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ありがとう、ふーた。

取材のために3月末に秋田に帰ったものの、1週間くらいの滞在にしようかなと思っていた。
ところが取材先の都合もあって、4月5日まで滞在を延ばさなければならなくなった。
別に急ぐ用事もないし、7日まで滞在することに決めた。

ふーた、5㎏。19歳のおじいちゃん。
高いところに乗って、うっすら雪が積もった山を見てる。

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温厚で穏やかで、いつも大音量のグルグルを響かせていた。

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ムフフ顔。(^ω^)


4月2日の朝がた、夢を見た。
ふーたが床にぺったりと座って鳴いている。
大きな声でわーわー鳴いていたそのとき、語尾に言葉が聞き取れた。
耳を疑った。ふーたがしゃべった。
でも夢だから、大袈裟に驚いたりしない。平静を装って対応する。
ごはん食べる?と聞くと、「たべない~」と言った。
水飲む?と聞くと、「うん~」と言った。
大丈夫?と聞くと、「だいじょうぶ~」と言った。

なんかへんな夢みたなあと母に話して、取材に出かけた。

その日の夕方、ふーたが突然歩行困難になった。
まっすぐ歩けない。
足を踏ん張っていられない。
左後ろ脚が麻痺しているようだった。
水(お湯)を飲むのも一苦労。
食べ物は受け付けなくなった。

3日、麻痺が両脚に出始めた。
動く前脚で姿勢を変えるのがやっと。
それでもいつものトイレまで歩いて行って(後ろから支えてようやく)なんとか自分でトイレを頑張った。
近くにトイレを作ったけれど、気に入らないようで使いたがらなかった。

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4日、病院に行った。
歳も歳だし劇的な改善は望めないにしろ、すこしでも希望があるならと思った。
ひどい脱水と低体温。
輸液して上半身を起こせるようになった。
お湯が飲みたいときやトイレに行きたいとき、知らせてくれるから賢い。
ゆたんぽを敷き詰めて脚をマッサージしたら、グルグルいった。

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5日、取材を終えて帰ってきた。
呼吸は安定している。
寝返りもうてなくて、体勢がしんどくなると知らせてくれる。
お湯は少しだけ飲むけど、水分不足を自分で補えるほどは飲めない。

7日に帰らなければならないことが頭をよぎる。
今月後半もう一回帰って来れれば…そのときまでもってくれれば…

取材の疲れをお風呂で流していたそのときだった。

母がわたしを呼んだ。

湯舟から飛び出て髪もびしょびしょのまま、バスタオルだけ巻いて走った。
これだけ頑張って長生きしてくれたふーたに、「待って」と言いたくなかった。
けど、待って。
せめて床がびちゃびちゃにならないくらいは身体を拭かせてくれ。

ふーたは口を開けて呼吸していた。
息を吸ったり吐いたりするとぜーぜー音がでる。
瞳孔は真っ黒く開いている。

ぜー、ぜー、と息する背中をさすった。
呼吸の回数がだんだん減っていって、もう肺が膨らまなくなっても、皮膚の下で心臓が動いているのが目視できる限りは背中をさすった。

ついに心臓の動きも確認できなくなった。

ものの10分。

あまりにすんなり、苦しまず、垂れ流さず、綺麗で立派な最期だった。

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今日桜が咲いたんだよ、ふーた。
綺麗だね。
かわいいかわいいふーた。
わたしに最期をみせてくれた。

こんなふうに苦しまず、きれいなままで逝くことは珍しい。
7匹看取ってきた母が言った。

わたしもふーたみたいに、かっこいい最期を目指したい。

ありがとうね、ふーた。
ずーっと、だいすきだよ。

わたしの好きを詰め込んだマンガですが、届いてくれることを願って。応援いただけると本当に嬉しいです。