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「おはよう」の魔力


ここ2年以上、
平日はほぼ毎日
「おはようございます」
「おはよう!」
のメッセージだけ
やり取りしている人がいる。

相手は私が以前勤めていた会社の、
中国工場のスタッフの中国人の男の子。

日本語はペラペラで、
日本からのメールやSkypeでのやり取りも
スムーズに対応してくれていた。

コロナ禍以前の中国出張でも
色々アテンドしてくれたり
通訳をしてくれたり、
お世話になっていた。

そんな彼は当時まだ会社に入りたてで、
20そこそこのとても若い青年だった。

彼が中国工場に入社してきて
少し経ったある日、
私のSkypeに彼から
「おはようございます」
とメッセージが入っていた。

まだその会社に在籍中だった私は
「おはよう!」
とだけ返して、
何か用があるのかな?と
その後のメッセージが来るのを
待っていたけれど、
特に用事がある訳ではなかったらしい。

会社の他の人にも聞いたところ、
どうやらみんなに毎朝
「おはようございます」
とメッセージを送っているらしい。

私は
「ヘ〜、毎朝こうやって挨拶してるんだ〜」
と思った。

聞くところによると、
彼の上司が、
まだ入社したばかりの新入社員の彼に対して、
日本人スタッフ全員に
(と言っても小さな会社だったので10人程度)
毎朝挨拶することを義務付けた、
というような内容のことを聞いた。

その話を聞いて、
中国人の上下関係とか仕事観ってのも
結構厳しいんだな〜、
とぼんやり思った。

そんなこんなでその男の子と
(もちろん他の中国人スタッフとも)
Skypeのチャットで仕事のやり取りや、
たまに恋バナ等の雑談をしたり笑、
日々の仕事をこなしていた。



そして約2年前、
私が転職をすることになった。

当時は緊急事態宣言が出ていたりで
外出自粛ムードが今よりかなり濃厚であった。

新しい会社でも週の半分以上は
在宅勤務で仕事をしていた。

ただでさえ新しい会社で
新しい人たちに馴染むのにも
時間がかかるのに、
週の半分以上が在宅勤務だったので、
当時の私はなかなかの孤独を感じていた。

正直なところ、
馴染みのある前職の人たちが
恋しく感じてもいた。

そんな風に寂しく思っていた日、
ふとスマホを見ると、
例の中国人の男の子から
「おはようございます」
とメッセージが来ていた。

なんと、
私がその会社を辞めても変わらずに
朝のルーティンの挨拶を送ってくれるとは…

単純に嬉しい…笑

私は
「辞めても挨拶を送ってくれてありがとう!」と喜びを彼に伝えた。

そしてその後1か月くらいはまた引き続き、
おはようだけのメッセージを
やり取りしていた。

しかし、
それからぱたっと来なくなってしまった…

「そりゃそうだよね。
会社辞めた人間にまで
挨拶してくれてる方が変だよね…」

と自分を納得させつつ、
寂しさを誤魔化していた。

しかし2週間ほど経ったある日、
また突然「おはようございます」
とメッセージが入っていた。
「旧正月で休みでした」とも。

そっかそっか、
よく考えたらこの時期
中国旧正月だったもんね!
仕事がある日だけ挨拶してくれてるから、
そりゃ送れないわな!

と、私は内心とても嬉しかった。

「失ってみて初めて気づく」とか
「押してダメなら引いてみろ」だとか
よく言うが、
もし恋愛に悩んでいる人や
何かのマーケティング、消費者心理等を
担当している方がいたら、
まず一旦引いてみることをオススメする。

もちろん彼が人を沼らせようと
していた訳ではないことは承知しているが
(わざとやっていたら
かなりのテクニシャンだ)、
孤独を感じていた当時の私には、
その毎日送ってくれる
「おはようございます」が
とてもありがたく、
とても嬉しいものだった。

それから約2年、
引き続き朝の挨拶のやり取りをしている。

私もすぐに返せなかったり、
返信を忘れてしまうことも
あったりだけど(ごめん!)、
彼がその会社にいる間は
挨拶してくれるのではないかと
密かに期待している。

単なる「おはよう」の4文字で、
当時の私はとても救われたし、
今でもその毎朝の挨拶で1日が始まっている
と言っても過言ではない。

もし彼が日本に遊びに来ることがあれば、
ぜひ喜んで日本を案内したいなと思っている。

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