見出し画像

『ウマ娘 プリティーダービー』奇跡の名馬の物語(番外編)

前編を書いてからしばらく経ったが、後編の前に番外編だ。自分語りっぽくなるけど、いいですか、ルパさん?
競走馬を擬人化した『ウマ娘』という作品を楽しむにあたり、モデルとなったリアルなトウカイテイオーがどんな馬だったのか、もう少しだけ述べたいことがある。それらを知った上でアニメ・シーズン2を見直してもらうと、何か違った発見があるのではないかと思う。


有馬記念の前夜

トウカイテイオーの有馬記念での復活劇をドキュメンタリー化した『テイオーの夢 「復活」』という映像作品がある。残念ながら現在では入手が困難で、ざっと探した感じでは動画も出回ってないようだ。

今でも大切に持ってるVHS版

この作品中に、競馬記者の佐藤洋一郎氏が有馬記念出走前のトウカイテイオーを見に行った(牧場か?トレセンか?)という話が出てくる。ここで語られた内容が、トウカイテイオーの特異性を示す興味深い内容なので、少し長いが書き起こした。

今年の有馬記念はビワハヤヒデの方が強いでしょうって話してたら
(テイオーが)それを聞いててね、瞳孔がシュッとしぼんでね、睨み付けてね
そしたらバッと向いてね、このラチぞいをダーーーっと走ったの
そして向こうまで行ってピタッと止まって、ぐるっと回ってまた来てね
また止まって、2回くり返したの

あのときビックリしたねぇ~、なんだこの馬!
骨がね、鳴るの、キシキシビシッ、ラチから30cmくらいのところを
それで戻ってきてね、パッと止まって、こうやって見てたら
(僕の腕を)ガブって噛みついて離さないんだ
かなりきついの、歯形がしばらく、3日くらいとれなかった
そういうところがあってね

今は1年、1年半ぶりくらいかな、2年ぶりか
今見ると馬の目つきというか、表情というか、顔つきというか
全体がまろやかになったね
今も10分も20分もじっと立ってるでしょ
昔はあんなことなかったね、あの馬はね

だから、頭のいいっていうか、あの当時は、競走馬のときは
反抗的というんじゃなくて、自己の確立っていうか
自分自身の世界をちゃんと持っていた馬で
人との付き合いが下手っていうより、人なんか無視してたって感じがある
(中略)
テイオーなんか見てると、馬の中に不思議な人間が住んでて
その人間のレベルっていうか、質の高さが普通じゃなくて
超人っていうか、もうあるいは神、鬼神が乗りうつったような
そういう妖気漂うような、ねぇ、不思議な世界をもった馬ですね

ただ、何十頭、何百頭と馬を見てるけど
こういう馬にはめったに出あわない
お父さんのシンボリルドルフっていう馬も
けっこうそういうところがあったんですけど
テイオーの場合はそれが、より何ていうかな、具体的にみえてて

僕は現役時代はテイオーには馬券的にはケンカしたんだけども
実際に馬に近づいてみると
そういう神秘を深くたたえた馬の凄さっていうか
そういうものに非常に魅かれますね

『テイオーの夢 「復活」』より

競馬記者がやってきて
「今度の有馬記念はビワハヤヒデが勝つだろ」
と話していたら、それを聞いていたトウカイテイオーが
なんだと! 俺の走りを見ろ!!
とばかりに、その記者の前で猛然と走りだして2往復した。しかも、腕に噛みつく抗議行動のおまけ付きだ。そりゃ、驚くというものだ。何というか、こんな逸話からも感じるのは、トウカイテイオーは尋常な馬じゃないってことだ。

特級怨霊・トウカイテイオー

前回のエントリーで、トウカイテイオーが生まれた長浜牧場の長浜スミ子さんの発言を引用して、テイオーは『呪術廻戦』でいう特級怨霊だという説を紹介したのだが、上記の佐藤記者の逸話もそれを裏付けていると言えるかもしれない。

その長浜スミ子さんが『テイオーの夢 「復活」』の中で、こんなことを語っている。

あの馬(テイオー)に限って、負けるなんてことないと思ってたもんね

長く競走馬の生産育成に関わってきた彼女は競馬の世界の厳しさを熟知している。レースに出れば勝利する馬は1頭のみ。残る十数頭は敗北する。普通の競走馬にとってレースは負けるのが当たり前の場だ。
それを知っていてなお、彼女に「負けるなんてことない」と言わしめたトウカイテイオーという存在のある種の異様さを感じることができる。一体どれほどの競走馬だったのだろうか。ちょっと想像がつかない。

トウカイテイオーと同世代(1991年クラシック戦線)の競走馬たちは当初、世代自体のレベルが低いのではないかという説があった。だから、トウカイテイオーが相対的に強く見えるだけという言説も一部であったように記憶している。
しかし、古馬になってからのトウカイテイオーの勝利レース(数は少ないが、大阪杯、ジャパンカップ、有馬記念)を見るとそうした批判が当たらないのは明白だろう。

特にジャパンカップや有馬記念のようにゴール前で競り合ったときの競争能力は凄まじい。有馬記念のゴール前がわかりやすいが、ビワハヤヒデとトウカイテイオーは一完歩のリズムがほぼ同じでありながら進む距離に明確な差がある。(ジャパンカップでのナチュラリズムとの競り合いもほぼ同様)
あのような展開のレースでトウカイテイオーに競り勝てる馬がいるのだろうか?これまたちょっと想像がつかない。

トウカイテイオーの血統について

ここで取り上げるのはシンボリルドルフとの親子制覇云々ではない。今となっては記憶が曖昧なサラブレッドの血統論についてだ。

現在では全く失念してしまって誰の著作だったかわからず、検索しても出てこないのだが、私があの当時に読んだとある血統論によるとトウカイテイオーの血統は「シーバード・アレッジド型」に分類されていた。この型の特徴を簡単にいうと、

  • 競走馬としては驚異的能力を発揮するが、その能力は産駒に伝わりにくい

というものだった。ちなみに、シーバード(Sea-Bird)、アレッジド(Alleged)共に海外の歴史的名馬だ。
誤解のないように補足すると、トウカイテイオーがシーバードやアレッジドの血統を受け継いでいるという話とはもちろん違う。血統の配合(いわゆるインブリードやアウトブリードというあれ)がこの両馬に似ているという血統分類方法のことである。

確かテイオーが引退した直後くらいにこれを読んだ記憶があり、種牡馬としてのテイオーの将来を不吉に予言するの内容だったわけだが、その後、トウカイテイオーの種牡馬としての成績が振るわないという話を聞いて、「あぁ、やっぱりそうだったか」と感じたことを覚えている。

しかし、繰り返し取り上げているトウカイテイオー特級怨霊説で考えれば、この結果も仕方ない。過去の馬たちの無念さを背負い、内に鬼神を宿して走るテイオーの能力は遺伝ではないのだから。

さて、長々とリアルなトウカイテイオーについて述べてきたが、これらの踏まえた上でアニメの『ウマ娘 プリティーダービー』でテイオーがどのように描かれたのかを次回の後編で見ていきたい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?