099.ポルノ映画 [蟹座9度]

私はポルノ映画に出演することになった。

ポルノ映画とは何なのか私はよく知らなかった。事務所の社長に聞くと、彼はこう答えた。

「人の気分を良くするために作られる映画だよ。つまり”良い映画”ということだね」

なるほど。私は理解した。

事前に用意されるという台本が手渡された。

「ここに書かれてることを言って、ここに書かれてることをやればいい。簡単だろ?難しいことは何にもない」

薄い台本をパラパラとめくってみる。

「つまりそれは……ここに書かれていることを言って、ここに書かれていることをやればいいってことですか?」

「そう!さすが理解が早いね、君は」

社長は満足気な様子でニッコリと笑い、私もニッコリと笑った。

社長は急に姿勢を正すと、私を真正面から見据え、力強く言った。

「これはモノゴトの締めを飾る重要な映画だ。みんなが必要としてる。ぜひ素晴らしいフィニッシュを決めてほしい」




家に帰ると、私は台本を読み込むことにした。書かれたことを言って、やるためには、事前にそれを頭に叩き込んでおく必要がある。

私はページをめくってみたが、読み進めるうちに、段々と険しい顔になってきた。

それはとてもひどかった。

「またか……。ここもだ」

ため息をついた。

誤字脱字が多すぎる。私はたまらず赤ペンを取り出して修正した。私は漢字検定3級を持っているし、間違いはスルーできない。二重取消線を入れ、その横に正しく書き直す。台本を書いたのも人間だから完璧ではないのだろう。

「仕方ないな」

一晩中かかって、私は間違いを修正し続けた。




撮影当日、私が現場に到着すると、そこは紅白歌合戦になっていた。

紅白歌合戦とは何なのか私はよく知らなかったので、事務所の社長に聞いた。すると、彼はこう答えた。

「人の気分を良くするために作られる番組だよ。つまり”良い番組”ということだな」

「なるほど」

私は頷いた。

「……でもせっかく台本を覚えたのに。全部無駄ですか?」

「大丈夫!基本は変わらない。それに、そんなに厳密にやる必要はないんだ。なんとなく合ってればいい」

「そうなんですか?」

「そう!だいたい同じだよ、台本なんてね。人間の考えることに、たいした違いはない」

妙な自信をもって断言するので、なんだか大丈夫のような気がしてきた。どうも全国向けの生放送らしいが、何とかなるだろう。

社長は姿勢を正すと、力強い言葉で私を送り出した。

「さあ素晴らしいフィニッシュを決めてくれ!」

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