不正を生み出す心理的安全性の欠如
GOODからGREATへ
ビジネス書としては古典に類すると思うが『ビジョナリー・カンパニー 2』(原題"GOOD TO GREAT")を読んだ。私にとってのインフルエンサーの方が「愛読書でこれまでに7回ほど繰り返し読んだ」と言われていたので関心を持ったからだ。
本書の内容は各所で多数紹介されているので詳しくは触れないが、おすすめの読者層は
企業の経営者
経営者を目指している人、起業して経営者になろうと考えている人
就職/転職活動で優良企業を調査している人
などで、私のような負け組サラリマンが読んでも「今の会社はGREATになれそうにない」という感慨しかわいてこない。それでも取り上げるのは、GOODからGREATへ飛躍した企業の1つとして登場する米国の金融機関ウェルズ・ファーゴに関心があったからだ。本書によれば、1983年に飛躍の転換点を迎えた同社は銀行業界が規制緩和で大きな変化に直面する混乱の中、以後15年間で、
ほどの大成功を収めた。ウェルズ・ファーゴについていくつかの興味深い記述があるが、
多くの銀行が伝統的な銀行業を事業だと考えるのに対して、ウェルズ・ファーゴは「自分たちの事業領域がたまたま銀行業だった」と発想を転換した
重視する財務指標を「ローン1件あたりの利益」から「従業員1人あたりの利益」に変更した
企業運営の無駄を省く取り組みを率先垂範し、規律ある企業文化を築くために、経営陣の報酬を2年間凍結、経営幹部専用の食堂やエレベーターを廃止、社有機を売却、経営幹部用オフィスに鉢植えを置くことや無料コーヒーの提供を中止、などを行った
などである。本書では1998年までの業績しか触れられていないが、ウェルズ・ファーゴはその後、2000年代に入っても躍進を続け、時価総額はアメリカの全銀行中で第1位、全米の約3分の1の世帯を取引をもつ巨大銀行へと成長した。しかし、よく知られている通り、この飛躍の背後には大きな闇が潜んでいた。
不適切なマネジメントが組織的不正を生む
ウェルズ・ファーゴの不正行為については様々な報道があるが、心理的安全性の観点からの分析は下記書籍に詳しい。
それによれば、
"Going for Gr-Eight"(目指せ、8商品販売!)という販促活動を進め、1人の顧客に対して8つの金融商品/サービスを販売する「クロスセル」戦略を推し進めた
各層の従業員に歩合制の報酬制度が導入され、目標の達成が収入や雇用継続に直結する状況が作られた
目標達成に向けた進捗の追求は厳しく、ある支店では毎日4回の進捗報告が求められ、日々の販売目標が達成できなければ帰宅が許されないこともあった
しかし、達成は到底困難な無謀な目標であり、失職を恐れる従業員は徐々に不正(顧客に内緒で商品を契約したことにする、など)を行うようになった
社内で不正行為の存在が次第に明るみとなり、コンプライアンス教育も行われたが、無謀な目標設定は変更されなかったため、従業員の不正行為を止める効果はなかった
とある。(上記書籍の第3章をもとに記載)こうした分析を読むと、ウェルズ・ファーゴの大規模な不正行為の原因は、個々の従業員のモラルの問題では決してなく、経営陣の不適切なマネジメント手法と、それを是とする好ましくない企業文化にあると考えざるを得ない。
日本でも昨年、ビッグモーターやダイハツの組織的な不正行為が話題になったが、こうした事件の原因はほぼ例外なく経営陣のマネジメント手法の問題に帰せられると思う。おそらく例外はない。「ビッグモーターやダイハツを他山の石としてわが社もコンプライアンス遵守の徹底を!」などと寝ぼけたことを言ってる経営者は、まずわが身を省みることが第一歩であると肝に銘じてほしと強く思うのである。
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