「睡眠税 ‐Sleeping Duty‐」第3話【創作大賞2024 漫画原作部門】
48〇バンクのオフィス・中・夜
椅子に座り、手を叩きながらほほ笑むバンク。
小堀と七星は汗だくで立っている。
床に座り込む小堀。疲れ果てた表情で両手をついている。
小堀「……バンクさん、人殺し以外ならなんでもするから...... 金貸してくれませんか?」
バンク「私の話を聞いてから、決められたらどうですか?」
バンクがニコニコドリンクを小堀に投げる。
ニコニコドリンクを一口飲む小堀。
バンク「まさか追われるなんてね。クーカム大冒険でしたね」
小堀「バンクさん、俺に何させたいんだよ!」
バンク「いいでしょう。説明します。ですが、七星さんを連れてくるとは聞いていないですよ」
七星「いいじゃないですか。俺も絡んだって」
バンク「しかしですね」
七星「俺から小堀に乗り換えた時の傷、まだ癒えてないなー。思い出したら動けないやー」
バンク「ふふ。まあ、いいでしょう」
バンク「今から私が説明する内容は、ある調査機関に依頼した調査報告書に基づくものです」
バンクがPC を開き、天井のプロジェクターからスクリーンにPPT の映像が映し出される。
小堀「バンクさん、俺、授業聞くと眠くなっちゃうんだけど」
バンク「クーカムはどちらにせよ寝れないので大丈夫でしょう」
七星「ぶはっ」
小堀「いや、笑えないって」
映像が切り替わり、画面上部に『スティックホールディングス』の文字。
その下に逆三角形の図。
小堀「本当に授業みたいだな」
バンク「今回の話の中心になる会社の名前です。聞いた事は?」
七星「ないですね」
バンク「まあ株をやってない限り聞かない名前でしょうね」
スクリーン画像の、逆三角形の一番下に『ふれあいセレモニー』の文字が表示。
バンク「そして、ここは『スティックホールディング』が運営する葬儀会社です。ちなみに、お二人のご両親は健在ですか?」
七星「ああ」
小堀「二人とも死んでます」
小堀をじっと見つめるバンク。
バンク「……クーカムのお父様は、告別式などは行いましたか?」
小堀「そんな金なかったから、火葬しましたよ」
バンク「そうですか」
七星「今時通夜がある方が珍しいよな。花さん所がレアだよ」
バンク「おっしゃる通り、日本の葬式では直葬、つまり火葬がもはや主流です。没落した日本では葬式代も負担が大きい。つまり自社斎場を持っているとはいえ、『ふれあいセレモニー』のように火葬場を持っていない葬儀会社は儲からない」
七星「なるほど」
バンク「葬儀ビジネスは特殊でして、その地域で亡くなったらそこで葬儀を行うものです。またご存じのように現在は多死社会のピークは過ぎ、葬儀自体の件数も減っています」
七星「たしかそれニュースで聞いたな」
バンク「国民が貧しく安い直葬しかできない上、遠くからの集客も見込めない。クーカムが『スティックホールディング』のオーナーなら、この現状でどうやって集客しますか?」
小堀「うーん笑顔で接客するとか?」
バンク「七星さん?」
七星「直葬は増えてんだろ?なら火葬ビジネスに移行するとか?」
バンク「方向性は悪くないです。しかし火葬場のほとんどは公営ですし、民営はすでに大手が支配しているので、参入は現実的に無理でしょう」
七星「なら手を引くか、それか他のビジネスに投資する」
バンク「そう『スティックホールディング』は儲からない葬儀ビジネスから手を引いて、ある事業に投資したのです」
PPT の画面、逆三角形の左上に『Gokuraku 』の文字。
小堀「えっ、うちだ」
バンク「そう。年々私達外国人が増加していることを背景に、『Gokuraku 』は全国にチェーン店を拡大し、現在100店舗にまで増えています。もちろん需要がある仕事ですので整体師の数も増加している。年間の売上高は、ざっと40億くらいでしょう」
小堀「そんなに儲かってるなら給料あげてくれよ」
七星「つまり、うちが赤字の葬儀会社の補填をしてるってことか」
バンク「そうです。でもね、『スティックホールディング』は気づいたんですよ。お荷物の葬儀会社を『Gokuraku 』を活用して、効率的に復活させる方法にね」
小堀「わかった!おれら社員が出張で葬儀会社の連中をほぐしてやるんだろ。やる気もでるし」
PPT の画面、逆三角形の『Gokuraku 』から『ふれあいセレモニー』に向けて辺が赤く染まる。
バンク「むしろ逆です。『Gokuraku 』から生まれた死者を『ふれあいセレモニー』で処理するのです」
七星「死者ってまさか...... 」
小堀「ちょっと俺ついていけないですけど、なんでうちから死者がでるんですか?」
バンク「クーカム、私が言いたいのは、あなた達が死者にカウントされているという事です」
手を顎に当てて考え込む七星。
バンク「...... クーカム、『Shokunin 』はご存じですよね?」
小堀「うちの系列の従業員が70歳以上しかいないっていう」
バンク「そこが何時間営業か知ってますか?」
七星「...... 24時間」
PPT の画面、『Gokuraku 』の隣に『Shokunin 』の文字が表示。
バンク「正確に言えば、赤杖が主に死者として狙っているのは『Shokunin 』で働く老人達です。睡眠税に追われて働かざるを得ない老人達。赤杖は安い賃金と長時間労働で彼らを酷使して、死が訪れるのを待っているのですよ」
49〇Shokunin・内観
疲れ果てた表情で、外国人たちの体をほぐす老人の姿。
足元にはニコニコドリンク。
50〇バンクのオフィス・中・夜
眉をひそめる七星。
小堀「流石に...... 赤杖さんでもそこまでしないだろ。な、七星?」
七星「いや...... さっき見たんだよ。俺が今までいた店舗から『Shokunin 』に異動したおじいちゃんやおばあちゃんの遺影を何個も」
小堀「え?」
七星「お前覚えてるか?佐伯さんと仲代さんの遺影もあった」
小堀「嘘だろ」
七星「ほんとに何かあるのかもしれない。さっきの奴らも俺らを新聞記者かなにかと勘違いしてただろ?どっかの記者が調べてるのかも」
バンク「新聞記者?」
七星「ああ。さっきおれらを襲ってきた坊主と眼鏡のおっさん達が言ってた」
考え込むバンク。
七星「でも『Shokunin 』で亡くなった人がそんな都合よく『ふれあいセレモニー』にいくか?」
バンク「...... 『Shokunin 』は『Gokuraku 』と違い、都内にしか店舗を出店していません。そして出店エリアは『ふれあいセレモニー』が直営斎場を持っているエリアとほぼ被ります。そして重要な点ですが、『Shokunin 』で働く老人達は大体勤務先の近くに住んでいます」
小堀「ん?どういうこと?」
七星「...... 例えば、立川に住んでいて、『Shokunin 』立川店で働いている老人が亡くなると、立川周辺の斎場で葬儀するだろ?『ふれあいセレモニー』は立川に自社の斎場も持ってるから、遺族としては利用する可能性が高いって意味だと思う」
バンク「調査報告書によると、スタッフが出勤しない場合は、必ず店側が本人や家族に連絡を入れて安否確認をするそうです。仮にスタッフが亡くなっていたら、相談にのる体で『ふれあいセレモニー』へと誘導しています」
小堀「でも葬式なんてする金ないでしょ?みんな睡眠税払うので精一杯ですよ」
バンク「赤杖が抜け目ないのは、『Shokunin 』に応募してきた老人の『病歴』と『家族』について徹底的に調べてから採用することです。先がなく、妻や子、孫の資産状況が一定の条件をクリアした老人しか『Shokunin 』で働けないのですよ」
小堀「でも花さんは一生懸命働いてたんですよ!身内が金もってるならあんなに働かないでしょ?」
バンク「クーカム、必ずしも金を持った子が年老いた親を助けるとは限らないのですよ。赤杖は、親に対して後ろめたい感情を持った子に最後くらい親孝行をさせるために、言葉巧みに火葬ではなく一般葬へと誘導しているのです」
七星「えげつないな...... 」
小堀「うそだろ... 」
バンク「クーカムには言いにくいのですが、赤杖さんが『スティックホールディング』の二代目です。つまり全てのビジネスの指示を出しているのは彼であり、私がクーカムに殺してもらいたい人物も彼です」
力なく床に座り込む小堀。
七星のスマホが鳴る。
七星「神田さん?もしもし」
通話しながら頷く七星。
バンク「クーカム、何日寝ていませんか?」
小堀「二日、いや三日くらい」
バンク「もう限界でしょう。今日決めなさい。自分と奥さん、それと赤杖の命、どれ選ぶかを」
七星「いやあいつ、携帯の充電が切れたみたいです。あ、ちょっと待ってください。おい小堀!お前今日社長のマッサージする予定なんだろ?社長待ってるみたいだぞ」
バンクが指を鳴らし、小森が棚からケースを出す小森が小型のジェラルミンケースを小堀の目の前で開く。中には注射器が一つだけ入っている。
バンク「日ごろから針を使うクーカムにぴったりの道具でしょう。これで赤杖の好きな死を引き起こせます。この注射器の中身は、もちろん検視に引っ掛かりません。効き目も数時間後に表れます。つまりクーカムが疑われる心配はありません」
震える手で注射器を手に取る小堀。心配そうに小堀を見つめる七星。
小堀「……なんでですか」
バンク「はい?」
小堀「バンクさん、なんで社長を殺したいんですか?」
俯くバンク。
バンク「...... 大切な人を傷つけられたからです」
バンクが小森に合図して、小森が小堀の肩を掴む。
小堀「ちょっと、まだ話は終わってない」
小森が小堀を部屋から追い出す。
(第三話了)
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