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つかみたい瞬間-若井麻奈美 《ひとりぼっちのヒーロー》(2014)

思い出すことができるだろうか。

ああ、きれいだ、とか、愛しいなあとか、そういう風に思って、頭や心を強くうつ瞬間というのは、誰しも持っていると思う。

たとえば、旅先でたくさん階段を上ったあとの、バン、と開けた景色とか、通勤電車からちらりとだけ見えた桜の木とか。誰かの寝顔とか、亡くなった人の表情とか、そういうのもあるかもしれない。

小学校に通う「ひとりぼっちのヒーロー」を描いたこの作品には、そんな、ずっと覚えておきたいような、大切な瞬間や、気持ちがたくさん見つけられました。

私が一番好きなシーンは、昼下がりの体育館で、外から差す光がほこりを照らしているところ。私は運動が苦手なので、体育館にはあまり良い記憶がありません。バレーボールは痛かったし、マット運動はできなかった。ペアを組んで、とかいうのも、いつも1人にならないか緊張していたように思います。

でも、マットの耳をしまうのは仕事として好きだったし、体育館中のほこりが日光に照らされて目の前で漂っているのを見るのは、楽しかったなと思い出しました。いつもは見えていないものが、優しく照らされて目に見えるということがとても好きでした。

ノートにたくさん書いてある描きかけの漫画や小説、プリクラ手帳、交換日記、中途半端な出来の図工の課題。あの時どういう気持ちだったか、くっきりとは思い出せない部分があるけれど、多分子どもとして、辛いなあと思うことや、色々に感じていることはあったわけで、この作品を観ていると、あの時の自分に対する気持ちや、かけてあげたい言葉が、たくさん頭に浮かびました。

自分に訪れた強い瞬間のことを、自分の手で記録できるアニメーションの作家の人は本当に羨まし い、と思います。たった10分の短い映像だけれど、とても優しくて、胸がいっぱいになる一作です。

作品はこちらからご覧になれます。


【作家について】

若井麻奈美
1989年 神奈川県生まれ。
多摩美術大学絵画学科油絵専攻
東京都藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻卒業
クリエイターズマネージメントFOGHORN所属

ミクストメディアのように様々な技法を取り入れたアニメーションを制作。その一見脱力系なキャラの醸し出す可愛らしさとは裏腹に、リリカルで、同時に誰もが共有出来る日常に潜む哀しみや喪失感を伝える独特のストーリーや作風は、コアなファンを中心に熱烈に支持されている。企業CMに加え、朝日小学生新聞での大型絵本の連載やEテレなど、知育系の案件も多い。「SANKAKU」で第16回学生CGコンテストグランプリ受賞。2013年よりアニメーション作家の新たな活動領域として注目される「ANIME SAKKA ZAKKA」を中内友紀恵、いよりさきと共に主宰。
http://jitojito.ninja-web.net/top.html

ふくしま空間創造舎 藤田琳



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