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「#9月入学本当に今ですか」に賛同します

新型コロナウイルスによって休校が続いたことにより、学校を「9月入学」にしてはどうかという話がまた持ち上がっています。
私は今回に限っては、この「9月入学」には反対の考えです。
現在、ネット上で「#9月入学本当に今ですか」という署名活動が行われており、そこに賛同の署名をさせていただきました。

過去数十年の間に、学校の9月入学論というのは何度か持ち上がってきています。これまでの議論では、9月入学にしたほうがいい理由としては、世界のスタンダードに合わせることによって、海外からの学生をもっと増やし、国内の人材確保をグローバル化していこうというものが主でした。
今回はそうではなく、「コロナで休校になって授業ができなかった分を、9月入学にすれば取り戻せるのでは」という理由も大きなものになっています。

私が今回に限って9月入学に反対する理由は、「これ以上教育現場を混乱させ、教育を停滞させ、子どもたちを混乱させないでほしい」からです。
3月から3カ月間の休校中、多くの学校では確かに授業は大幅に遅れてしまいました。でもそんな中でも、オンラインを使って授業を進めていた一部私立の学校もあります。学習塾でもオンラインで学習指導を進め、通常ならばこの6月までに学習指導要領上こなしているはずの単元まで教えているところは多くあります(私の塾でも、復習に時間をかけなくてもいい子は夏くらいまでの単元をオンラインで履修してもらっています)。

一方で、学校がオンラインに出遅れてしまったのは、大きく、予算の問題と、現場の価値観がなかなか変われなかったことや対応できる人材がいなかったことなどがあったと思います。
お金と価値観の問題で、ICT化が大きく遅れている教育現場は、それでも文科省から「オンラインに切り替えていきましょう」という呼びかけに応じて必死に準備を進め、ようやく今、ちらほらとオンラインでの取り組みをスタートさせています。
学校教育のオンライン化については、私もこれまで学校の先生たちに取材をしてきましたが、一刻も早く進めるべきだと懸命に取りかかってきた若手の先生たちも多くいらっしゃいました。それでも、3カ月かかってようやくです。「教頭や校長などに理解をしてもらうのに苦労している」という声も多くありました。
予算やそれに応じた環境の面では、「学校のサイト上で映像授業を配信しようと思ったけれど、サーバ容量が足らず、15秒の動画が限界だった」なんて声も聞きました。

もうこの時点で、グローバル以前に、IT社会というスタンダードからだいぶ出遅れていたというのがハッキリしたというわけです。この状態で、よく「グローバルスタンダード」を目指そうと言えるな……と私は思ってしまいます。
そんな私も偉そうなことは言えず、「いろんな環境の子がいる中で、一斉にオンライン指導を進めるのは難しいのでは」なんて3月半ばくらいまでは考えていました。ただ、そんなことを言っていられないと4月から導入したところ、案外やれるもんだな、という実感を得ることができました。もちろん、生徒全員がビデオ通話ですぐに繋がれるというわけではありません。でも各生徒の環境に応じて、できることはいろいろあったわけです。一律に同じことができなくても、その子に合わせてサポートし、ひとりひとりを「一歩でも前に出す」ことは可能だったのです。
でも、「各家庭の環境が違うため、オンラインだと平等な教育ができない」ということをオンラインを導入しない理由として掲げている学校も多くありました。
9月入学にしてグローバルスタンダードを目指す前に、もっとやることがあるのではないでしょうか?

また、今、9月入学が支持される大きな理由は「学習指導要領を今年度中にこなすため」だと思います。
でも、教育って、学習指導要領を消化することだったんですっけ?
休校中、学校はたくさんのプリントを生徒たちに配布し、生徒たちはせっせとそれをこなしました。もし全生徒がそのプリントで学習を進めて、その範囲を全部理解することができたら、それで教育はOKということになるんでしょうか? そういう、ノルマ的なものが教育なんでしたっけ。

この長い休校期間は、もしかしたら日本全体が「教育って何だっけ」と考え直すチャンスだったのかもしれません。
学習指導要領を消化し、たくさんのことを暗記し、テストで最大瞬間記憶力が試され、そこで高い数値がとれれば偏差値の高い学校に進学することができて、みんなが知っている大学に行ける。そうしたら、大きくて有名な企業に入れて、安定して稼ぐことができて……って、ホントに今そうですっけ。もうそんな時代、とっくに終わっていますよね。
9月入学になったところで、こういう日本の教育を、海外の人がわざわざ受けたいと思うんでしょうか。根本的にいろいろズレていませんか、と思います。学校だけでなく、せーのでみんな同じ時期に新卒採用試験を受けなくてはいけないという慣習も含めて、それって今の世界の中で何か特別に大きな価値があるんですっけ。

とはいえ、私の塾でも、この休校期間には「学習を遅れさせないように」と学習指導要領の消化のために動くということをやってきました。正直、このズレた価値観の教育に乗っかってると言わざるを得ません。
子どもたちに休校中の不安(授業についていけるかなとか)を与えたくないし、いざ学校が再開したときに大きな学力差がついてしまっているということも避けたい。それによって「ウチは貧しいから」「自分はバカだから」と思ってたくさんのことを諦めるようなことになってほしくない。そのためには、学校で習うはずのことをしっかりサポートすることはとても重要だと考えています。だから、無料塾をやっています。
でも、それと同時に、「教育ってこれでいいの?」ということは問い続けていきたいと思っています。
面白いから深く学ぶ、学んだらもっと知りたくなる、学んだことをどう活かすか考える、新しいアイデアを生み出す、思いも寄らなかった発見をする……。そういう学びに子どもたちにはもっともっと触れてほしい。そういう教育であれば、世界中から「日本で学ぶことによって、イノベーティブなことができるようになる!」「日本で学べば、世界をよりよくする力が身につく」と、学生たちも集まってくるのではないでしょうか。
そういう学びに触れるチャンスは、休校中にいくらでもあったのではないかなと思います。大人がその環境を整えてあげることもできたはずです。ちょっと私の塾では、そこまで手が回らなかったことは、大いに反省しています。

もうひとつ。人は人との関わりとの中で成長していくソーシャルな生き物です。
授業が通常通りに行えなくても、「関わる」ということは、学校や地域社会がもっと意識してできたはずなのではないかと思います。
学校では、ただでさえ昨今は先生たちがめちゃくちゃな仕事量に追われてブラック化しているところ、これからさらに過重労働になっていくことが予想されるので、地域社会での支えというのも子どもたちの育ちにとっては大きなポイントになっていくはずです。

こういう、未来に向かって育っていく子どもたちに、今このときに大人は何をすべきかという根本的な部分を見直すことなく、9月入学にして、学校の現場をさらに疲弊させ、その結果根本的な部分がもっとないがしろにされていくということは、どうしても避けてほしいと考えます。それ以前に、やることがとてもとてもたくさんあるはずです。
その一歩は、社会にいる大人たちひとりひとりが、教育というものをじっくりと見つめ直してみることにあるのかもしれません。

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