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そこから先が、気になる話。

あれは私が20才そこそこの頃。

肌の弱い私は、当時あまりメジャーではない自然派の化粧品を使っていた。そのお店はデパートの家庭用品の売り場の階の片隅にひっそりと、そしてこじんまりと存在していたのだった。

ある日、いつものようにファンデーションを買いに行った。店員さんにいつも買っている商品を出してもらっている時に、50代半ばの夫婦連れがやってきたので、もう1人の店員さんが彼らに声をかけた。

 「夫が抜け毛が酷くて・・・」と奥さんの方が店員さんに相談を始めたので、そのくらいの年齢の男性だと、髪の毛が気になるんだろうな・・と聞こえてくる会話をぼんやりと聞いていた。

すると店員さんが「毛穴に皮脂が詰まっていると、抜けやすいんですよ。」と言ったので、勝手にそうか、そうかと納得しながら聞いていた。

そうこうするうちに、私を担当している店員さんが「○○円になります。」と言ってきたので、お財布からお金を出してトレーに乗せた。その店員さんは「では会計してまいりますね。」とトレーを手に、売り場から少し離れた総合レジの方に向かって行った。

引き続き隣のご夫妻の旦那さんの方が「髪はこまめに洗っているんですが・・」と言っていたのだが、言い終わる前に「毎日洗っていますか?」と店員さんが口を開いた。

なんとなく失礼な店員さんだな・・と思いながらも、しっかり耳を澄ませて彼らの話を聞く私。

すると旦那さんが「はい、毎日・・」と答えたのだが、また言い終わらないうちに「じゃあ、もっと頻繁に洗わなきゃだめ。毎日朝、晩くらい洗わないと。」

すると奥さんが「えっ、毎日、朝晩?」

店員さんは「そうですよ、朝、晩。毛穴が詰まると抜けていきますからね。それでも抜けて行くようなら、一日に三回くらい洗わないと。」

え・・・ただでさえ抜け毛がひどかったら、そんなに洗ったらよけいに抜けそうな気がして内心ハラハラしたものの、さすがに口を挟むのは気が引けて、ただただ聞き耳を立てるだけの私。

ご夫妻は「ひえ~・・・」と小さな悲鳴をあげたかと思ったら、2人とも黙り込んでしまった。

私の担当の店員さんが戻ってきてしまったので、そのまま売り場に立ち続けて3人の会話を聞き続ける勇気も無く、私はその場を立ち去った。

後ろ髪を引かれる思いだった。

たまにそのやりとりを思い出すのだが、普通に考えて毎日朝昼晩と髪を洗い続けるなんて、頭皮にも良くないんじゃないか、いや、その前にそんなに暇な人なんているんだろうか・・・

店員さんの言うことをそのまま鵜呑みにするような人なんて少ないとは思うものの、その店員さんが次にどんないい加減なセリフでしれっとセールストークを続けるのかがちょっぴり気になる私だった。


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