短編小説『去り際の終電』

あの日もこんな日だった。いくら待っても彼女は来ない。次はもう、終電だ。

彼女とは、大学で会った。2個上の先輩で学科と学部が一緒、あとサークルも。そのサークルには同じ学科と学部の人は僕と彼女しかいなかった。新入生歓迎会では、その人の隣に座り、いろんな話を聞いた。チョコのような匂いの香水とタバコはピアニッシモを吸っていて、チョコミントを彷彿とさせた。先輩は日本酒が好きでよくベロベロに酔ってしまうらしい。後半は僕の話なんか聞かず元カレの愚痴や、私がどれだけすごい人間なのかを熱弁し、僕に身を任せ寝てしまった。ごめんねと謝る先輩たちとそのチョコミント先輩は仲が良く、帰りのタクシー代を文句言いながらも出していた。優しい人たちだ。僕はこの時、このサークルに入ることを決めた。日本酒は苦手だった。

ここはどこだろう。僕はふわふわと道を歩いていた。前にはチョコミントのアイスが擬人化して、私を食べてと言っている。僕の手にはナイフがあって、そのナイフを刺すとチョコミントは食べることが出来るらしい。なぜか僕はナイフを自分の腹に刺しこう言った。

僕を食べて。
そこで目が覚めた。

意味がわからない。ここはチョコミント先輩の家だった。なぜ分かったかというと、目の前にチョコミント先輩が寝ていたからだ。
まさか、変なことしたんじゃと思ったがそういうわけではない。スマホを見るとLINEが2件。母親からとサークルの先輩から。いつ帰ってくるの?、と上手いことやったなと書いてあるスタンプだった。時間は深夜の2時。ここがどこかもわからないため帰りようがない。とりあえずそのラインを無視して朝まで起きてることにした。

モヤモヤモヤモヤ。
モヤモヤモヤモヤ。
モヤモヤモヤモヤ。

昨晩の記憶が少しずつ甦る。あのあと、チョコミント先輩を送る人を何故か近くに座っていた僕にされた。僕はタクシー会社に電話をし、家の場所を聞いた。

モヤモヤ。

チョコミント先輩は大学のそばの家で僕は大学から地下鉄で5駅乗り換えて4駅となかなか遠い。送ったらすぐに帰ろうと思っていたがチョコミント先輩はタクシー内で寝てしまい、着いても起きずタクシー運転手に迷惑なので一緒に降りて部屋まで案内した。

モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ。

部屋から出ようとすると、チョコミント先輩は僕にキスをした。僕にとってはファーストキスでチョコの味がした。続けてキスしてきたが、僕は拒否して布団に寝かせた。寂しいと言ってきたので一緒に寝た。反対向きで。
そこから気づくと寝ていた。

モヤモヤモヤモヤ。

なに、モヤモヤ言ってんの?

チョコミント先輩はいつのまにかこちらを見つめていた。僕はモヤモヤを口に出していたらしい。時計を見ると始発がある時間だった。なんでもないですと言い、そそくさと帰ろうとすると、去り際に、

私は本気だからね。

と言ってきた。僕は駅のエスカレーターを降りていって電車に向かうのだが、その時ばかりは降りたばかりのエスカレーターをまた昇りたいと思ってしまった。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?