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『異世界失格』異色の主人公が視聴者の共感を得るには
相当に異色の主人公を擁する本作、今期(2024年夏アニメ)の私の一押しだ(ただし、瞬間風速の可能性あり)いわゆるなろう系出身かと思ったがそうではないそうで、異世界転生モノにしては一味違うのはそのせいらしい(前回は十把一絡げなどと書いて済みません)。
今回は、ちょっと風変わりな主人公が視聴者の共感を得るにはどうすればよいのかという話。
キャラクター構成について
私は原作未読だが、アニメ『異世界失格』は第5話終了時点で主要キャラが出そろったようだ(OP映像との比較による推測) まず、例の物語の登場人物5大典型と照らし合わせて本作のキャラクター構成を見ると、
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(『異世界失格』アニメシーズン1・第5話より)
「若くて明るいナイスガイ」タイプ:???
「かわいい隣の女の子」タイプ:タマ
「わんぱく小僧」もしくは「賢いやんちゃ坊主」タイプ:ニア
「セクシーな女神」タイプ:アネット
「セクシーな男」タイプ(上記の男性版):???
さて、本作の主人公「センセー」はどれにあたるだろう。
若くて明るいナイスガイ? それはない。
セクシーな男? ちょっとあるかも。
私は5大典型に次ぐタイプの1つ「愛すべき優男」タイプと解釈している。センセー(転生前は「先生」)は愛人(さっちゃん)を心中に巻き込むほどの高い魅力をもった、文字通りの優男だったと想像されるからだ。
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そのセンセー、物語のお約束として異世界にやって来たのだが、
いきなり大量の錠剤を服用する
勇者の使命を諭されるが「知らんよ、そんなこと」と拒否する
「死に場所を探している」と言う
という波乱の幕開けを披露する。
おいおい、お前、この物語の主人公なんだろう? そんなんで大丈夫か?? と視聴者の関心を強烈に引き付ける。よし、つかみはOKだ!
ただし、問題はこんな主人公で視聴者の共感を得られるのかどうかだ。
物語のテーマは
優れた作品は物語の序盤で主人公の目的やテーマを明示する演出が必ずある。本作もそれに漏れない。それは、
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さっちゃん、君もこの世界に来ているのか
...
僕は今、この酔狂な異世界に生きる意味を見つけたのだ
...
この世界のどこかにいる君をきっと見つけ出す
「愛する人にもう一度会いたい」、これは誰もが共感できる人間の根源的な欲求だ。さっちゃんとの再会、これがセンセーの目的であり、そこに至るまでに予想される数々の困難にいかに立ち向かうかが物語のテーマだ。
ここに表現されているとおり、この物語のジャンルは「金の羊毛」になりそうだ。
「金の羊毛」物語の必須3要素を本作に当てはめると、
道:
文字通りの旅路、愛するさっちゃんを探す異世界での旅チーム:
第5話で揃ったメンバー(タマ、アネット、ニア)が今後の旅を共にするチームになるのだろう。
ちなみに、チームメンバーは主人公に欠けているスキル、経験、姿勢などを備えている設定が多い。ところが、センセーは何しろ「Lv1、HP1、MP0、スキルなし」のステータスで、あまりにも様々なものを欠く人物のため、チームの誰がどの部分を補う役割なのか不明な点が多い。今後、物語の進展と共に徐々に明らかになるだろう報賞:
さっちゃんと再会すること。「そして、心中せねば!」だ
主人公の資質は十分
主人公は自らの意思で物語を展開する人物だ。そして、人物の実像は見た目や発言ではなく、行動で示される。本作序盤のセンセーの行動を振り返ると、
異世界の恐ろしさを目の当たりにしながらも、「僕はもう行くよ」と行動を開始する
「せめて職業を身に付けて」と勧めるアネットに「僕は生まれながらに作家だ」と明確な自己確立を示して拒否する
タマを救う戦いの後、さっちゃんを探す目的を認識し、旅を始める
センセーは外面の印象では消極的で周囲に流されやすい人物のようだが、実際には強い意思と独自の信念を持つ、確たる大人であることが行動で示されている。捻りにひねった設定のキャラであることを考慮すると、主人公の資質は十分であり、物語のテーマ(愛する人との再会)も加味するなら、視聴者の共感を十分に引き出せる人物だと私は思う。
(ここで重要なのは共感であって、好感でなくても構わないことだ)
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あとは、物語を通じてセンセーのどんな変化が描かれるのかが焦点だ。もう一つ加えるなら、金の羊毛ジャンルの作品にしばしば登場する「道端のリンゴ」がどんな逸話として構成されるかにも関心がある。物語の続きを見るのが楽しみだ。
参考情報
本ブログで使用している物語のジャンル名(「金の羊毛」「バディとの友情」など)は下記エントリーで紹介しているので、興味があればご参照ください。
https://note.com/momokaramomota/n/n59516100fd93