ダメージを負いました。
とにかく分かることは尾上松也さんと廣瀬友祐さんのお芝居と歌のパワー、ピアニスト朴勝哲さんの渾身の生演奏を浴びて叩きのめされたような感覚で、とにかくすごいものを見てしまったということでした。物語と展開にかなりかなりショックは受けましたが、観れてよかったすごかった〜〜という思いは終演直後から持っていました。

わたしは多分「スポーツカー」で彼が子供に声をかけて連れ去るシーンがあまりに生々しくて一番ショックを受けていたのですが、一緒に観に行った友人が「あのシーンは彼役の俳優さんの見せ場だよね」と何気なく言ってくれたことで「あぁ、なるほど、そういう見方もあるんだな」とすごく腑に落ちたんですよね。
実際にあった事件がもとになっているから史実と現実とお芝居のリンクのさせ方が難しい作品だとは思うのですが、「彼役の俳優さんが舞台上でどんな表現を見せてくれるのか」という視点を教えてくれた友人には感謝しています。喉につかえたものを飲み込めたような感覚でした。感想を人と共有するとこういう気づきがあるので良いですね。
ちなみに一緒に観に行った友人と終演後カフェに行っていろいろと話をしたのですが、その時わたしがうわごとのように繰り返していた言葉は「対等対等ってことさらに強調する関係性は対等じゃないんよ…」でした。

終演後はとにかく呆然としていましたが、その日の夜公演 木村×前田ペアで「ペアによる違い」を目の当たりにし、その日の夜に購入した公演パンフレットを読んで、次の日、数日後、数週間後と時間が経つにつれて遅効性の毒のように魅力に取り憑かれて『スリル・ミー』中毒になりました。

本当にすごいものを見ました。
出会えて良かったです。

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