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acogale
500マイル
私は見送るのも見送られるのも苦手です。
新婚の頃、夫の転勤が決まり約300キロ離れた土地に引っ越す事になりました。
友人たちの「知らない土地で大変だね」という言葉に「大丈夫だよ」と私は答えました。
新しい場所に行くって不安より期待のほうが大きかったから。すごく楽しみにしていました。
出発の当日、見送られるのが嫌なので出発の時間は誰にも告げずにいました。
駅のホームで夫と二人、電車を待っていたら携帯が震えました。出発の二分前くらいだったと思います。
姉からでした。
「もう、出発の時間?」
「うん。言ってなかったのになんでわかったの?」
「なんとなく、そろそろかなって思って」
「あ、もうすぐ電車来る」
「じゃあ、身体に気をつけて」
「…ん」
切った後、なんだか胸に込み上げてくるものがありました。
自分では気がつかなかったけど、不安だったんだと気がつきました。
友人には平気なフリをしていましたが、本当は不安でいっぱいだったんです。それを悟られるのが嫌だったんです。弱味を見せるのが嫌だったんです。見送られるのが苦手なのは泣いてる姿を見られるのが嫌だったんです。
ほんの数秒のやり取りでしたが、その時の情景は今でも鮮明に覚えています。
駅のホーム、線路、電車の色、着ていたコート、くすんだ椅子、床にこびりついたガム、待合室の端に転がっていたコーラの缶、寒い日だったけど、暖かかった事。
500マイルという歌を聴く度に、この事を思い出します。
今でもそうですが、何年経ってもずっとずっと見送るのも見送られるのも苦手なんだと思います。