見出し画像

『異世界失格』教皇はプールで泳がない

物語の世界観やストーリー展開の背景などを視聴者に理解してもらうには、どうしても状況説明が欠かせない。特に映像作品の場合は小説やマンガとは異なり、その説明箇所を脳内で早送りできないため、表現が冗長になり、視聴者が物語に没入する妨げとなる。それを克服する手法について、ちょっとした気づきがあったのでそれを紹介したい。


プールで泳ぐローマ教皇

毎度おなじみ、バカの一つ覚えで引用し続けている『SAVE THE CATの法則』にこんな説明がある。

状況説明とは、ストーリーの展開をよく理解するために必要な詳しい背景説明のことだ。でもそんな説明をダラダラして、貴重な映画の時間を無駄にしたくはないだろう?しかもたいていは退屈なものだから、せっかくのシーンを殺しかねない。複雑なプロットになればなおさらで、最悪の部分である。
(中略)
この中にローマ教皇を訪れた代表団が細かい背景説明をするシーンがあるのだが、マイクは実に巧妙なトリックを効かせた。このシーン、どこで起きたと思う?ヴァチカンのプールなのだ。しかも水着を着たローマ教皇がプールで泳いでいる間に状況説明が行われる。

ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則』株式会社フィルムアート社より

要するに、視聴者の目を引く意外性のあるシーンを設定し、その様子を表現する中でつまらない状況説明をやってしまうということなのだ。

で、先ごろ視聴した『異世界失格』(今年の夏アニメでこれが一番面白いと思う)で、これのアンチパターンがあった。一堂に会した司祭たちが自己紹介を兼ねて、各管轄地の近況報告を行うシーンだ。
登場キャラを紹介しながら、この物語の世界観を視聴者に理解してもらい、この先の展開の伏線を張るのがこのシーンの目的だと私は解釈している。そして、まさにキャラクターの1人として教皇まで登場するのだが、残念ながらプールで泳ぐシーンではなかった。

『異世界失格』(アニメシーズン1・第5話より)

十把一絡げの異世界転生モノでも、一生懸命に考えた設定はあるのだろうが、この歳になると細かな設定は覚えられないし、正直そこまで興味もない。多くの視聴者が同じなのではないかと思う。

『ガールズ&パンツァー』の場合

一方で、「プールで泳ぐローマ教皇」が効果的に使われているシーンの事例は?と考えたときに『ガルパン』が挙げられそうだ。
ガルパンの世界で視聴者がまず理解すべきは「戦車道とは何か?」だ。物語の開始早々、生徒会長が主人公に

「今年の必修選択科目なんだけどさ、戦車道とってね」

と脅迫まがいに話すシーンがある。「戦車道?何だよそれ??」と視聴者の関心をひいた上で、その必修選択科目を全生徒に説明する場を設定する。そして、実際には物語中の生徒達だけでなく、というよりも、むしろ視聴者に向けて「戦車道とは何か」を説明しているのだ。

必修選択科目の説明会
(『ガールズ&パンツァー』アニメシーズン1・第1話より)

また、この説明会シーンはこれから登場する主要キャラたちの顔見せも兼ねており、かつ、各チーム結成前のメンバーがどんな組み合わせだったのかをさりげなく表現する小ネタとしても利用されている。

例えば、後に三突に搭乗することになるカバさんチームの4人は、この説明会時点では欧州組と日本組の2人ずつに分かれている、などだ。

欧州組
(『ガールズ&パンツァー』アニメシーズン1・第1話より)
日本組
(『ガールズ&パンツァー』アニメシーズン1・第1話より)

『ラブライブ!サンシャイン!!』の場合

まず余談だが、最近になって『ラブライブ!サンシャイン!!』を見始めた。初見だ。『ガールズバンドクライ』の監督:酒井和男、脚本:花田十輝の組み合わせだと聞いて興味を持ったのだが、正直言うと挫折寸前だ。

というのも、私はキャラクターを見分けて顔と名前を覚える能力を『ガルパン』で使い果たしてしまったため、『ラブライブ!サンシャイン!!』の登場人物を見分けられないし、もちろん名前も覚えられない。
(ちなみに『ガルパン』では、例えば劇場版には正式な名前を持つキャラが77人も登場する。ちなみに、これには「役人」を含んでいる。最終章が進行中の現在ではこの数は100人を突破している)

そんな中でも、この「プールで泳ぐローマ教皇」に当てはまりそうだと感じたシーンがある。
それはカタブツそうに見えて、主人公たちのスクールアイドル活動に反対する生徒会長が、意外にもスクールアイドル活動のマニア的なファンである様子を描きつつ、ライブのルール説明(例えば、オリジナル曲が必要なことなど)を上手く盛り込んでいる各種のセリフや演出だ。

『ラブライブ!サンシャイン!!』
(アニメシーズン1・第2話より)

この作品をこの先も視聴し続ければ、もっと他の例も挙げられるかもしれないが、今はここまでの簡単な例示に留まる。
「プールで泳ぐローマ教皇」、いろいろな作品で使われてそうなテクニックなので、もう少し探してみたい。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集