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観光客の訪れないお稲荷さん

  祇園を東西に貫く花見小路には、大勢の人々が訪れます。
 でも、小路を右へ左へとふらりと曲がると、とたんに人影が少なくなります。
さらに奥へ奥へと進むと、お茶屋さんが軒を並べる中に、桜や紅葉のシーズンですら観光客の訪れない、知る人ぞ知る「有楽稲荷大明神さん」があります。
物語の中には、何度も登場します。
ある個所では、こんなふうに描きました。
 
「拓也は、お社の方を向いて、立ち止まった。有楽稲荷大明神は、織田信長の末弟の織田長益、別名・有楽斎を祀る小さな小さな神社だ。有楽斎は利休の十哲に数えられ、茶人として有名なことから花街では「芸事精進」の信仰を集めている。見れば、普段着の着物を来た女の子だった。お稲荷さんに向かって、頭を垂れて肩を小刻みに震わせている。
「あっ」
と、拓也は声を漏らした。その後ろ姿に見覚えがある。屋形「浜ふく」のところの「仕込みさん」だ。何度か、お茶屋へ料理を運んだ際に、見掛けたことがある。「仕込みさん」とは、舞妓になるための修業中の娘のことをいう。芸事の他、行儀作法、花街での習わしを仕込まれることから、その呼び名がついた。」
 
 そうです。
「仕込みさん」とは、奈々江ちゃんのことです。
 奈々江ちゃんは、つらいこと、悲しいことがあると、有楽稲荷さんにお参りにやってきます。
 ときには涙を流することも・・・。
 
 先日も、取材の帰り道に立ち寄ったら、小路の向こう側からやってきた30歳くらいの料理人らしき人が、有楽稲荷の前で立ち止まり、手を合わせてお参りをされていました。
 まんじりとも動かず祈る姿からは、何か「気」が発せされるのを感じました。
きっと、奈々江ちゃんのように悩み事があるのか。それとも、料理の腕の精進を祈っておられたのでしょうか。
 
  実はここは、私道で写真撮影が禁止の区域なのです。
 心無い観光客が、これからお座敷に出掛けようとする芸舞妓さんを取り囲んで写真を撮ろうとしたり、中には舞妓さんの袖を引っ張ったり、かんざしを取ったりする人もいると聞きました。びっくりしたのは、お茶屋さんの扉を開けて、勝手に土足で上がり込んでしまう海外の観光客もいるそうです。祇園という街を、テーマパークと勘違いされているのかもしれません。
それを防ぐために、地元の自治組織である祇園町南側地区協議会が京都市や東山警察署などとキャンペーンを実施しているのです。
 そのため、写真をアップすることができません。
ごめんなさい。
 おみくじがユニークなので、ぜひお参りの際にはひいてみてくださいね。

 

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