「睡眠税 ‐Sleeping Duty‐」第2話【創作大賞2024 漫画原作部門】
36〇与沢斎場・外観・夕
建物の入り口付近に『故花沢博儀葬儀式場』と書かれた葬儀看板。
37〇同・玄関・夕
喪服を着た小堀と七星。
七星「お前マジでそんな話信じるのかよ?」
小堀「わからない」
七星「ちょっとは考えろよ!ブザーマンのお前に危ない橋渡らせて用が済んだら...... 自殺でも待つつもりだろ」
小堀「かもな。でもスミレが...... あそこに行くのだけはごめんだ」
七星「あそこ?」
七星の話を遮って中に進む小堀。
38〇同・二階・葬儀場・夕
花沢の遺影、花で彩られた祭壇と棺。
僧侶がお経を唱えている。
喪服姿で椅子に座り、うなだれる一同。
39〇同・同・控室・夕
喪服姿の綾乃と五本木の姿。
五本木「まずいですって、親戚でもなんでもないじゃないですか」
綾乃「私とデートしたかったんでしょ」
五本木「(小声で)こんなデート望んでないですって」
親戚達が綾乃の方を向き、
中年女性「えっと博さんの父方のいとこの...... 」
綾乃「圭子です。博さんとはしばらく会えてなくて...... この度は
ご愁傷様です」
頭を下げる親戚たち。
綾乃「そういえば、博さん、たしか整体師をしていたとか」
40〇同・同・受付‐ 階段通路・夜
受付をじろじろと見る小堀と七星、階段付近をうろうろしている。
七星「お前ももしかして用意してないの?香典とか」
小堀「( 溜息) そんな金あるならブザーマンになってないだろ」
小堀が心配そうにスマートウォッチを見る。
七星「...... 花さんにも、悲しんでくれる家族いてよかったな」
小堀「え、ああ...... 」
七星「あの人さ、いつも家族の為に働いてたろ?最後の最後に泣いてくれる家族や友達いてよかったよな」
小堀「(スマートウォッチを見て)そうだな」
七星「ちなみにお前が死んでも俺は泣かねーから」
小堀「ふん、知ってるよ、お前クールぶってるからな」
七星「(小堀から顔を逸らし)泣くなんてだせぇこと、俺にさせんなよ」
小堀「...... わかってるよ」
鴨志田の声「だからあの爺はGokuraku 案件だろ?」
牧尾の声「ですから亡くなる当日までShokunin で働いてたんです。うちの案件でしょ?」
鴨志田の声「爺が死んだのは深夜すぎだろうが!翌日からGokuraku で働く予定だったんだよ。つまりうちの案件だろ。
しゃがんで身をひそめる小堀と七星。階段の上を見る。
鴨志田と牧尾の足元。
牧尾の声「ちょっと待ってください!うちの方が件数少ないのは知ってるでしょ。協力してくださいよ!」
鴨志田と牧尾が階段を上がる。
小堀と七星、顔を見合わせる。
小堀「うちの会社の事言ってたよな?」
七星「爺って花さんのことか?」
階段を上がる七星。
小堀「おい、つけるのかよ?」
七星「なにか知ってる口ぶりだろあれ」
嫌そうな顔で七星についていく小堀。
41〇同・三階・廊下・夕
ひとけのない通路。部屋に入る鴨志田と牧尾。
ドアの近くには山積みになった段ボール。
しゃがみながら部屋のドア前で止まる小堀と七星。
部屋から漏れる二人の声。
七星「くそ、聞こえねーな。防音だな、これ」
小堀「ドア開けよーか」
七星「いや鍵がかかってる」
地面に座り込む小堀。あくびをして眠そうな表情。腕をつねって頬を叩く。
七星「なにへばってんだよ」
小堀「うるさい、寝てないんだよ、こっちは」
鴨志田達が入った部屋の一つ向こうにある備品室に気づく七星。
七星「(小堀の様子を見て)ちょっと休んでろ」
42〇同・同・備品室・夕
部屋に入り、棚の前で壁に耳をあてる。
七星「ちっ、だめか」
棚に無造作に積まれた遺影を見つけて手に取る七星。
中年男性の遺影。七星の驚いた表情。
遺影を次々と見て、口を手に当てて絶句する。
43〇同・同・廊下・夕
溜息をついて、立ち上がる小堀。ドアに近づき、段ボールに腰かける。
一番上の段ボールがくしゃっと崩れて地面に尻もちをつく小堀。段ボールが地面に落ちて、中からニコニコドリンクの缶が一つだけ地面に転がる。
備品室から飛び出てきた七星、すぐにドアを閉めて、小堀の元へ駆けつける。
七星「なにやってんだよ!」
小堀「くそ」
ドアが開き、鴨志田と牧尾が二人を不審そうに見ている。
鴨志田「関係者以外立ち入り禁止ですが...... どちら様ですか」
七星「あ、すいません迷い込んでしまって」
牧尾がじろじろと二人の格好を確認する。
段ボールと地面に尻もちをついた小堀を確認する鴨志田。
牧尾「参加者の方ですか?」
立ち上がり、何度も頷く小堀。
小堀「えっと、花さんの同僚で。ん」
鴨志田と牧野の顔をじっくり見る小堀。
牧尾「なんですか?」
小堀「あ、いや。すいません失礼します」
牧尾「待って、なにか盗み聞きしてたんじゃないですか?」
七星「(とぼけた顔で)ん?自分ら葬儀場に行きたいんですが?」
七星と小堀が二人に会釈して立ち去ろうとする。
鴨志田「(笑顔で)なんでわざわざドア付近の段ボールに腰かけたんですか?」
硬直する小堀と、とぼけた顔の七星。
七星「それは」
鴨志田「( 小堀を見て) こちらの方に確認していますので」
小堀「いや、ニコニコ飲みたいなーって思ってたので、つい!ごめんさなさい!」
鴨志田「この段ボールにはニコニコの表記なんてありませんよ?それにこの段ボール閉じられてましたよ?」
七星「馬鹿」
小堀「くそ!」
階段の方面へ走り出す小堀と七星。
鴨志田「牧尾、捕まえろ!」
追いかける鴨志田と牧尾。
よろめきながら走る小堀。壁沿いの段ボールや花を踏みつけ必死の形相。
牧尾「待て!」
小堀の足がもつれ地面に倒れる。
七星「小堀!」
七星が小堀の肩を掴むが、牧尾が小堀にとびついて足首を掴む。
鴨志田が小堀達を見下ろすようにして立つ。
鴨志田「お前ら本当はゴシップ誌の記者ってとこだろ?」
小堀「...... は?」
鴨志田「嗅ぎまわりやがって、このハエが」
鴨志田が足を振り上げて小堀の顔を蹴ろうとする。
小堀の手元のスマートウォッチが大きなブザー音を立てる。
機械の音「今すぐ睡眠税をお支払いください」
耳を押えて驚く牧尾と後退りする鴨志田。
七星が開いていた段ボールからニコニコドリンクを取り出し、鴨志田と牧尾に思いっきり投げる。
身をひねりうずくまる二人。
七星が小堀の手を引っ張り、廊下を駆け抜ける。
小堀「初めて睡眠税に感謝した」
七星「馬鹿、俺に感謝しろ!」
44〇同・同・二階‐ 一階・階段通路・夕
階段を勢いよく下りる小堀と七星。
45〇同・二階・葬儀場・夕
トランシーバーをつけた男たちがざわついている。
牧尾の声「だれかそいつら押えろ!」
関係者達が階段の方を見る。
綾乃と五本木が控室から出てくる。
階段付近では七星がトランシーバーをつけた男達にニコニコドリンクを投げつけるが、外れて綾乃たちの足元に落ちる。
ニコニコドリンクを手に取る綾乃。
× × ×
< フラッシュバック>
ニコニコドリンクを飲む立華。
綾乃「おじいちゃんそんなに仕事頑張らずに休んでよ」
立華「大丈夫、大丈夫。じいちゃんすぐ元気なるから」
× × ×
ニコニコドリンクを握りしめる綾乃。
綾乃が七星と一緒にいる小堀に気づき、
綾乃「あの人...... 」
46〇同・一階・玄関・外・夕
玄関から飛び出す小堀と七星。追手を振り切り、全速力でダッシュ。
47〇同・一階・玄関・中・夜
息を切らせ両手を壁につく鴨志田。
鴨志田「(周りにいる職員に向かって) おい、通夜やってる爺のファイル持ってこい!」
(第二話了)
第三話
https://note.com/momomodoodo/n/na7f91b1bb832
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