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夕陽射すトイレで泣いていたあの子へ

たしか中学2年の終わりか、その頃だったはず。
記憶が曖昧すぎて、季節もよく覚えていない。

私は運動神経が悪いくせにバドミントン部に所属していて、案の定初心者に毛が生えた程度の実力だった。
引退間近、バドの上手な同期が後輩と急に仲良くなり始めて「え、私最初から仲良かったのに」と嫉妬心に駆られていた。
最初まったく後輩と絡まなかったのに、最後せっかくだし〜って感じで仲良くするのあるあるだと思ってる。私はそれが悔しかったけど。

そして、ちょっと前にはクラス中から影でいじめられていたことを知って、主犯の子に直接言う場を担任に用意してもらったり、何かとストレスばかりの日々だった。(その子に直接何を言ったかも全く覚えていない。なんならいじめられていたことも友人から言われるまで気づいてなかった。バカな私)

なんかまぁ、中学生らしいことばかり起きていて、人間関係の面倒くささを感じていた。
あるあるだよね。

なんで上手く生きられないんだろう。
なんで素直に生きていたら損するんだろう。
なんで、なんで。

なんでばかりの日々だった。

早く大人になりたくて、自立したくて、心と身体がバラバラすぎて、毎日もがいていた。


ある日の放課後。
バドミントン部の活動中トイレに行った私は、女子トイレでうずくまっている女の子を見かけた。

入った時からうずくまってて、私が用を済ました後もそのままだった。

「声かけたほうがいいかな。え、どうしたらいいかな。とりあえず出るか……?」とめちゃくちゃに悩みながら、一度出ることを選んだ。

体育館へ少し歩こうとしたが、心の中の何かが引っかかって身体はまた女子トイレへ向かっていた。


ドアを開けて「ねぇ、どうしたの?」と声をかけた。

奥の窓から射し込む真っ赤な夕陽が、その子の全てを照らしていた。
泣いて赤らんでいるはずの頬も、何もかもわからないほど照らされていた。

私と同じなんだな、と一瞬で悟った。

その子はバレー部の子だった。
よくバドミントン部と体育館を半分こで使うので、見かけたことのある子だった。

目の前に私もしゃがんで、ほんの少し会話して「じゃあ先に戻ってるね」と伝えた気がする。

その日の帰りか、その次の日か、その子が私を呼び止めて「ありがとうございました」と言ったのはよく覚えている。

たしかメアドかLINEかを交換した気がするが、もうよく覚えていない。


あの時、女子トイレで泣いていたあの子は元気だろうか。
名前も顔も思い出せないけれど、あの日の夕陽だけはずっと忘れられない。

私のことは何もかも忘れてていいけれど、一緒にいたあの景色だけはどうか覚えていてほしいと思ってしまうのだ。

あのときの景色だけが、嫌な中学時代をほんの少しだけ明るく染めてくれてるのだ。



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