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『ガールズバンドクライ』最終話でトゲナシトゲアリを待ち受けるもの

ターニングポイントの第8話以降、毎週毎週これほどまでに続きが待ち遠しかった作品はこの十数年で記憶にない。ついに迎える最終話、その展望を期待も込めて。


「道端のリンゴ」はあったのか?

ストーリーテリングの手法で用いられる「道端のリンゴ」とは主人公たちの成功の目前で現れ、その成功を阻止し、障害となるものと定義される。前回のエントリーで本作でのリンゴはメジャーデビューに関わる何かだと予想を述べた。

第11話で彼女たちはフェスで確かな爪跡を残し、事務所とあっさり契約できた様子が第12話で描かれた。契約までに一波乱あるかと思ったが、フェスでの三浦さん(芸能事務所のスカウト)の様子にすっかり騙されたわけだ。

三浦さん(シーズン1・第11話より)

しかし、これをバンドの成功と呼んでいいのだろうか?

考えてみれば、事務所との契約は単なる通過儀礼に過ぎない。桃花は過去に経験済だし、beni-shougaの2人(ルパ&智)も事務所から声はかかっていたのでそこに手を伸ばすかどうかだけだった。すばるはジャンルは違えど芸能界の厳しさを理解し、この程度は成功のうちではないと思っているだろう。

つまり、仁菜だけが経験不足のため契約できたことのみで過度に浮かれてる状況だ。この物語は残り1話分の時間しかないが、それでもこの経験の差が最終話でメンバー間の軋轢の原因になると予想される。

物語は最終的なクライマックスへ

この物語でラスト前・第12話時点のトゲナシトゲアリにとって、デビュー曲のヒットが当面の目標となる成功だとして、道端のリンゴは何なのか?

ここまでくると、ダイヤモンドダストの策略による対バンがリンゴだと考えるしかない。しかし、フェス後のエゴサの結果からも、メンバー同士の会話からも、人気面でダイヤモンドダストに勝てないことは皆わかっている。それでも対バンをやるという。

それで思い出したことがある。劇場版『さよなら銀河鉄道999』でのキャプテン・ハーロックの名セリフだ。

男なら、危険をかえりみず、負けるとわかっていても戦わなければならないときがある。

キャプテン・ハーロック(劇場版『さよなら銀河鉄道999』より)

そうだ。彼女たちにとって、負けるとわかっていても戦わなければならないときなのだ。それは、

  • 元ダイダスとして音楽スタイルを貫いてきた桃香の意地であり

  • ヒナと因縁があって今のダイダスを偽物だと断じる仁菜の信念であり

  • そんな2人を理解して支えるすばる、智、ルパの友情であり

  • 5人のメンバー全員のバンドマンとしての心意気だ

そして、負けるとわかってなお戦いに挑む姿勢こそが彼女たちのロックなのだ。

物語の幸せな終幕に向けて

最終話の前にもう一度振り返っておこう。この物語のジャンルは主人公が成功を追い求める中で様々な人物との出会いを繰り返す「金の羊毛」だ。
サブジャンルとしては『頑張れ!ベアーズ』のような「スポーツ羊毛」、『オーシャンズ11』のような「犯罪羊毛」などがあるとされる。バンド活動を主題とする本作はスポーツ羊毛の派生形だ。

金の羊毛の物語において、探し求めていたものが最終的に手に入るか否かは重要ではない。
おそらくダイヤモンドダストとの対バンでトゲナシトゲアリは敗北するだろう。それは既にわかっている。覚悟もできている。
しかし、この物語で本当に追い求めている価値はそんな目先のちょっとした成功ではない。

第1話で上京してきたばかりの仁菜を思い出してほしい。彼女は物語を通じて着実に成長した。
2人でやった路上ライブを思い出してほしい。今、5人となった彼女たちの小指を立てた力はどんな困難にも立ち向かうことができる。

さあ、勝負のときだ
覚悟はできているか
心して見届けよう
感動の最終話を!

シーズン1・第11話より

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