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『リコリス・リコイル』オリジナル作品の世界観を伝える難しさについて

『リコリス・リコイル』を見終えた。この時期(2024年7月)だが初見だった。物語の感想は機会をみて徐々に綴っていきたいと思うが、一通り見終えてまず考えたのは、この物語のジャンルは何だったのかだ。
その思考過程で気づいたのは作品独自の世界観を伝える製作者側の難しさと、先入観を持って作品に接する視聴者側(つまり私)の愚かさだ。


意外な作品との共通性

これまでにいくつかの作品のジャンルを『SAVE THE CATの法則』の定義を参考に分類し、投稿してきた。例えば、

  • 『ぼっち・ざ・ろっく!』のジャンルは金の羊毛

  • 『けいおん!』のジャンルはバカの勝利

  • 『ゆるキャン△』のジャンルは難題に直面した平凡な奴

といった具合だ。大きな傾向としてシリーズ物の作品は単体映画とは異なり、そのボリュームゆえに複数ジャンルの組み合わせで構成されている場合が多い。
今回『リコリス・リコイル』を視聴し、物語中盤まで進んだ時点の私の見立ては、この作品は『響け! ユーフォニアム』と同じジャンルという印象だった。

何だと? 『リコリス・リコイル』と『響け! ユーフォニアム』が同じジャンルの物語だと?  Hello? Anybody home?
などと言われそうだが、以前投稿したエントリーで紹介したとおり、『響け! ユーフォニアム』は、

  • 黄前久美子と高坂麗奈の関係性を描く「バディとの友情

  • 北宇治高校吹奏楽部というグループの狂気を描く「組織の中で

を組み合わせた物語だと私は解釈している。

『リコリス・リコイル』の基本構成

これと比較してリコリコの場合は、

  • 錦木千束と井ノ上たきなの関係性を描く「バディとの友情

  • リコリスが所属するDA(Direct Attack)というグループの狂気を描く「組織の中で

この2つの組み合わせが物語の基本構成だと当初の私は見ていた。

バディとの友情
(『リコリス・リコイル』アニメシーズン1・第4話より)

ところが、物語を終盤へと見進めていくにつれ、いくつか疑問点が出てきた。
まず、「バディとの友情」としてこの物語をとらえた場合、

  • 物語を通じて大きく変化するのが主人公

  • 一方のバディは主人公の変化を促す役割なので、バディ自身はそれほど変化しない

  • この物語で大きく変化したキャラはたきなの方

  • 千束は物語序盤から終盤までほとんど変化がない

となる。
この原則に当てはめると、この物語の主人公はたきなであるべきだが、どうみても主人公は千束だ。これはおかしい。

次に「組織の中で」としてこの物語をとらえた場合、物語に必須となる3つの要素(グループ、選択、犠牲)を見ていくと、

  • グループはDA(Direct Attack)で、これは十分すぎるほど狂気をはらんだ組織だ

  • 犠牲は物語中で死亡したリコリスたちだろうか

  • 死亡せずとも、没個性でショッカー戦闘員と変わらないリコリスは存在自体が既に犠牲者ともいえるので、これも原則を満たしているようだ

しかし、選択にあたるものが見当たらない。
比較対象の『響け! ユーフォニアム』では、吹奏楽部の活動目標を「全国大会金賞」と設定するのが選択にあたる。そして、この選択によって物語が展開し、グループが持つ狂気に振り回される形で様々な犠牲が生じていく。

目標は全国大会金賞
(『響け! ユーフォニアム』アニメシーズン3より)

リコリコで「選択」の候補になるとすれば、最終決戦の際に千束がDAと一緒に戦うと決めたことかもしれないが、こちらもどうにも腑に落ちない。

見落としていた大きな要素

モヤモヤした気持ちで最終話まで見終えたのだが、結局『リコリス・リコイル』のジャンルは何だったのか? 明確な見解が固まらないまま、私はつらつらと作品を振り返っていた。

そういえば、最終決戦の戦闘シーンはキャプテンアメリカとウィンターソルジャーの戦いに似てたなぁ、 オマージュなのかなぁ、、、

かきーーん!

そうか! これは『スーパーヒーロー』の物語だ!! なぜ今まで気づかなかったのだろう。

物語のジャンル『スーパーヒーロー』は文字通りにスーパーヒーローの活躍を描く内容だが、重要なのは、

  • スーパーパワーを有するヒーロー/ヒロインは、その力に代償が伴うことを認識している

  • それゆえにヒーロー/ヒロインも苦悩や葛藤を抱えている

  • そうした苦悩や葛藤を乗り越えて使命を果たす姿を描く

こうした内容を備えていることだ。そして、この手の物語に必須の3つの構成要素をリコリコに当てはめると次のようになるだろう。

1.スーパーパワー
 主人公・千束は驚異的な動体視力や身体能力を持つ。この能力をもとに弾丸を避けるほどの体術を駆使し、他に類をみない暗殺者としての素質を備えている

2.宿敵
 物語にはスーパーヒーローに匹敵する能力を持つ敵の存在が不可欠だ。驚異的な聴覚能力で千束と互角にやりあう真島がこれにあたる

3.弱点または呪い
 千束は心臓に病を持っていた。それを人工心臓で置き換えることで生きながらえているが、稼働期間に限界があるのが最大の弱点だ。
また、千束は敵であっても殺さない(殺せない)。これは呪いであって弱点だ。この物語で敵を殺せないがゆえに、千束が何度も危機に陥ったのはそのせいだ。

一度気づいてしまえば『リコリス・リコイル』はジャンル「スーパーヒーロー」の定義にぴったりだ。私は当初、リコリコは初期設定が多すぎて視聴者の認知負荷が高く、「人工心臓の設定、必要か?」などと思っていたが、やはり重要な設定だったと納得できた。

オリジナル作品の世界観を理解するのは案外難しい。フィクションの度合いが高ければなおさらだ。今回私も間違ったジャンルを予想することで物語の性質を正しく理解できていなかった。
視聴中、「各キャラのイメージカラーはスーパー戦隊っぽいな」と気づいていたにも関わらず、この物語の本質が「スーパーヒーロー」であることには思い至らなかった。
先入観というのは恐ろしい。予断を持ちすぎて作品に臨むのは愚かな行為だと反省した。

しかし、こうした作品は世界観を一度理解してしまえば、作中の様々なエピソードに込められた深い含意を感じ取れるようになる。2周目を視聴しながら、次回以降ではキャラクターの深堀などを進めていきたいと思う。


参考情報

本ブログで使用している物語のジャンル名(「金の羊毛」「バディとの友情」など)は下記エントリーで紹介しているので、興味があればご参照ください。


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